経済成長を考える

伊那食品工業

「持続的な低成長」で社員の幸せをつくり出している、世界中のモデルとなる企業が日本にあります。

「かんてんぱぱ」のブランドで有名な国内トップの寒天メーカーである伊那食品工業は、創業以来連続48期増収増益を続けていることで知られ、最優秀経営者賞(日刊工業新聞社)などを受賞しています。社員数は約400人、売上高は約200億円。「永続的な安定成長を続けることこそが会社の目的であり経営だ」という塚越寛会長にお話をうかがいました。

――成長は大きければ大きいほどよいと考える人が多いですが。

「急成長は憂いこそすれ、喜ぶべきものではないと思っています。利益や成長は、あくまで企業が永続するための手段で、目的ではありませんから」

――最初からそうお考えだったのですか?

「いえ、21歳で赤字続きの会社の社長代行となった当初は、『急成長したい、儲けたい』と成長を追い求めていました。しかし本来、"あるべき姿"を悟ってからは、『どのように成長を続けたらよいか』を考えて経営をしています」

――そのなかで、相場商品だった寒天の安定供給体制を確立し、産業用も含め国内シェアの7割を担うようになったのですね。

「ええ。会社とは生活の糧を生み出す手段ですから、永続することで、より多くの人を幸せにできます。社員やお客様にとっての幸せとは何かを本気で考えたら、株価のためにリストラをするなど、考えられないはずです」

――望ましい成長率を計算して、経営されてきたのですか?

「いいえ。当たり前のことをきちんとやれば、望ましい成長が得られるものです。例えば、社員を大切にすること、会社をきれいにすること、いいものをつくること。つまり、本来あるべき姿を見失わないことだと思います」

――低成長のためには、抑えることも?

「ええ。成長する会社の伸びを抑えるのは、経営者として楽しいことですよ。伸ばそうと思うと悲壮感が漂います。利益を拡大再生産に投資するのではなく、維持のために必要な投資をした残りは、地域に寄付をするなどしています。

地元の人が利用できるホールを造ったほか、現在は社会貢献として『食育パビリオン』を造る計画を進めています。再投資を制御するとお客様にお返しができ、ファンが増え、ますます会社の状態が良くなり、またお返しが増えるという好循環ができます」。

(「エルネオス」の連載「枝廣淳子のプロジェクトe」2006年より)

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