100人それぞれの「答え」

写真:西村 亮哉さん

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福島県立安積高校2年、THEイカスミソードGt&Vo、日中友好交流事業あいでみ共同代表、NPO法人NLA37th福島県実行委員長

西村 亮哉(にしむら りょうや)さん

日本の経済成長の中で失ったものは、成功や幸せの多様性だと思います

Q. 経済成長とはどういうことでしょうか?

経済成長というと、みんながモノを買って、それによって企業が成長して、企業同士の競争なども増えて、全体として、お金の回り方も加速して、技術的にもどんどん発展していく――そういうのが経済成長ではないかなと思っています。

Q. 経済成長というのは望ましいものでしょうか。それはなぜでしょうか。

ある人にとっては望ましいけど、ある人にとっては望ましくないと思っています。もちろん、それによって幸せになる人はたくさんいると思います。だけど一方で、その恩恵を受けられない人たちがたくさんいる。何かを買おうとして、買っている人たちもいるし、お金が入らないから買えない人たちもたくさんいて、その差はものすごく広がってしまっている。

だから、「望ましい、望ましくない」というのは、全体の幸福量みたいなものを計算しないと、全体的な数値は出せないと思います。「ある人にとっては望ましいし、ある人にとって望ましくない」というのが答えじゃないかと思います。

Q. 人によって違うとしたら、西村君自身にとっては経済成長は望ましい?

僕は学生なので、経済成長によって僕が恩恵を受けるとしたら、親が得るお金が増えるとか、手にできる商品の質が良くなるということだと思います。もしくは、経済成長するということは、企業が新しい市場を探すと思うので、今まで大人向けに市場を拡大していた企業が、次はもしかしたら、高校生とか中学生向けに市場を拡大してくるかもしれない。そうしたら、自分たちが受けられるサービスは広がってくるかもしれない。自分たちのできる可能性が広がるかもしれないので、僕にとっては望ましいものになると思います。

Q. 経済成長というのは必要なものだと思いますか? それはなぜでしょう?

経済成長すると幸せになるかもしれないけど、実は「経済成長は、そこまで無理してしなくてもいい」というのが個人的な意見です。

幸せの再定義が必要だと思っています。ブータンという国は、幸せ指数が世界一だけど、経済的にすごく発展しているわけじゃない。なぜかと言うと、想像ですが、自然豊かな国の中で、人と人とのつながりなどを大切にしながら、自分たちがやりたいことをやって、田舎で作物を育てて生活していく、みたいなことができている。それによって苦を感じることがあまりないから、すごく大きな成功とか大金持ちとかではないかもしれないけれども、その中で見つけられる幸せはたくさんある。

確かに、今の社会が幸せか幸せでないかというのもあると思いますが。例えば、僕たちが縄文時代にタイムスリップしたら「幸せじゃないよ」と言うかもしれないけど、縄文時代の人たちは、幸せだと思っていた人たちはたくさんいたはずです。歴史ごとに、幸せだと思っている人たちがたくさんいるんですね。

だから、今の僕たちから見たら幸せじゃないと思うことも、彼らにとって幸せだし、幸せの基準は全然違っていて。経済成長だけが幸せだとは言えない。経済成長によって得をすることもあるけど、それがイコール「幸せ」にはならない。経済成長から幸せへ矢印は引けるかもしれないけど、幸せから経済成長へは矢印は引けないと思います。

Q. 経済成長を続けることは可能なのでしょうか。

今のままなら無理だと思います。

Q. その理由は?

何事にも限界はあると思っていて。例えば今の市場、今のやり方だと、「モノを売る」というのが多いじゃないですか。もっと教育などの分野でやっていたら、成長は止まらないんじゃないかなと思っているんですけど、今はどちらかと言うと「モノを売る」とかいうのが多くて。どこかの段階で、人は多分「これ以上いらいない」となる。

一番現実的なのは資源の問題です。有限な資源しかない世界で、なぜ無限の経済成長を望もうとしているのだろう?ということがあると思います。

販売者側からの「資源」という問題もあるし、買う人間側からの、「これ以上買わなくていいよ、もう十分だから」ということもあると思います。だから、ある程度人が豊かになった時点で、経済成長は止まる。というか、進めようとしても無理なので。

経済成長って、「上が伸びていくこと」だと思いますが、下はどんどん下がっていく。だからある程度まで来ると、今まで「上を上げていた」のが限界を迎えて、今度は、「下を上げるために働く」(それが新しいビジネスの誕生や市場の拡大になる)ことになるんじゃないでしょうか。もし、そうなれば社会としてはどんどんゆたかになっていくけど、それは、上が伸びていかないから経済成長とは言えないんじゃないかなと思います。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲は何かあるでしょうか?

差が広がること。それによって、下の人がどんどん受け入れられなくなってくること。それはすごく怖いと思っています。僕が考える理想の社会は、無理かもしれないけど、誰の思いも反映されるとか、誰もが社会のチェンジメーカーになれるとか、そういう社会だと思っていて。

でも、「なぜ今の社会ではそれができていないか」と言うと、学歴があったり、人による立場の違いがあって、「僕のほうが偉い、君のほうが下」みたいな上下関係があるから、下の人たちは意見がとても言いづらい。

でも本当は、下の層こそ変えていかないといけないのに、経済成長を続けることに伴う犠牲も、下の人たちの生活レベルがどんどん下がっていくことだし、生活レベルが下がってしまった人たちを助けなければならないけど、残念ながら、下になればなるほど発言力が下がっていくから、より変えづらくなってくる。その人たちの声をより聞きづらくなってくる。その人たちが声を発信しにくくなってくるので、犠牲はどんどん悪循環していくんじゃないかなと思います。

社会は「役割分担」でしかないと思っています。確かに「雇用する人」と「雇用される人」はいるかもしれないけど彼らの関係に偉いとか偉くない、つまり上下が入ってくるのはおかしい。自分が出来ないことを誰かがやる、誰かが出来ないことを自分がやる。ただそれだけだと思います。

Q. 西村君は経済成長時代を知らない世代かもしれないけど、日本の経済成長の中で失ったものがあるとしたら何でしょうか。

成功や幸せの多様性が失われていることだと思います。「この道筋が成功だ」と、みんなが思い込んでいる。成功の多様性や個人の人生のバリエーションが失われていったと思います。

教師より弁護士が偉くて、バンドマンより医者が偉いみたいなそういう職業の優劣も絶対おかしい。都市部の大手企業より、地方の中小企業での方が面白いことに挑戦して、楽しく仕事ができる人だって必ずいます。いい大学に入って、いい企業に就職っていう道筋が一人一人の個性を薄れさせ、本当の幸せを見えにくくしていると思います。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると思いますか?

今の「経済成長」と「持続可能」というのは、相反する概念だと僕は思っているんですけど、でもあることによって、両立可能にもできると思っています。

なぜかと言うと、今は経済の中で動いているプレーヤーは、「モノを売る」、いわゆるただの企業が多いですけど、でもこれからは、今出てきている「社会的起業」という分野も発達して、日本でもこれからソーシャル・エンタープライズが絶対に増えていくと思います。そういった企業の質や企業の種類の変化によって、経済成長の方向性が変わり、「お金儲けをすることが社会問題の解決にもつながる社会」になるなら、環境問題や格差などを改善しながら、人々がもっとお金を得て幸せになるということが同時に考えられるようになる。そうしたらその関係は相反するものではなくて、一緒に実現していけるものになるのではないかと思います。

さっき、「昔の時代も幸せはあった」と言いましたが、だからといって「戻れ」とは言いません。戻ることが正解だとは思わないし、今は今の時代の幸せのあり方を見つけていくべきだと思います。そういった「新しい幸せ」を手にするなら、社会問題などを解決しながら、経済の中で動くプレーヤーの質や種類をちゃんと変化させていく。そうすれば両立はできると思います。

目指すべきは「ある人にとっては望ましい、ある人にとって望ましくない」今の経済成長を「誰にとっても望ましい経済成長」にすること。さっき挙げたような経済成長の方向性の変化を僕たちの手で生み出し、これを実現していきたいです。

写真:西村 亮哉さん

インタビューを終えて

西村君は、南相馬ソーラー・アグリパークの半谷栄寿さん(インタビューNo.003)と私が、起業家を育てたい、被災地の人材育成のお手伝いをしたいとの思いで開催している「福島・高校生のためのオープンスクール」に最初から参加してくれている熱心なメンバーのひとりです。いつも伸びやかに自然体で鋭い視点や感じ方を共有してくれるのですが、今回のインタビューでも、「大人よりもしっかり考えているなあ」と感心することしきりでした。「僕たちの手で生み出し、実現していく」ところを少しでもお手伝いできたら、と思っています。

取材日:2014年10月12日


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