100人それぞれの「答え」

写真:デニス・メドウズさん

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『成長の限界』プロジェクトリーダー・著者、ニューハンプシャ―大学システム政策学名誉教授、インタラクティブラーニング研究所代表

デニス・メドウズさん

近年、先進国の経済はあまり成長していません。それは安価なエネルギーが入手できる時代が終わったからです。

Q. 経済成長とはどういうことですか、何が成長することですか

言うまでもなく、「経済成長」の標準的な定義は、GDPなどの金銭的な指標によるものとなっています。しかし私は、そういった数字は操作されてしまうし、そうでなくてもあいまいで混乱を招くものだと思っています。なぜなら、そこには、良いものも悪いものも一緒に入っているからです。

私にとって意味のある経済成長というのは、社会におけるモノやサービスの生産が、人々にとっての便益を増やすというものです。

Q. 経済成長は望ましいものですか、それはなぜですか

もし経済成長が人々の便益を増やすというものであれば、短期的に見れば、望ましいものかもしれません。

しかし、どのような経済成長であっても、長期的に見れば、便益を得る人々の地域の外側に影響を与えることが多く、多くの場合、その結果は望ましいものではありません。

私たちは、ある意味とても"賢い"やり方をしているんですね。つまり、ここにいる私たちがプラスを得て、その望ましくない影響は、どこかほかの所で後になって誰かが受け取るというしくみになっているのです。

Q. 経済成長は必要なものですか。

誰にとって必要という問いですか? 人類にとって、ということであれば、そうですね、多くの人が経済成長は必要だと考えています。

しかし私は、今では、経済成長は概して、プラスよりもマイナスをもたらしていると考えています。経済成長を正当化してきた理由である「人々のニーズを満たす」ということについても、今では、再分配など、ほかのやり方のほうがよりよく満たせると思います。

たとえば、「まだ飢えている人がいるから、食料生産を増大させなければならない」と言いますよね。しかし今では、十分な食料は生産されていて、地球上のすべての人を養うことができるのです。きちんと分配をすればよいのです。

Q. 経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか

今では秘密でも何でもありませんが、2006年か2007年から、世界の経済、特に先進国における経済は、あまり成長していません。それは安価なエネルギーが入手できる時代が終わったからだと思っています。

場所や時期によっては、またはある人々については、経済成長は可能かもしれませんが、今世紀は、経済成長が続けられなくなる世紀だと思っています。そこで、問題に対処するためにほかの方法を探す必要が出てきます。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか。

もちろんあります。経済成長というのは、地球という惑星上の物質やエネルギーのフローを増大させた結果ですから、そこから、さまざまな影響が生じます。環境問題もそうですし、貧富の差の拡大もそうです。

かつて、都市の規模と人々の幸せについての研究がありました。規模が小さすぎると、文科やレクリエーションのためのリソースが十分ではなく、逆に、規模が大きすぎると、混雑や渋滞、騒音、レクリエーションのためのフリースペースの不足など生じます。

ということで、「これが正確な数字」というものはありませんが、都市の規模には適正な規模があるという研究でした。経済成長も同じではないかと思います。

Q. 経済成長によって、あなたの国が失ったものがあるとしたら何でしょうか。

いろいろなものがあると思います。もっとも、経済成長が起こったこの100年間には、ほかにも移民や戦争、よくない技術の進歩など、さまざまなことがありましたから、「経済成長のせいでそれらが起きた」と言う言い方はできませんが。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか

これも世界中で、多くの科学的な研究が行われています。幸せなのは誰か、それに影響を与えているのは何か、という研究です。

経済成長を推し進めてきた人にとっては驚くべきことかもしれませんが、金持ちになれば必ずしも幸せになるわけではない、ということがわかっています。「幸せ」というのは、自分のニーズやウォンツが満たされるということです。としたら、そのニーズやウォンツは何か、というのが重要です。

それには、周りの人たちが影響を与えているということがわかっています。たとえば、貧しい地域の人たちは、周りの人たちも貧しいわけですから、それほど自分の貧しさを気にしません。

私がニューヨーク市の研究所にいた時に、私の5倍もの収入を得ながら不幸せな人がいました。その人は、私の10倍稼いでいる人たちの社会グループに入ってしまったため、常に自分が貧しいと感じる状況に陥っていたのです。

経済成長というのは、再生可能な資源と再生不可能な資源に依存しています。厳密に言えば、再生不可能な資源に関しては、持続可能な利用というのはあり得ません。

再生可能な資源で言えば、もしその資源が再生するのと同じスピードで使っているのであれば、持続可能だと言えるでしょう。しかし、再生するスピードよりも速く使っているとしたら、それは社会にさまざまな緊張状態を生み出しますから、人々を不幸せにしてしまうでしょう。


インタビューを終えて

「成長の限界」プロジェクトのリーダーとして、1972年に出版した『成長の限界』以来、「問題の鍵を握っているのは経済成長である」「政治家らは、経済成長が鍵を握っていることはわかっている。しかし、本当は経済成長を緩めるべきなのに、そのレバーを逆に思い切り押している」と主張し続けてきたデニスにとって、こういった問いは何十年も考え続けてきたものなのかもしれません。「経済成長は、地球のスループットを増大し続けている結果である。スループットを増大しつづけることは、再生可能・再生不可能な資源の観点からも不可能であり、さまざまな影響や問題を起こす」という、極めてシンプルですが、十分な答えを出してくれました。

取材日:2014年9月15日


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