100人それぞれの「答え」

写真:鈴木 敦子さん

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認定NPO法人環境リレーションズ研究所 理事長

鈴木 敦子(すずき あつこ)さん

人口が減った所でも、その人たちと、その人たちに付随する情報やモノ、お金が一緒に各地を回り続けてさえいれば、その地域は絶対に衰えない

Q. 経済成長とはどういうことですか?

そもそも経済とは何か――これをよく考えます。「モノ・サービスとお金の流通・交換が経済活動だ」というのが、子どものころから習っている「経済」という言葉の定義ですけれども、私はそうではなくて、人も流れる、情報も流れる、そこも入れて経済だと思っています。

もちろん、お金が流れるのは当たり前ですけれども、対物で流れるだけではなくて、人もモノも情報もお金も、いわゆる経営資源全体が、しっかり各地を流れ続ける行為が経済活動であって、それが流れ続けることが経済成長であってほしい、という考えが私の根底にはあります。

Q. 「流れ続ける」というと、何か大きくなっていくとか成長するという意味ではなく、持続して流れるという感じですか。

そうですね。「成長」というよりは、「循環」という意味に近い。

結局、日本は人口が減っていく。世界もそうですよね。今は一部の途上国が増えていますけれども、いずれ遠い未来は、人類は絶対に減っていく。

そうなった時に、何がよりどころになるか? 私は「人口が減った所でも、その人たちと、その人たちに付随する情報やモノ、お金が一緒に各地を回り続けてさえいれば、その地域は絶対に衰えない」という仮説を持っているんですね。それが「プレゼントツリー」の活動なのです。

Q. 「プレゼントツリー」について、紹介していただけますか?

プレゼントツリーは「人生の記念日に樹を植えよう!」を合言葉に、大切な人や自分自身のために記念樹を植えて、森林再生と地域振興につなげるプロジェクトです。

都市の個人や法人に苗木の里親になってもらい、その苗木を介して縁のできた中山間地域との交流人口を増やすことによって、森だけでなく地域も元気にしていきます。

植えた苗木には1本1本ナンバープレートが付けられ、10年間森になるまで大切に育てます。苗木の里親になった方には、ナンバープレートの番号が記された「植林証明書」と贈り主からのメッセージカードが届きます。

大切な人、森や地域、そして地球の未来を想いつつ、「世界に1本のわたしの樹」を植え、育てながら、国土を守っていきます。

写真:鈴木 敦子さん

このプレゼントツリーは過疎地でやっています。過疎地の森だからこそ、誰もお金も入れなくなって、見向きもしなくなっている。人工林や牧場等の跡地を様々な理由で放置してしまって、行政すらお手上げになっている。そのままにしておくと、いずれその地域全体が衰退していくであろうところに、プレゼントツリーの場合、まずは、都会から人とお金を、森を拠点として入れて、循環させていく。

たぶん、近い将来、日本の人口減の時代、どこかの自治体がなくなっちゃうと思います。でも、人がいなくなってもいいと思うんです。それはしょうがない。ただし、そこに人が定期的に訪れたり、お金やモノ、情報を持っている人たちが流れていくような、そんな仕組み。それが続くことが、「経済成長」ではなくて「経済循環」ではないかなと思っています。

Q. 世の中で一般的に言う「経済成長」と、今おっしゃった「経済循環」とは、ちょっと違いますね? 一般的な世の中では、「経済成長せねばならない」とアベノミクスとかやっている。それとどういうふうに違うんでしょう?

対物かどうかというところですね。見え易いモノやお金に興味や議論が集中している。「モノだけじゃないんじゃないの?」というところですね。

Q. 一般的に言う「経済成長」についてどう思います? それは望ましいものか? 必要なものか?

それは完全に否定していますね。だって無理です、ずっと成長し続けるなんて。人が減っていくんだから。「成長」という概念そのものを、もう変えていかなければいけないなと。

Q. 経済成長を続けるのは可能ではないということですね。それは人が減っていくから。

はい。

Q. これまで日本も世界も成長を続けてきましたが、その犠牲があるとしたら何でしょう?

その1つの象徴が環境問題ですね。だから私はこの環境の世界に入ってきたのですが。私が環境に興味を持ち始めたきっかけは、幼稚園から小学校のころ、神田川の近くに住んでいたのですが、神田川の汚水問題がすごかったんです。生活排水による水質汚濁です。

44年生まれですから、生まれた直後に公害国会があって、環境庁ができて、公害対策のいろいろな法案ができたころです。あのころ、母親は一生懸命、有吉佐和子さんの「複合汚染」などの内容を私に話し、テレビなどでも、ドキュメンタリーで水俣の話がクローズアップされていました。当時は、被害者たちの悲痛な画像も沢山流れていました。

そういう映像や写真を見て、ショックを受けました。ああいうものを、経済成長の犠牲と言うと感じますね。

あのころ経済成長していたこと自体は、否定していませんでしたけど。あれがあったから、いろいろな恩恵が、というのは、今でも感じていますし。

69年生まれというと、アポロの月面着陸と、インターネットの種になったアルパネットが生まれた年です。だから、「経済成長=科学の発展」というイメージも、プラスのイメージで持っているので、それはそれとして是なんです。

ただ、経済成長することによるデメリットは環境問題ですね。私の中では公害問題です。

写真:鈴木 敦子さん

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると思いますか

循環さえしていれば、必ず持続的であると思っています。逆説ですね、持続させるためには循環していればいいと思っています。

Q. さっきおっしゃった、「回り続ける」ということ。

ええ。成長している国も、今はいいんです。途上国は成長すべきだと思いますし。経済成長がなければ伴わない国家メリットもあると思っています。最たるものは保健衛生や教育じゃないでしょうか。経済成長と同時に向上していくものだと思っていますので。それは万人・万国に、ちゃんと経験させなければならないことだとも思っています。

ただ、一定レベルのところまでですよね。その「一定」が難しいのだと思います。その指標が見えにくいから。「GDP」とか「GNP」という概念だと、限界線が見えないじゃないですか。

でも、「人の数」だと何となく、他国と比べたり昔と比べて、今ちょっと東京には人が多いなと、誰もがわかっていますね。でも、地方に行くと人が少なすぎるな、とか。このギャップみたいなものは、何となく直感的にわかる。

「一定面積でこのぐらいの人口になったら、これ以上成長は無理でしょう」と止めてもいい、あきらめていいと思います。

Q. 日本について言うと、従来の成長は......

いらない。できないですよね。これ以上成長して何が楽しいの? と思います。

Q. でも、政治家にせよ日経新聞にせよ、まだ「成長、成長」と。

ほんとにそう思っている人って、どこまでいるのかわかりません。選挙制度の話になっちゃいますけど、言ったらそれを支持する国民がまだまだ多いので、それを言っているだけではないでしょうか。

たとえば、身近なところにいる環境大臣経験者たちは、自民党も公明党も民主党も、実はあまり経済成長をイメージしていないですよね。どちらかと言うと、循環とか、そちらの概念で「成長」を語っているような気がします。

Q. 環境系の職務に着任して、少しでも勉強すれば、限界がわかりますものね。

そうですよね。ただ、今の政策を主導しているような立場の方々は、、、。絶対に公害を経験しているはずなのに、と思います。いくら選挙戦の中でのリップサービスの一端といえども、経済成長の中で犠牲を伴ってきているんだから、次の時代にはどういう経済成長なのか、別の経済成長の定義を見せるとか、そんなことを少しは考えるべきだとは思いますけれど。

Q. 別の経済成長の定義を見せるって、すごく大事だと思います。

「GDPを伸ばすこと=経済成長」だと思っているから、おかしくなっちゃうんですよね。

Q. そこのところ、大事ですね。でもきっと、多くの人にとって代替案がないんでしょうね。

指標となると、一番計算しやすいのは貨幣ですからね。経済の定義を変えてほしいです。経済そのものの定義を変えてほしい。

もっと言えば、マクロを変えるのはすごく難しい、経済全体の概念を変えるというのはすごく難しいので、会社の経営の到達点や目標などを、1年間の売上規模や利益の増減だけではなくて、違うもので見る、とか。

「10年間で、その企業が提供する役務で恩恵を被った人がどれだけ出てきたか」とか、「その企業の事業によって地域の交流人口がどれだけ増えたか」とか、そういうところが指標になってほしいと思います。違うもので見るのが難しいのであれば、せめて単年ではなく、5年10年スパンで企業活動を見て欲しいです。たった1年間とか3年間でどれだけの投資を回収して利益を留保できるか?を唯一の拠り所とするような経営指標の定義も変えてほしい。

Q. そういう意味で言うと、プレゼントツリーの活動は、時間軸もそうだし、経済の定義を......。

変えていただかないと、うちの事業は評価されない。(笑)

Q. 10年近くやってこられて、その辺の手応えはどうですか? 活動は広がっているのでしょう?

広がっていますね。人数は増えていますし、採用場所も増えています。

昔は、本質をわかって参加してくださっているというより、「新機軸だし、1本ずつ管理していて、地元との10年間の協定書もあるからしっかりしているね」くらいで止まっていたんですね。

それが、最近は、枝廣さんにご紹介いただいた富士通さんなど代表的ですけれども、「少子高齢化でちょっと振るわない、元気がなくなりつつある過疎地と継続してお付き合いしていくこと、元気な都会から沢山の社員達をそんな過疎地に継続的に連れて行き、地元と交流すること。」の意義や意味をちゃんと理解して参加してくださる企業が増えてきているところが、一番うれしいですね。


インタビューを終えて

「人口が減った所でも、その人たちと、その人たちに付随する情報やモノ、お金が一緒に各地を回り続けてさえいれば、その地域は絶対に衰えない」という仮説を「プレゼントツリー」と言う具体的なカタチにし、多くの人を巻き込んで取り組みを続けている鈴木敦子さん。環境ビジネスウィメンの同期でもあり、いろいろとご一緒させていただいていますが、今回プレゼントツリーを始められた動機や仮説をお聞きして、なるほどなあ!と思いました。

また、「経済成長=科学の発展というプラスのイメージ」についてのご指摘も、確かにそうだなあと思います。今回もいろいろ考えさせていただく機会となりました。

取材日:2014年12月23日


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