100人それぞれの「答え」

写真:イングリッド・リーザーさん

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ウプサラ大学 プログラムコーディネータ

イングリッド・リーザーさん

私を含め、若い世代には、「経済成長は、持続可能で幸せな社会にとっての障害物である」と考えている人がたくさんいます

Q. 経済成長とは何でしょうか。

私にとって、経済成長とは単に、「経済がその規模を大きくする」ということです。人によってその意味合いは違うでしょうけど、言葉の意味としてはそういうことだと思います。

ハーマン・デイリーの経済成長の考え方によると、経済成長にも「経済的な成長」と「不経済な成長」があります。「不経済な成長」とは、経済成長によって、経済の基盤を損なってしまうというものです。

経済成長というと、シンプルに「良いものだ」と考える人が多いですが、この2つの経済成長を区別することが役に立つし、大事だと思います。

Q. 経済成長は望ましいのでしょうか。

望ましいとしたら、経済成長によって、お金や製品などのニーズを満たせる手段がより手に入るようになり、人々がより幸せになるということでしょう。

しかし、それはあるところまでしか通用しません。たとえば、GDPと幸福度の指標は、あるところを過ぎると相関しなくなるという、「イースタリン・パラドックス」がよく知られています。

ですから、経済成長は望ましいかどうかの答えは、「あるところまで」ということになるでしょう。

また、経済成長のタイプによっても異なります。経済成長が単に天然資源を枯渇させるだけのものなのか、それとも市民の教育等を通じて、社会関係資本を豊かにする経済成長なのか。

今はどうかと言うと、「もはや望ましいとは言えない」と思います。天然資源の使用量と経済成長を切り離すことができていません。私の母国であるノルウェーや、今住んでいるスウェーデンで言えば、もうすでに望ましいものではなくなっていると思います。

Q. 経済成長は必要でしょうか。

私はずっと、この質問を興味深く考えてきました。「私たちには経済成長が必要なのだろうか?」 現在の貨幣経済、資本主義の仕組みは、経済が成長するからこそ安定性が保たれています。自転車で言えば、あるスピードでこぎ続けていれば安定していますが、こぐのを止めると、自転車はバランスを崩してしまいます。

資本主義で言えば、ある蓄積があり、それを投資することでさらなる利益を生んで、蓄積をしていくという仕組みですから、成長がないとうまくいかなくなります。

現在の形での資本主義にしても貨幣経済にしても、同じことです。現在の貨幣の95%は負債によってつくり出されています。ですから、お金や負債は、利子を伴ってどんどんと大きくなっていく。経済が成長している間はそれでもよいですが、経済成長が止まると危機が発生してしまいます。

そういった意味で定常経済が必要だと思いますが、それを達成するためには、基本的なメカニズムを根本的に変えていく必要があります。

──今の自転車の例えで言うと、定常経済でも経済活動は続くわけですよね。とすると、定常経済とは「自転車を一定のスピードでこぎ続ける」ということではないでしょうか。

確かにそうですね。今の経済の仕組みは、自転車で言えば加速し続けるということになりますよね。それは持続可能ではありません。私たちは、成長に頼らないで、健全で安定した経済をつくり出せるように、経済のシステムを再編成するやり方を見つける必要があります。

Q. 経済成長を続けることは可能でしょうか。

しばらくの間は可能かもしれませんが、長期的に見れば無理でしょう。この250年間、前例のないほど使いやすいエネルギーがあったおかげで、経済成長が実現してきたわけです。しかし、あっという間に私たちはそれを使い尽くそうとしています。

経済を1つのシステムとして見ると、エネルギーや資源のスループットが必要です。つまり、売るものを作るための生産プロセスに資源やエネルギーを投入して、その反対側から廃棄物が出ていきます。エネルギーは、この過程において質が落ちていきます。これは、よく言われる「エントロピーの法則」です。

従って、経済が成長し続けるとしたら、さらに多くのエネルギーを経済に投入し続けなければなりません。これまではそれができていました。品質が良く、また入手しやすい資源があったからです。しかし、今はそうではありません。

「近年経済危機が起こっているのは、それが理由だ」と言う人もいます。欧州危機にしても、食料危機にしても、これまでの形での経済が崩壊し始めているから起こっているという考え方です。

その理由は、これまでのような量とスピードでエネルギーを経済に投入することができなくなりつつあるからです。エネルギーを得るために必要なエネルギーも、どんどんと増えてきています。

Q. 経済成長は何らかの犠牲をもたらしてきたのでしょうか。

すでに話したこととも重なりますが、経済成長を続けるためには、資源の利用を増やしていく必要がある。それによって、資源の枯渇という問題が生じています。

また、人生とは何のためにあるのか、社会とは何のためにあるのか、といったことを、経済成長という1つの目標だけに特化することで、考えなくなってきています。関心を持つべきことを、たった1つの目標が隠してしまうからです。

経済成長だけではなくて、どのように健全で健康的な人生を送るのか、どうやって地球のことを配慮するのか。そういったことを、今では考えなくなっています。それを達成するにも経済成長しかないと信じているからです。

Q. 経済成長を続ける中で、あなたの国が失ったものがあるとしたら何でしょう。

ノルウェーは興味深い例だと思います。100年前、ノルウェーはヨーロッパで一番貧しい国でした。ところが1860年代に北海で油田が発見され、膨大な石油にアクセスできるようになりました。

ノルウェーは、その富を未来に残しておくということを、まあまあできているのではないかと思います。3,000億ドルだったか、世界一と言われる大きな石油基金を国として持っており、自分たちの世代は、その中から少しだけ使って、未来世代のために残してありますから。

しかし、同時に、われわれが売っている石油を他国が燃やすことで、当然ながらCO2が出る。それはノルウェーを含め、世界中の国々に影響を与えます。

経済成長をするために石油を売り、その利益を未来のために残す、ということはしていますが、本当は地球のために石油を使わないでおく、ということも必要なのではないかと思います。

またノルウェーで言えば、短期間のうちに新しい富裕層が大量に生まれたため、われわれの持っていた価値観も変わってしまいました。かつては貧しい国でしたが、今では多くの人が、山小屋を持っていたり大きな車を所有したりしています。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどのように考えますか。

必ずしもその2つの間に関連や相関はないと思っています。多くの人たちが、「経済成長は、繁栄や幸せと同じようなものだ」とごっちゃにして考えているのはよく知っています。それは、それぞれの人生で、経済成長が幸せや繁栄につながるということを経験してきたからでしょう。

しかし、それを支えていたのは安価なエネルギーです。現在、多くのことが変わっています。気候変動が起こっている。安価なエネルギーの時代は終焉しつつある。

私を含め、若い世代には、「経済成長は、持続可能で幸せな社会にとっての障害物である」と考えている人がたくさんいます。

もちろん、「だったら、経済成長を止めればいい。そしたらすべてうまくいく」と言うほど、単純なわけではありません。適切な変化をつくり出していかなくてはならないと思っています。


インタビューを終えて

ノルウェー生まれで、現在はスウェーデンに住み、大学のプログラムコーディネータを務めるイングリッドは20代の素敵な女性です。持続可能な経済に関心があるとのことで、ハーマン・デイリーの定常経済の考え方などもよく学んで考えているようでした。

「私を含め、若い世代には、『経済成長は、持続可能で幸せな社会にとっての障害物である』と考えている人がたくさんいます」とのこと、世界でもそう考える若い人が増えているのだなあと思います。

取材日:2014年5月10日


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