100人それぞれの「答え」

写真:大和田 順子さん

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認定NPO法人JKSK女性の活力を社会の活力に 理事長、一般社団法人ロハスビジネスアライアンス 共同代表

大和田 順子(おおわだ じゅんこ)さん

経済成長とは、地域やコミュニティが成長すること。それは、そこに住んでいる人たちが成長すること

Q. 経済成長とはどういうことだと思いますか。 何が成長することですか。

従来の経済成長というのは、GDPというモノサシで測るものでした。「GDPの足し算」が増えることが経済成長だった。

でも、今求められているのは、「成熟社会」や「定常社会」と呼ばれるもので、違うモノサシが求められています。そうすると、これからの経済成長というのは、地域やコミュニティを構成する人が成長すること。コミュニティが成熟していく、など。

たとえば、日本の農山村です。コミュニティというものは、都市部にはあまりなかったし、農山村では脆弱化していってしまった。でも今、ローカルが見直されていて、もう1回コミュニティを見直し、つくり直していこうという動きがありますよね。都市部でもそういう動きが起きているでしょう。

コミュニティが成長するというのは、そこに存在している、構成している人たちが成長することじゃないかなと思います。構成している人たちが「地域を何とかしよう」と思う内発性が、その地域の経済発展につながっていくんじゃないかと思っています。

従来の社会では、地域から都市部や海外にいろいろな資源や人やお金が流れ出てしまいましたが、これからは、地域でいろいろなものが循環する、都市部とも行ったり来たりするような社会にならなければいけないと思っています

GDPというモノサシで、足し算が増えるという従来の経済は、石油に依存していて、都市部に人口が集中して、工場があって、工場で石油を使ってモノを生産して、それを都市部で集中して消費するという構造になっていたわけです。

けれども、それは望ましくないと思っていて。なぜかと言うと、ラダックが顕著ですけれども、幸せだった地域を壊していって、日本であれば「消滅可能性自治体」というものを生み出してしまうわけです。

消滅可能自治体について非常に大きな話題になっていますよね。いろいろな論があって、過疎・高齢化した所をたたんでしまえ、もういらない、切り捨ててしまえという考えを加速するものだと言っている人たちもいます。

心の空洞化がますます進んでいるという研究者もいます。心の空洞化というのは、地域の人たちが地域に誇りを持てない状態で、それを加速するだけだという講演も聞きました。

それに対して、そうではない動きが辺境の地から生まれている。若い人たちの田園志向もそうです。昔だったら、夢見る夢男君たちとシルバー世代の男性が田園回帰していたのですが、最近はそうではなくて、カップルとか女性たちが田園回帰しています。林業女子とか、地域おこし協力隊とか、若い人たちが入っていっている。それは何千人という数ですからたいした数かもしれないけれども、そういう人たちが誕生しているのは、新しい動きだ、という話でした。

もちろん、従来の経済成長も、一定程度は必要だったと思います。赤ちゃんの亡くなる数が減ったし、公衆衛生が向上したし、家電製品が入って、私たちは家事が大変楽になったと思います。

Q. 経済成長は必要なものですか、それはなぜですか。必要な場合、いつまでどこまで必要でしょうか。

一定程度までは必要だったけれども、すでに十分で、むしろ弊害のほうが大きくなっていると思います。

Q. 経済成長を続けることは可能ですか。

従来型の、GDPの足し算の経済成長ではなくて、地域で循環する経済を創出するのは必要です。地域でぐるぐる回っていれば、もしかすると足し算としても、増えるのかもしれないですよね。

世界と行ったり来たりして、農村部から流れ出ていってしまうのではなく、農村でぐるぐると回り、都市と行ったり来たりであれば、総量としては、どうなんでしょうね、もしかしたら増えるかもしれない。

従来型の経済成長は「大量に作って大量に捨てる」というのだったと思うので、それはやめたほうがいいと思います。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか。

日本の農山村を見れば一目瞭然です。多くの農山漁村で過疎化が進み、生物多様性とか農村景観、文化が失われている。耕作放棄地も増えています。高度成長期、農山漁村より都会の方が良い暮らしができる、農林漁業は大変だから都市部で勤める方が良いと親に言われ沢山の若者が都会に移動しました。農林業では効率化・機械化が優先され、生きものとの共生が失われていきました。

Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょう。

同じ答えですね。美しい日本の農山村が失われた。もちろん、農業だって、昔は田んぼだって深くて、田植えも大変だった。それが基盤整備されて、機械化が入って、農業が非常に楽になった。それはそうだと思います。

どういうものが幸せかという最後の質問についてですが、私なりに考えていろいろ取り組んでいる事例をご紹介したいと思います。私は経済学者でもないし、むしろ自分の仮説「こういうことがたぶん、これからの幸せな社会、コミュニティだろう」に基づいて、各地の農山村でいろいろな取り組みを地域の人たちと一緒にしています。

──ぜひ教えてください。

埼玉県の小川町の有機の里には、5年くらい通っているのですが。「霜里農場」金子美登(かねこよしのり)さんという1971年から有機農業に取り組む方がいらっしゃいます。

彼らは「小利大安」という言葉を使っています。そこにいる人たち――農家や、お豆腐屋さん、酒屋さんとか、いろいろな人たちがいるのですが――のそれぞれの利益の額はそんなに大きくないかもしれないけれども、そういう人たちがたくさんいて、全体で見ると、とても安心して、信頼関係があります。

金子さんだけでなくて、下里集落では、慣行農法から有機農法に換わり、大豆と小麦とお米を作っているんですね。大豆は全量、隣町のときがわにある、とうふ工房わたなべがキロ500円で買ってくれることが決まっています。

売り先が決まっていると安心して転換できるわけです。渡邊さんは金子さんのことを信頼していて、2001年に約束して、それ以来ずっとそれを守っているわけです。

地元の酒屋さんも、もう20年くらい前から、金子さんのお米と、山形の高畠の有機の里、星さんお米を、ずっと、1キロ600円で買い続け、それで「小川の自然酒」を醸されています。

「信頼関係がある」というのは、すごく安心できるんですね。私がそこにずっと通っているのも、金子さんの思想であったり、単に思想・主義だけでなくて、それが確かに実践されているということに惹かれてです。

そこには、研修生がいて、毎年4、5人ですが、寝食を共にして、1年たつと巣立っていきます。これまで100人以上いるんです。

半農半X的な思考の人たちも多いですね、「食べるものとエネルギーは自給しよう」といった思想の人たちがどんどん巣立っていって、各地でそれをまた実践していく。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか。

それはまさに、新しい経済モデルで、地域の資源を活用した、地域の人たちが主役で、地域に循環する経済。エネルギーは、石油に替わって再生可能エネルギーを源にしていて、豆腐屋さんとか、なりわりに近いかもしれないけれども、小さい業があって、ローカルに生産していて、ローカルに消費をする。

コミュニティを重視していて、自分たちの地域ならではの農業の仕組みとか、農林水産業ですね。エネルギーや食べるものを地域で自給して、都市・農村で交流し合う。

都市と農村の交流はすごく重要だと思っています。少なくても、都市部は非常に脆弱なわけですね、特に首都圏は。食べるものもエネルギーもないし。そうすると結局、常時からどこか縁のある地域を支えるというか、お互いを支える。交流をして、その人たちの所からエネルギーも買うとか、食べるものも買うなどしておかないといけないと思うのです。

写真:大和田 順子さん Copyright 大和田順子 All Rights Reserved.

このコンセプト図は、前にお見せしたかもしれませんが、特に震災後、被災地域ですべてが失われてしまって、これから地域をつくり直しますよというときに、どういうふうにつくり直したらいいのかを書いてみたものです。

もちろん地域での自給は必要で、そこに住んでいる人たちが食べるものやエネルギーを賄うという第1段階があって、そこへ「農商工連携」「6次化」など、経済的な面でそれを誰かに買ってもらうことになります。

そのときに単純に、大規模な流通に乗せるのではなくて、ここにCSA、CSF、CSEと書いてあります。CSA(Community Supported Agriculture)というのは地域で支える農業です。地域で支える林業、地域で支えるエネルギーもあるかなと考え、書いてあります。

もう一つの軸は、ソーシャルキャピタル力、信頼関係の軸にしてみました。集落の中での信頼関係が基礎で、次に周辺地域との信頼関係が必要で、さらには都市部との信頼関係に基づく交流によって、いろいろなものを再生していって、ともにサステナブルなコミュニティをつくっていくのではないかと考えています。

こんな仮説を立てて、いわきの「おてんとSUN」や、蕪栗沼の「ふゆみずたんぼ」などに取り組んできたんです。

3年やってみて、いわきはその良い事例だと思います。年間何千人という都市と農村のボランティアの人たちがいまだにいわきに通っています。最初は、がれき除去をした人たちが、そのうち、綿畑で地域の再生だと通うようになって。コミュニティ発電として太陽光発電所をつくる時には、企業ボランティアとして、ブリヂストンなどから何度も来てくれたそうです。

彼らは"未来づくり"をしているんだと思いました。規模はとても小さいけど。信頼関係に裏付けられ、共に未来を創生していこうという構図です。

「里山資本主義」というのがありますね。私は、主義の時代は終わったというか、主義も重要ですが、実践とその成果が求められていると強く思います。

これから始まる取り組みですが、たとえば、いわきの「おてんとSUN」の人たちと一緒に、JKSKでも、ボランティアバスを去年から出していて畑に行っているのですが、それがたまたま広野町の畑でした。

広野町というのは、まだ3分の1しか住民が戻ってきていないんです。町長としては、もちろんもっと戻ってきてほしい。「広野が元気になれば、隣の楢葉とか富岡とか、これから人が戻ってくる所の見本になるから、何とか前線基地として活性化させたい」と言っているんですね。

私たちは、そこの綿畑や今度できる防災緑地を新たなコモンズに見立てて、みんなで針葉樹や広葉樹だけでなく、ミカンやオリーブなどを植えて、それを6次化したら良いのでは?と考えています。

6年制の中高一貫校ができるので、そこの子どもたちも一緒に、綿畑や、木を植えたりを一緒にやっていくようなことをしたいなと思っています。

その原資を得るために、ささやかですが、市民施行・市民出資型の再生可能エネルギーの拠点を、もう1個所つくろうと言っています。

資源エネルギー庁が福島の再エネについて「3分の1補助します」という事業を募集中です。補助金額の半分を、地域の再生や復興事業に使ってください、再エネ事業と地域の復興事業をセットで提案してくださいというものです。それに採択されると、たとえば、50キロワットの太陽光発電設備ですと1,500万円くらいでできるので、そのうちの3分の1にあたる500万円をエネ庁が補助する。復興事業として250万円を7年に分けて使うと、年間35万円ぐらいですけど。それを広野の綿畑の管理費や、資材費とか植林の一部などに使うのが良いのでは、という事業構想です。

「市民出資型」というのはよく聞くと思うんですけれども、いわきの場合、それに「市民施行」という、自分たちでつくることを重視しています。

──最初に、経済成長は何ですかと言ったとき、「地域とかコミュニティとか人の成長」とおっしゃった。それは、何を見ると、成長している・していないとわかるのでしょう?

地域の人たちが元気で、楽しく、ニコニコしている。外の人が見たとき、「この農村は美しい」と思う。美しいというのは、除草剤で草がないのではなくて、きちんと刈り込まれているということ。

小川町に通っていると、だんだん美しくなっていく気がするんです。もちろん、季節ごとに咲く花も違うし、鳴いている鳥の声も違うし。

そして、地元の人と都市の人が交流し、一緒に地域を美しくする活動に取り組む。 今年は木造の小学校「下里分校」、廃校になって、地元のNPO法人が管理することになったので、有機野菜塾の受講生や、しもざと桜ファーム(貸し菜園)を借りている人たちが分校のリノベーション活動に一緒に取り組んでいるのです。

単に生産者の顔が見えるものを購入しよう、という段階から、生きものにあふれる美しい地域を共につくっていこう、ということです。

もう1つ、世界農業遺産というのがあります。たまたま今年が国内審査の年で、7地域から手が挙がりました。審査を担当する国内専門家会議という委員会が設置されました。民間女性枠として私に声が掛かりました。「まずは近くの所に勉強に行こう」と、静岡の茶草場を何回か見せていただきました。

世界農業遺産というのは、伝統的な農業システムや農法がきちんと継続されていて、かつ生物多様性と農村文化、農村景観などがトータルに評価されて認定されるものなんです。

静岡の茶草場が認定されたことで、地元の集落の農家の人たちは元気になってきたそうです。それを誇りに思うようになってきた。

でも、近くの市街地の人たちはまだあまり知りません。市街地の人たちも一緒に、「自分たちの地域ってすごいよね」「お茶文化って、やっぱりいいよね」「同じお茶だったら茶草場だよね」と思うようになったらいいなと思います。

茶草場って、お茶畑の下に、近くのススキを刈って敷くんですね。それによって、土に対するいくつかの効果があります。草地があるので、そこに今や絶滅危惧種の秋の七草や、固有種のバッタがいたり。地味ですけど、そういうしみじみしたものをテーマにした取り組みや研究ができたらいいなと思っているところです。


インタビューを終えて

大和田さんのロハスや地域づくり、被災地支援などのさまざまな活動は存じ上げていましたが、こうしてじっくりとお話を伺うのは初めてで、とてもよい機会となりました。

「経済成長とは、地域やコミュニティが成長・成熟すること。それは、そこに住んでいる人たちが成長すること。コミュニティを構成する人たちの『自分たちの地域を何とかしよう』という内発性が、経済発展につながる」「小利大安」――とても大事な視点、そして素敵な言葉を教えていただきました。


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