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総務大臣補佐官 太田直樹 聞き手 枝廣淳子 Interview13

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「異物」の立場から見える世界

枝廣:
コンサルタント時代にされていたことと、現在のお仕事の本質は似ていますか?
太田:
それはすごくいいポイントですね。ある経営者の方に言われたのですが、コンサルタントって「異物」なんですよね。異物として、違う意見を言ったり、内側からでは出ないようなアイデアを出したりするのがコンサルタントの力だと思います。基本的にはアウェイで仕事をします。社長から雇われて、しかも法外な値段を払ってきてもらっているわけですよ。お手並み拝見、から始まりますから、そういう意味では今の立場はかなり似ているのかなと思います。
ひとつ違うのは、経営の世界というのは儲かるか儲からないかで決まるのに対して、政治や行政の世界は感情がいっぱい入ってきます。今でいうと、たとえば「不安」ですね。これはたぶん原子力から、築地の魚市場、AIもそうなんですね、なんとなく不安という感情。不安って、どこかで線を引くのだと思うんですが、いろんな線があったり、線がない中でも話さないといけないとものすごくモヤモヤしたり。
あと地域も、霞が関もそうだと思いますが、「ねたみ」。地方で話を聞いていると、なんであの人ばっかり司会しているんですか、みたいなこともあります。いろいろな感情が入っていて、その度合がやはり企業の世界とは違うなあと思います。
枝廣:
企業であれば利益など、ある一定の指標がありますよね。それに向けて動くので、ねたみがあったとしても、結局その指標をめざすということになります。国で動いていくときには、そういう指標がないですよね。そうなると対人関係とか、立ち位置とか、感情的なものが出てきますか?
太田:
出てきますね。それがまだ経済成長していたときにはいろいろな指標があって、中でも成長という一番強いキラキラしているものが照らされていたんだと思いますが、今はそういうものがないので、そうするとやはりどういくの?ということについて、なんとなくみんな不安を感じているように思いますね。

下り坂へ、ころばないようにー

枝廣:
ブータンをはじめ、幸福度を指標にしようという国もあります。仮に日本が、GDPは指標にならないから国民の幸福度をどれだけ上げたかを判断の指標にしようということになったら、また何か変わるでしょうか。
太田:
変わってくると僕は実は楽観的に思っています。それは地方をいろいろまわっている中で感じたんですね。一番感じたのは海外ですが、着任して2か月くらいのときにオーストリアにあるギュッシングという町に行ったときです。
※ギュッシング:再生可能エネルギーによる地域活性のモデルといわれているオーストリアの町。オーストリアで最も貧しい地域とかつていわれていた。
参考:イーズ未来共創フォーラム>エダヒロ・ライブラリー
2015年11月18日「木質バイオマスで地方創生 オーストリア「ギュッシング・モデル」とは何か
転職が決まって、地方創生の本をいろいろ読みました。処方箋のような本を読んで、生産性が大事だとあったら、そうかもしれないなって思ったりして。でも一方で理屈はそうかもしれないけれど、本当のところはどうなのかなって思っていて、着任して2ヶ月目にギュッシングに行きました。もともとはオーストリアで一番貧しいと言われていた地域から未来が出てくる。その時に「君にこの言葉を贈るよ」と、シュンペーターの言葉を贈られたんです。「なにごともはじめはバカにされる。次は反対されて、最後は当たり前になる」。
写真:ヨーゼフ・シュンペーター
ヨーゼフ・シュンペーター
ガンジーも近いことを言っていますが、それがこの5~6,000人の町から生まれ、いまEUの中でも再生可能エネルギーのセンターになっています。こういうことが起こるんだということをそのときに見られたのはすごくよかったなと思います。おそらく日本でもいくつか出てくるだろうと思います。しかも社会全体を変えるようなものがでてくるような気がしていて、そこが自分としては希望が持てたところなんですね。
とはいえ日本は今、がっちりと既存の仕組みがあって、官僚機構が最たるものですが、誰かが撤退戦、店じまいのようなものをやらなければいけないんだろうなとも思います。それは社会システムの話ですから、1、2年の話ではなくて10年、20年の話になるでしょう。そこをころばないように下り坂のほうにうまく入っていく、というのをどちらかというと私はやっています。おもしろいことを作っていく人たちに対してはそういう立場から応援できるように関われたらいいなと思います。
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