100人それぞれの「答え」

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アイスランド大学 地球科学・持続可能な開発研究所 持続可能性科学 教授

クリスティン・ヴァラ・ラグナルスドウッティルさん

資源がなくなったら技術は存在できません。ですから、技術が解決策になるとは限らないのです。

Q. インタビューをお受けいただき、ありがとうございます。1番目の質問から始めさせていただきます。経済成長とは何ですか?

私の考えでは、経済成長とはシステムでのお金の流れが年々増えることです。

そうなれば政治家たちは喜ぶでしょうけど、それは見せかけの幸せだと私は思います。ちょうど興味深い報告書を見つけました。1996年に国連開発計画が発行したもので、五つの異なる「成長の負の側面」について述べられています。

ひとつは、「雇用なき成長」で、経済は成長していても雇用が同じように増えません。もうひとつは「声なき成長」で、公民権や参画や民主主義が抑圧されています。3つめは、「無慈悲な成長」で、格差が大きくなります。今の世界で起きていることですね。

4つめは、「根無しの成長」で、グローバリゼーションによって文化の動揺といった影響を受けている状態です。例えばマクドナルドによって、食文化は均質化され、地域の食品企業は破壊されます。そして最後が、「未来のない成長」で、私たち共有の未来を奪い、将来世代から未来を奪うものです。これは成長を考える上で非常に興味深い見方で、経済成長はすべてよくないことを示していると思います。

Q. 経済成長のよくない面を挙げていただきましたが、「経済成長は望ましいか」という問いにはどのようにお考えですか?

望ましくない側面というだけでなく、過去2年間でわかったのですが、経済成長の根底には自然資源の消費が伴う問題があります。成長の限界を理解している人ならば誰でも、「限りある地球で、人口増加に伴って自然資源の消費量が増加すると、ある資源の生産量が頭打ちになるときがくる」ということがわかります。

実際、私はパートナーのハロルド・スヴェルドラップと40以上の自然資源について分析しているところで、そのすべてにおいて、生産量のピークが訪れることがわかっています。なかには、例えば金のように、生産のピークを過ぎたものもあります。化石燃料のピークは目前であり、今後20~30年で、鉄などほかの多くの資源が頭打ちになるでしょう。鉄の生産のピークは2030年になりそうです。鉄に依存するインフラを想像すると、世界各地の社会に大きな影響を及ぼすことでしょう。

Q. 経済成長はお金の流れだとおっしゃいましたが、成長するのはお金だけではありませんね?

モノとサービスです。 

Q. その両方が資源を必要としますね。

ええ、その基盤には資源があります。資源という基盤を支配することで、ソフトウェアや文化のバブルをもたらすことができますが、資源がなくなったら技術は存在できません。ですから、技術が解決策になるとは限らないのです。ほかの解決策にも目を向けなければなりません。

Q. ええ。一方、世界全体を見ると、依然として経済成長が必要だという主張があります。そうした主張についてどうお考えですか?

私たちが集中しなければならないのは、よく言われるところの「縮小」と「転換」です。つまり、西欧諸国では資源の消費を減らし、平等を高めなければなりません。しかし、途上国には資源の利用を増やす余裕を与えなくてならないと思います。もっとも、将来的に許される個人の消費量として同意できるレベルを持たなければなりません。こうした考え方は、主に二酸化炭素排出量に関する議論に基づきますが、すべての資源に当てはめることができます。

Q. 世界のどこかの地域にとって必要なことならば、どの程度、いつまで経済成長は必要なのでしょうか?

現在私たちは、1年間に地球1.5個分を消費しています。これは持続可能ではありません。資源を最も消費しているのは、私たち先進国です。これに注目しなければなりません。私が知る限り、資源を基盤とした経済をどのように実現するかについての研究に資金を提供している国はドイツだけです。どうすれば資源を自給できるか、資源の消費量を減らすことができるか、また同時に好景気を維持できるかを研究しています。ドイツではこうした研究に国が資金を提供していて、その研究の大半はハロルドたちのチームが行っています。

エコノミストたちには、未来を予測するモデルをつくることはできません。しかし、世界の限界がわかっているエンジニアならば、モデルをつくることのできる人がいます。ですから今、その作業が進められているのです。

私たちは2030年以降の未来を見据えながら、ドイツの産業界と共同作業をしています。地球の限界を示すことで、「ではどうしたいか?」の検討を始めることができます。ドイツ政府はこのことにとても真剣に取り組んでいます。11月にベルリンで開催された欧州資源フォーラムに参加したのですが、その後に、ドイツ資源フォーラムと、ファクター10に関する会議もありました。これらはすべてドイツ政府が資金を提供しています。こうした政府は多くないと思うので、もっと仲間が増えるといいですね。

Q. ある意味、すでにお答えかもしれませんが、経済成長を続けることは可能でしょうか? 資源の制約についてお話されましたが、それについて補足することや、そのほかの要因はありますか?

将来にわたって入念に検討できるほどの知性が私たちにあれば、どこかで成長が起こることを止める必要はないでしょう。必要なのは、ある種の定常経済です。世界の異なる国や地域で、異なる時に、経済成長と脱成長が循環しています。限界のある中でそれができるならば、うまくいくでしょう。しかし、私たちが今の道をそのまま進むと、残念ながら、私たちの子孫によくない未来を残すことになるでしょう。

Q. 経済成長がつづくことは犠牲やデメリットをもたらしますか?

一言で言えば、私たちは自然界を犠牲にしています。私たちは大量絶滅の時代に生きているのです。年間5万以上の種が絶滅しており、その数は急増しています。海と陸の生態系が崩壊しています。私たちが今の道を進み続ければ、2030年までに海には魚がいなくなってしまうでしょう。それほど先のことではありません。わずか15年後のことなのです。

Q. 15年後......ですか。

魚のピークは2000年で、土壌のピークは2000年でした。これらは私たちの食料システムの基盤です。化石燃料のピークは今です。

Q. あなたの国は、経済成長が続くことによって何か失ったものはありますか? 何が失われましたか?

私の国であるアイスランドには、魚とエネルギーという2つの資源があります。エネルギーは水力と地熱がベースとなっています。アイスランドは「持続可能な漁業政策がある」と誇ることが好きですが、システム・ダイナミクスを理解しているかどうか、私にはわかりません。これは私たちが学ぶ必要のあることですし、学びたいと思っています。

アイスランドの漁業の主な魚種の一つはタラですが、その割当量は大幅に減少していて、2030年頃までにはゼロになるでしょう。海の魚はすっかりいなくなってしまうだろうと私たちは話しています。人々は「自分たちは、自分たちがしていることをわかっていて、魚を採りすぎていない」と言います。よくあることですが、科学者が漁獲量の制限を設定すると、政治的なやり取りが始まり、政治家は毎年、漁獲量を10~20%増やします。おそらくそれが、私たちの漁業資源に弊害をもたらすのです。

また、魚は共有物です。しかし、漁業権や割当量は、アイスランド付近の漁業関係者によってあさられ、売却する人もいます。漁業割当量はアイスランドのほんの一部の人たちのものでなのす。彼らはそれで大儲けしていますが、アイスランド全体にはそうした利益が十分に入ってきません。アイスランド経済を潤し、医療制度や教育制度などを運営することができていません。それが問題の一つです。

また、私たちはエネルギーについてもうまくできていません。私たちのエネルギーの80%は重工業に、主にアルミ産業へ売られています。アルコア社やリオ・ティント社などの多国籍企業と締結した契約によると、エネルギーの販売価格はアルミの価格に紐付けられています。ですからアルミの価格が下がると、アイスランドで生産されるエネルギーの価格が下がり、私たちがそのコストを負担するのです。

1968年にアイスランドでアルミ産業が始まって以来、エネルギー企業の利益はわずか1~ 3%です。アイスランドという国は、自然資源から多くを得ていないのです。ノルウェー人が石油基金のために税金として支払っている70~80%と比較すると、私たちのやり方は愚かです。  

Q. つまり、多くの自然資源をただ同然で使っているというわけですね。

そのとおりです。ただで提供しながら、少数の人たちがお金持ちになる手助けをしているのです。これらの多国籍企業は、アイスランドで税金を支払ってさえもいません。アイスランドが所有する企業でもありません。ですから、すべての利益はアイスランドから流出します。私たちが得るのは数百の雇用と水力発電ダム建設による自然破壊だけです。私たちはあまり賢明ではないですね。

Q. 難しい状況ですね。最後の質問です。経済成長と持続可能で幸せな社会との関係についてどう思いますか?

「幸せ」と「経済成長」の間には関連性はない、ということが証明されています。人々がある程度の裕福さに到達すると、より裕福だからといってより幸せになるとは限らないということは極めてはっきりしているようです。すでに1950年代から分かっていたことですが、特に米国など西欧諸国では、裕福になったことで人々は不幸になりました。

また、経済成長では、経済システムでの資金フローの全体像しか考慮されていません。格差については何もわからないのです。今日、私たちが築いた世界では、格差が広がっています。

国内だけでなく、国の間にも格差があります。資源が豊かでも非常に貧しい国があり、そうした国から私たちは資源を奪っています。彼らは利益を得ているとしても、十分には手に入れていません。

また、かなりのお金持ちがいます。世界人口の1%ではなく、0.1%に相当する人たちです。彼らが大半の資金を持っています。ですから、たくさんのお金があっても平等に分配されてはいないのです。

より平等な社会を作ることに私たちは取り組まなければなりません。容易なことではありませんが、一致団結して取り組めば、私たちにはできると、少なくとも私は願っています。

Q.お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

どういたしまして。光栄でした。


インタビューを終えて

ヴァラもバラトングループのメンバーで、パートナーのハロルドたちと資源に関する研究などを行っています。資源の観点からの考え方はとても考えさせられます。

「技術があるから何とかなる」という人も多いですが、「資源がなくなったら技術は存在できません。ですから、技術が解決策になるとは限らないのです」というヴァラのコメントは一考に値します。たしかに、技術を適用し、変化を創り出すには、エネルギーを含む資源が必要です(必要な資源の量を減らすことは技術でできるとしても、ゼロにはならない限り、必ずこの限界に直面します)。

また、そういった資源の制約に正面から取り組んでいるドイツの政府や産業界の姿勢も、大変学ぶところが大きいと思います。「本当に限界があるのか」「それはどのあたりで、どういう限界か」という議論に終始するのではなく、「そういった限界があるとしたら、どうしたらよいか?」を、アイスランドやノルウェーなど他国の専門家の力も借りながら検討や議論を始めているのですね。

そして、アイスランドは電力に恵まれているとは聞いていましたが、アルミ産業にその大部分が提供され、しかもエネルギー価格はアルミ価格と連動するしくみになっているため、国への見返りはほとんどない、という実情も初めて知りました。「地域や国のエネルギー資源を、その地域や国のためになるよう活用する」ことの重要性を改めて感じました。

取材日:2014年12月15日


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