100人それぞれの「答え」

i_enq_nophoto.gif

064

会社員

YOさん(30代 男性)

この20年、日本の経済規模の拡大はほぼゼロにもかかわらず、生態系の多様性は失われ続けており、ゼロ成長・マイナス成長が経済以外の価値の保全や回復につながっていない

Q. 経済成長とはどういうことですか、何が成長することですか

経済成長とは、 シンプルに経済がより良くなっていくことだととらえています。 私は経済を、生産性の向上や、経済活動の規模拡大というよりは、人の生活や営みを成り立たせている基盤・プラットフォームと考えており、それが成長するということは、多くの人に幸せをもたらすと考えています。具体的には、基盤である経済の成長によって、そこに属する人が活躍する場がより広がり、ポテンシャルを発揮でき、多くの人とつながり、幸福感を日々感じながら過ごせるようになっていく、そのプロセスそのものが経済成長であると考えたい。

Q. それは望ましいものですか、それはなぜですか

望ましいと考えます。経済はあくまで人の暮らしを成り立たせているプラットフォームと考えているので、それがよくなっていくこと自体は望ましいと考えます。ただし、経済成長自体ではないものの、成長の「過程」や「結果」が時間的・地理的・社会的に歪(いびつ)であったり、地球や他の生き物に負の影響を与えることがある場合、うまく折り合いをつけていくことが大切だと考えます。経済成長が望ましいか否かは、どの程度の時間軸で考えるのか、負の影響をどの程度織り込むのかなど、個別の視点から論じるとさまざまな意見があり得ると思いますが、長期的には個別の課題を克服しつつ成長していく経済、というかたちに落ち着くのでは? と考えます。

Q. それは必要なものですか、それはなぜですか。必要な場合、いつまで、どこまで必要でしょうか

ひじょうに長い目で見ると、経済には自然に成長する仕組みがビルトインされていると思いますし、要不要の理屈が通じるものではないと考えます。むしろ、1つの現象というほうが自然に感じられます。
ですので、人が生き続けていく限り、その速度や高低はさておき、成長し続けていくと思います。それは経済だけでなく、社会も、考え方も、1人ひとりの生き方も、終わりがあるというものではなく、ずっと続いていくサイクル、長い歩みであると思っています。そのサイクルの中で、自分の世代の受け持ちをきちんと果たしていく、そこが大切ではないでしょうか。

Q. 経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか

今の速度、規模、あり方のままで続けることは明らかに無理があると考えます。エネルギーや資源の問題、気候変動、生物多様性への影響など、歪な成長がもたらしてきた負の側面が目に見える形で私たちに影響を与え、それが経済の成長をも阻害するという負のフィードバックが生じさせているといえるでしょう。ただし、だからといって成長自体がすべての元凶とは私は考えていません。肝心なことは、経済成長をより良くマネージしていく、その知恵にかかっているでしょう。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか、それは何ですか、なぜ生じるのですか

そもそも今のペースで世界の経済が成長し続けることに無理があると考えますので、このままの勢いで成長していくのなら自ずと犠牲が伴うと思います。それは多くの方が指摘されているように、気候変動などをはじめとした環境面での大きなインパクトとなって返ってくるでしょうし、社会的なコストとしてのしかかってくると考えられます。

Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか

例えば日本全国の森林の多くが、手入れされず放置されている現状がありますが、これは経済成長のあり方が少しまずかった一例と言えるのではないでしょうか。森林を適切に管理するための長期的視野に欠け、がむしゃらに植林を続けた結果、木材価格下落などの外部環境変化を受けて、持続性が失われてしまいました。同時に、外部的に見えないコストだった様々なもの、例えば杉の過密植林による花粉症の問題や雑木林から人工林への転換で失われた生態系の問題などが、当初は予想しなかったかたちで人の暮らしに悪影響を与えています。

結局のところ、経済成長そのものというより、日本の場合、これまでの成長のあり方に問題があったケースが多いのではないか、という印象を持っています。先ほどの森林について言えば、経済成長の犠牲としての森林荒廃とも言えるし、そもそも森林の持続的価値の創出に失敗した(成長しなかった)からこうなった、とも呼べるかもしれません。逆にこの直近20年、日本の経済規模の拡大はほぼゼロですが、にもかかわらず生態系の多様性は失われ続けており、残念ながらゼロ成長・マイナス成長が経済以外の価値の保全や回復につながっていないことが指摘できます。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか

相互補完関係にあると考えたい、というのが率直な印象です。これは両者の定義次第で何とでも言えるわけですが、人の生活や営みを成り立たせている基盤・プラットフォームとしての経済が成長し、それに伴って人々が潜在力を発揮してより幸せになっていく、そしてその相互連関が持続していく、というのが理想的な均衡状態でしょう。そのためには、きちんとした先の見通しを持って、バランスを大切にする、ということが何より大切だと考えています。


インタビューを終えて

外資系企業のCSR担当をされているYOさんにはいつもいろいろ教えていただいていますが、今回のインタビューでも大事な点をいくつも指摘していただきました。
「経済には自然に成長する仕組みがビルトインされていると思いますし、要不要の理屈が通じるものではないと考えます。むしろ、1つの現象というほうが自然に感じられます」。
「(犠牲を伴うから)だからといって成長自体がすべての元凶とは私は考えていません。肝心なことは、経済成長をより良くマネージしていく、その知恵にかかっているでしょう」。
このあたりはさらにお考えを聞いてみたいところです。
そして、「この直近20年、日本の経済規模の拡大はほぼゼロですが、にもかかわらず生態系の多様性は失われ続けており、残念ながらゼロ成長・マイナス成長が経済以外の価値の保全や回復につながっていない」という鋭いご指摘には考えさせられました。経済成長の負の側面としての環境破壊は多くの方が指摘し、私もよく口にしますが、経済成長しなくても、負の側面が反転していないというのは、いったいどういうことなのでしょう???
ここのところ、しっかり考えてみたいと思います。ありがとうございました。

取材日:2015年2月21日


あなたはどのように考えますか?

さて、あなたはどのように考えますか? よろしければ「7つの問い」へのあなたご自身のお考えをお聞かせ下さい。今後の展開に活用させていただきます。問い合わせフォームもしくは、メールでお送りください。

お問い合わせフォーム(幸せ経済社会研究所)

i_mail.png