100人それぞれの「答え」

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「フォー・プログレス・ナミビア」代表

ジャスティン・ブラビィさん

ナミビアでは経済は順調に成長していますが、不平等が広がっています

Q. 経済成長とはどういうことですか、何が成長することですか?

経済成長は、GDPやGNP、お金や財務利益に直結していると思います。つまり、「作れば作るほど、状況はよくなる」。経済成長は私たちの政策と国に不可欠なのです。

私たちは、貧困緩和と雇用創出のために経済成長を追求しています。あらゆることを経済成長と関連付けています。「成長すればするほどうまくいく」――ナミビアではそれがまるで合言葉のようになっています。

Q. 経済成長は望ましいことですか、それはなぜですか?

私にとっての答えは、「いいえ」です。必ずしも望ましいことではなく、どちらとも言えません。今のやり方では望ましくないと思います。著しい所得格差をもたらしているからです。

現在、ナミビアはアフリカでは中所得国です。以前はそうではなく、低所得国でした。「実際にうまくいっている」というところまで漕ぎ付けました。経済は順調に成長しています。

しかし、私が子どもの頃――つまり、独立する前の話で、当時は民主化が進んでいなかったのであまり参考になりませんが――以降、大きく変わりました。以前と比べて、不平等が広がっています。もっとも、教育は改善されました。しかし、裕福になる人はほとんどいなくて、貧しくなる人ばかりです。ですから、私たちみんなが目指すべき方向として望ましいとは思えません 。

Q. 経済成長は必要なものですか、それはなぜですか?

私たちのような途上国にとって、いい質問ですね。なぜなら、ある意味、私たちには必要だと思うからです。経済成長は社会に何らかの向上をもたらすために必要です。大多数の人々が貧困の中で暮らしている。失業中で職を求めている人がたくさんいます。子どもを学校に通わせ、必要なものを買い、毎日食べていけるようお金を手に入れることができるようなるためです。

ただ、やや異論もあるでしょう。「よい暮らしや幸福感を得るには何が必要でしょうか? 財務利益だけでしょうか?」「財政利益の限界は何でしょうか?」

農業をしていたら、干ばつでもない限り、ある程度は食べていけるでしょう。自分のしたいことがいつでもできます。つまり、個人のレベルでは、ある程度ならば成長するということはよいことなのです。

つまり、その程度、そこまでなのです。私の考えでは、開発というものを背景に、広い視野の指標に経済成長を 組み込むと良いと思います。経済成長は、大切な要素ではありますが、成功した国を測る唯一の要素ではありません。なぜなら、すべてを測るわけではないからです。

たとえば、家族の世話が考慮されていません。「子育て」という、非常に重要な社会的貢献が測られていないのです。こういったものはすべて、私たちが経済的な価値を見出していないために、価値がないと思われています。

そうした意味で、私たちは、「何が重要で、何が必要か」を測るために、全体的なアプローチをもっと取り入れることがとても大切だと思います。GDPのみではなく。しかし、「よりよいものは何でしょうか?」と聞かれたらわかりません。

Q. 経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか?

世界のどこであっても、可能ではないでしょう。私たちは、そのことについてすでにフィードバックを受け取っています。私たちが地球環境の限界(プラネタリー・バウンダリー)に達したことによって、さまざまな経済崩壊がもたらされました。生態系全体が崩壊しているところもあります。

その損害は何でしょうか? 人々は経済成長という"亡霊"を求めた結果、住む場所を失っています。南米には巨大な「成長」の例がありますが、生計が危機に瀕している人々がいるのです。そして、石油は、あらゆる面で"経済成長の神様"です。多くの経済が完全に依存しています。

さらにいえば、債務の問題にはそもそも根拠がありません。米ドルは実際のところ、価値がないのです。ただの紙切れであって、まったく価値がありません。それでもなお、アフリカではどこへ行っても、米ドルが最も貴重なものであって、ほかの通貨には価値がありません。

不満を言っているように聞こえるでしょうね。ただ、こうした状況は実在しています。経済成長の継続性について考えることは、興味深いトピックです。私の答えは、「いいえ」でしょう。しかし、「すべての国が同じようにすべき」とは言い切れません。なぜなら、何か手立てを打たなければならない国のほとんどが途上国ですから不満を言っているように聞こえるでしょうね。ただ、こうした状況は実在しています。経済成長の継続性について考えることは、興味深いトピックです。私の答えは、「いいえ」でしょう。しかし、「すべての国が同じようにすべき」とは言い切れません。なぜなら、何か手立てを打たなければならない国のほとんどが途上国ですから。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか?

はい、多くの犠牲を伴うと思います。GDPを押し上げるものとして、例えば犯罪があります。犯罪によって私たちの安全が犠牲になり、多額のお金が生み出されます。治安の状態がお金を動かしているのです。

GDPという名の下でほかに犠牲になっているものは何でしょうね? 地域のつながりもそうですね。また、さまざまなかたちでの「自尊心」もそうです。これは些細なことのようですが、大きな問題につながっています。

人々は絶えず「消費せよ、消費せよ、消費せよ」と促されてきました。安心するために消費している。結果として、自尊心や自信が失われます。こうしたことが犠牲になっています。国と国、人と人、企業と企業の関係性も犠牲になっています。

Q. ご自分の国で、これまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか?

ある調査によると、このような違いがあるそうです。貧しい郊外では、人々が通りで遊んでいて、子どもたちは走り回って遊び、親たちは一緒に料理をしている。誰もが外で過ごしています。とても強い地域のつながりがあります。

他方、裕福な郊外へ行くと、誰もが車を運転していて、車庫へ駐車するとそのまま家の中へ入ってしまいます。近所に誰が住んでいるかも知りません。

私たちはまだその段階ではありません。ナミビア人の圧倒的多数は、地域のつながりがとても強く、お互いにオープンで信頼し合っています。しかし、経済成長によって豊かなモデルへとさらに移行するにつれて、「人間とはもともと社交的だ」ということも忘れてしまうのかもしれないという意見もあります。

多くのことを失うと思います。私たち自身の生活の質の多くです。そうした質を失ってしまうと、孤独を好むようになります。電話、インターネット、テレビなど多くのものが、人々がほかの人と交わらないように仕向けているように感じます。人と触れ合うことなくコミュニケーションをとる。これが私にとって、失われたもののなかで最も悲しいことの一つです。 アフリカでは、GDPが上昇した結果、平等化が阻まれています。私たちは進歩しているはずですよね? しかし、平等が失われている。非常に大きなことです。失われたものでは、この二つが大きなものだと思います。

また、自然資源もそうですね。これも重大なことです。なぜ自然資源が失われているかというと、金(きん)やダイヤモンドなど、価値のないものに価値を見出しているからです。石油ですら、私たちの生存に関してはまったく価値がありません。

私たちは、きれいな空気や淡水はまったく価値がないと思っています。ですから、GDPのためにそれらを汚しても平気なのです。しかし、そうすることで健康が損なわれます。

統計によると、5才未満の3人か4人に1人が慢性疾患に悩まされています。病気は治療するよりも予防するほうがいいのですが、健康は「ビジネス」なのです。このような、私たちの生存にとって重要で根本的なものの多くが失われています。どれほど失ったかわかりません。しかし、今後もさらに多くが失われていくでしょう。

Q. 「経済成長」と「持続可能性で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか?

あまり関連性はないと思います。経済成長とはそもそも、持続不可能で不幸な社会を作り出すものだからです。


インタビューを終えて

バラトン・グループのナミビアからのメンバーであるジャスティンは、明るくてとても魅力的な若い女性です(みなさんがナミビアと聞いてどのようなイメージを持たれるかわかりませんが、ジャスティンは私よりもずっとオシャレで素敵な格好をしていて、バラトン合宿にも途上国向けの助成金を辞退して自費で参加しています)。ナミビアで、仲間と一緒に「幸福度の調査」を行うなど、幸せで持続可能な社会づくりのために活動しています。

「幸福度調査」などで意気投合して、いろいろな話をし、インタビューにも応じてもらいました。途上国のナミビアが、低所得国から中所得国へ、"順調に経済成長"している傍ら、何を失ってきたのか、ジャスティンの話にはいろいろと考えさせられます 。

取材日:2015年8月27日


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