100人それぞれの「答え」

写真:中村 俊裕さん

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コペルニク(Kopernik) 共同創設者/CEO

中村 俊裕(なかむら としひろ)さん

途上国の現地パートナーは、周りの人たちが直面している課題を解決できるテクノロジーを販売して、利益を得て、それで彼らの生活も楽になっていっている

Q. コペルニクは、途上国の人々が生活を良くする安価なテクノロジーを使えるように、テクノロジーを持って製品を作っている企業と、途上国の現地パートナーと、寄付者・支援者をつなぐ、という活動をされていますが、そういった活動を展開されている中村さんにとって、経済成長とは何でしょうか。何が成長することでしょうか。

われわれが一緒にやっている途上国の現地パートナーを考えると、たとえば売店のおばちゃんとかが、われわれがテクノロジーを持っていくことで、周りの世帯の人たちが直面している課題を解決できるようなものを販売して、利益を得て、それで彼らの生活も楽になっていっているんです。こういう仕組みというか、インセンティブというのは、すごく変化が起こりやすいですね。

たとえば、売店のおばちゃんの売り上げがなかったら、「たまには売ってもいいけど、どうかな」ということになる。だから、いわゆる経済的な収入が増えるとか、そういうことのモチベーションはすごく強いと思います。人を巻き込んでいったり、何かやろうというときに、そういうインセンティブがないと、逆になかなか物事は進んでいかないなと思います。

もちろん、使い方にもよりますね。たとえば、極端な例ですけれども、ドラッグを同じようなシステムで普及させるというのは、どう考えても良くないでしょう。われわれにとっては、貧困を削減するようなものを、インセンティブを使って普及させていくということで言うと、それはすごく望ましいものだし、それがあるから、むしろ仕組みが回っていっているんだという気がします。

これで、いくつかの質問をカバーしたと思います。

そういうインセンティブとか、上昇志向と言うと偉そうですけど、みんな、「これをこうしたい」というのがありますよね。子どもを学校に入れたいとか、父親をクリニックに連れていって病気を治したいとか、コペルニクの本拠地があるインドネシアの場合だと、「メッカに行きたい」とか。今ないことをやりたいという前向きな考えは、人間としていいじゃないですか。そういうものがあってはじめて、すごく元気になるし、いろんなことにやる気が出てくる。

だから、上昇志向というか、「こういうことができたらいいのに」とか、「こうしたい」と思うこと、そこにうまく経済を絡めていくことは、すごく健全ないいことだなと思っています。

Q. 経済成長に伴う犠牲はありますか

何か変化があると、必ず、何でも両面があるじゃないですか。いいことも、裏を返してみれば、「うーん」ということがあったりする。

私がすごく気になっているのは、途上国に暮らしをよくするテクノロジーを持っていったとき、ゴミをどうするかです。普通に考えれば、使えなくなったものは、ゴミになる。ゴミが出るんです。これを何とかできないかと思って。ほとんど樹脂ですね。安いからプラスチックを使っているんです。

同じように簡単なテクノロジーで、リサイクルができる、売店レベルでリサイクルできるような道具がないかなと探しています。そうものがあれば、今ある課題をある程度解決できるかなと思っています。

やっぱり、何か変化が起こると、たとえば、誰かが学校で1番になれば、2番になる人がいる。裏と表がありますよね。その「負の効果にいかに対応するか」が問題だと思います。変化を望むことはいいこと。でも、じゃあ、「これをやったときどうなるのか」と気をつけないといけないことはないかな? ということを考えて、それに対応していくことが必要なのだろうと思います。

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Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら

何ですかね。これはすごく大きな話なので......。たとえば、国連で働いていた時、今でもそうですけど、日本の「仕事だから」と言ったときの、ほかのものの優先順位が下がる度合いは、みんなびっくりするんです。「いや、仕事だから」とか、「今日は仕事なので」「じゃあ、しょうがないね、仕事だったら」とか。その「仕事だったらしょうがない」という。「おれ、仕事だからこうしないといけない」とか、その言い訳が通るというのが、多分、日本は世界で一番だと思います。

僕もずっと日本で育ってきて、私の父親も帰りが遅かったですし、そうなのかなと思っていました。でも、海外に出ると、「そんなことは意味がない」って、普通に言う人がいっぱいいるんですね。「僕、金曜日は4時に帰るよ」とか。平日でも、7時以降に残っていたら、「おまえ、アホか」とか。そういう価値観がいろいろあるじゃないですか。

アメリカでも、8時以降に残っていたら、「何しているんだ」と言うんですね。イタリア人やフランス人なんか、もっとですよね。それがアフリカに行くと、また違う文化ですし。そういうところですね。「仕事のためには、ほかはすべて犠牲にしていい」というところが行きすぎてしまったような気がします。

と言いながら、私も日本に来ると、いろいろアポ入れてますけど(笑)。夜の付き合いとか、あるじゃないですか。短期で帰ってきているから問題なくできますが、これが通年で、毎晩飲みがあるとか、お客さんがどうとかとなると、僕にはできないような気がします。

やっぱり、家族と過ごす時間もすごく犠牲になりますし、それはどうかなと思います。私は今、オフィスと家が歩いて1分なので、お昼に家に帰って、娘とご飯食べて、ちょっと遊んでまた戻るとか、その後ももう1回くらい帰ったりします。私自身も、そういうことをやると、ちょっとストレスが高くなっても、「ま、いいや」となりますし、そういうのは、子どもにとっても大事だと思います。

でも最近は、もう少しバランスを取ろうという人が多くなってきたと思います。それは普通の流れだと思います。

Q. 経済成長と持続可能で幸せな社会の関係はどうでしょうか?

やっぱり、正のところと負のところをまず常に認識して、というか、探すこと。予測していない良いことも起こるし、予測していない悪いことも起こるし、それを認識しながら、対応していくことじゃないですかね。


インタビューを終えて

経済成長を途上国の視点で考える――途上国の生活をよりよいものにしたい、という思いで、テクノロジーを届けるしくみをじょうずに作って活動していらっしゃる中村さんならではのお話が聞けて、考えさせられました。働き方と幸せと経済成長についても、どこでどのようにバランスをとりたいのか、それぞれが考えるべきことだと思いました。

取材日:2014年6月6日


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