100人それぞれの「答え」

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ライフオーガナイザー、ハッピー冷蔵庫アドバイザー

大野 多恵子(おおの たえこ)さん

モノや情報が多すぎると、思考の整理も難しくなりますが、その人にとっての適正量が分かることが「幸せ」に結びつきます。

Q. 経済成長とはどういうことですか? 何が成長することでしょうか?

普通に考えると、全体のGDPがどんどん上がっていくということですね。私が20歳ぐらいの時に、最高潮の上昇率を見たのかなと思います。私が若いころに、ずっと経済成長してきて、昭和の時代くらいまで、モノが増えていきました。現在はそれ以上の成長は必要だろうかと思います。

私は、「ライフオーガナイザー」という、アメリカから入ってきた、片付け・整理についての資格を取って、数年前からその仕事をやっています。世の中には「モノが多すぎて困っている」という人が増えているんです。

片づけ・整理を専門の人に頼むなんて、昔はあり得なかったことですよね。

でも、アメリカから来たライフオーガナイザーは、20年以上前にできたものです。アメリカ社会でモノがあふれてしまって、自分で整理できないから頼む、となりました。

それは、思考の整理、考え方の整理なんです。「あなたの本当に必要なものは?」ということからスタートしていって、「これは本当に必要かどうか?」ということを考え直していく。一緒に考えるカウンセラー的な役割をしていくのが、アメリカのプロフェッショナル・オーガナイザーという仕事です。それを日本に取り入れたのは6年前でした。

日本も今、同じような状況で、"片付けブーム"で、テレビでもいっぱい番組やっているし、本もいっぱい出ています。それだけモノの整理に困っている人がすごく出てきている。

その中で、私たちが一緒にお手伝いをするんですけど、「モノが増えると幸せか?」というと、それは自分でも感じていたのですが、若いころ、昭和の時代には「幸せだ」と思っていました。でも最近では、いろいろな方と接したり、ライフオーガナイザーとして情報交換したりしていると、モノが多すぎることが本当に幸せかどうかということが疑問になってきます。

「情報やモノが多すぎる、選択肢が多すぎると、人は不幸になる」とも言われています。

「経済成長」はある意味必要ですが、そのあり方を考える時代ではないかと。

Q. 経済成長は望ましいものでしょうか?

経済成長は、日本全体、世界全体では必要なことなのかもしれないけど、私のまわりでは、例えばモノや情報が増えてきたら、「そこである程度いい」「これ以上の成長はいいんじゃないか」「大量生産・大量消費という時代はもういいのではないか」と感じます。

もちろん、新しく便利なものが増えていってもいいのですが、必要以上に増えなくてもいいんじゃないかなと思います。

Q.  「必要ないのではないか」というのは、国全体で見る場合と、個人で見る場合もあると思いますが、何を超えたら必要ではないと思ったらいいのでしょう?

個人で言うと、自分が所有しているモノが、所有していることさえも忘れてしまうのだったら、必要ないですね。モノの整理をしていくときに、1回、全部出して分けていくのですが、「忘れていた」というのがいっぱい出てきますね。

私は最近、お片付けの中でも、冷蔵庫の片付けに特化することが多くなりました。冷蔵庫の中に見える食品ロス、フードロスがすごく出ています。それでも、買いすぎで眠らせていて......。

世界では、まだ食べられるものの3分の1が捨てられていると言います。日本で一番食べ物が捨てられているのは、実は家庭からだそうです。それにはいろいろな理由があるけれども、ひとつには、冷蔵庫の整理ができていなくて、買ったものが奥に入っていて忘れていたとか、作ったお惣菜が多すぎて忘れられているとか。

必要なものはもちろん必要だけれども、それ以上のものが、食べ物にしても、ほかの洋服とかにしても、ありますよね。個人で言うとそんなことですね。

Q. あるモノが、あることすら忘れているというのは、確かに、必要じゃないんですよね。

そうなんです。必要じゃないどころか、その人にとって、「整理できない」という心理的な抑圧みたいなものがすごく出てきます。「私は片付けられない」というジレンマみたいなものが出てくる。なので、モノが多いことが決して幸福ではない。大量生産・大量消費とやってきたことが、かえって人を不幸にしているかもしれないですね。

でも今、みんなそれに気付いているはずなんですね。「どうしたら片付けられるか」とか、「捨てられない私が悪いのか」みたいに、自分で自分を苦しめている人がすごく増えていると思います。

Q. ライフオーガナイザーとして、そういう人の冷蔵庫なり、ほかのものなり、片付けの手伝いをする。単に片付けるというより、「要るものか、要らないものか」という、「ライフ」って、「人生」という意味でもありますよね。一度そういうお手伝いをした人たちは、「買いすぎてあることすら忘れる」という状態に戻ってしまう人もいるし、戻らない人もいるのでしょうか?

ライフオーガナイザーがうまく、その人の生活パターンに合った仕組みづくりをアドバイスし、コンサルティング、一緒にやってうまくいくと、その人が適正量を維持する仕組みができます。

ゴールは「幸せ」です。モノや情報が多すぎると、思考の整理も難しくなりますが、その人にとっての適正量が分かることが「幸せ」に結びつきます。

Q. ライフオーガナイザーのお手伝いには、何か、やり方や考え方の秘けつがあるのですか? 

テクニックとしては、全部出して、「要るもの」と「要らないもの」とを分けます。でも、その前に本人の思考の整理について時間をかけます。どんな生活をしたいか、ですね。片付け本を見て、真似してやったとしても、その本と自分は違うので、形は真似できても、リバウンドしてしまう。

リバウンドさせない仕組みのためには、その人の理想の暮らしとか、家族構成とか、全部聞いて、コンサルをしていきます。冷蔵庫の整理ひとつでもそうですけれども、どんな暮らしをして、どんな食生活をしているか。

そうして、全部出して、分けて、減らして、適正量を見て、収納して、維持するということをじっくりやっていく。

Q. どのくらい一緒にやっていくんですか? 人によって違うでしょうけど。

人によって全然違います。例えば、「1軒丸ごと」で大変な場合、半年ぐらいかかることもあるし、「キッチンだけ」など、数時間で済むこともあるし。

私は、自分が片付けが苦手で、この世界に入ったのですが、まずは自分が楽になったので、今はその考え方を伝えています。「冷蔵庫をこうすると、あなたがすごく幸せになる。食費も助かるし、食べたいものがすぐ取り出せて、家族のためにおいしい食事をすぐ作ってあげられる。だから、あなたも幸せになるし、食費も助かって、さらにフードロスもなくなる」と。今そういうところに力を入れてやっています。

そこから、フードロス・チャレンジ・プロジェクトにもかかわったり、みんなで余った食材を持ち寄って料理して楽しくいただく「サルベージ・パーティ」が生まれたり。この2年ぐらいの話ですけど、そこをやり始めたことだけでもすごく深くて。そこから経済も見えてくるんです。

結局、スッキリすれば心地いいし、安売りを大量に買って保管しても、忘れてしまって捨てたら何もならないけど、適正量を買って食べ切れば無駄はないし。

Q. いろいろな冷蔵庫を見てこられたのでしょうね。

いっぱい詰まっていて奥が見えなくて、把握し切れていないというケースは多いです。
何かしら捨てるものが出てきます。「捨てるものは何もない」という家のほうが稀かもしれません。賞味期限切れ、しかも大幅に切れているものがいくつかは出てくる。乾物のストック類も含めて、何かしら出てきますね。

Q. 奥は全然使わないで、冷蔵庫の前のところだけ使って、そこに入れて使って、また買って、と。

多分、見えていないのでしょうね。そういう家は多い。だから冷蔵庫は奥が深いし、話も奥が深いし、やることにも深みがあって。

Q. 面白い、と。

そうなんです。今、冷蔵庫がテーマなんです。私最近、「ハッピー冷蔵庫アドバイザー」と、名乗らせていただいています。

Q. ハッピーがつくのがいいですね! では、質問に戻りますが、経済成長を続けることは可能ですか? それはなぜですか?

「成長、成長」でずっと行ったら、枝廣さんもよくおっしゃっているように、地球がいくつあっても足りないと思いますから、成長は可能ではないですね。

うまく回っていくといいな、と思います。必要なところに。例えば食料で言うと、無駄なものが出ているから、ゴミを出すのにも税金がかかっているわけですね。そういう無駄をなくしていけばいい。不要な成長はなくてもいい。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか?

大量生産・大量消費の時代、モノが多いということは、時間を奪うことになる。モノを探す時間とか、モノを管理する時間はすごく大変で、貴重な時間が奪われてしまっている。

情報過多もそうです。情報が多すぎると選び切れないから、それによって時間も奪われるし、気持ちも奪われる。たくさんあるものに対して惑わされてしまうから。日本全体が適正量を超えていると思います。

Q. 適正量を超えると、モノがいっぱいあっても幸せではなくて、逆にストレスとか、不安感とか、幸せを損なっているということですね。日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか?

人の気持ち、でしょうか。冷蔵庫の話に戻りますが、今、大型冷蔵庫が推奨されているんですね。働く女性が増えて忙しいから、大量にまとめ買いして、冷凍して、1週間分作り置きする。それはそれでいいと思いますが、買い物は大型スーパーですよね。小売店が減ってしまって、対面式でお買い物ができない。すべてが効率主義みたいになってきて。

都会に住む独り暮らしのお年寄りが、買い物難民になっている。買い物に行けるところがない。大型スーパー化して、そこまで歩くのは遠い。じゃあ、ネットスーパーでいいじゃないかと言っても、自分ではできない。

昔ながらの小売店が減っている。そこに出掛けていって、人と話をして、ちょこちょこ買い物に行くのがいいんだ、と言います。そうだなと思うんです。

ちょこちょこ買いをして、その日食べるものを新鮮なうちに、ね。冷蔵庫は"一時置き"で、大量にストックしておかなくてもいい。そういう暮らしができたら一番いいな、理想だなと私も思います。本当は、自分のところで採れたものを食べるのが理想だけど、都会ではそうもいかないから。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか?

何をもって経済成長というのか、数字で成長を表すのか、どこにどんなお金の使い方をするか、によってくると思います。必要なところにちゃんと使う意味での経済成長なら、ありかなと思いますが。

枝廣さんもよくおっしゃる「もったいない」というキーワードを、最近私もよく使っているんです。「もったいない」を「ちょうどいい」にする、と。たくさんありすぎるから無駄が出て、大量廃棄になる。

今、片付けブームなので、みんなが「シンプルライフを目指そう」「捨てろ、捨てろ」と言うことが多くなっていますが、本当にこれでいいのかなと思います。捨てると、その人の家はすっきりするので、その人は一見、すっきり幸せに見えるけど、じゃあ、その先はどうなるんだろう?と。

ライフオーガナイザーは、「"捨てる"から始めない整理術」みたいなのをうたっているんです。「手放す」と言っているんですけど、手放すその先は、リサイクルだったり、リユースだったり。「循環型」とよく言っています。私は特に、枝廣さんのところで勉強させてもらったこともあって、すごくそれが気になります。

「これだけ捨てました!」ではなく、持続可能にするには、そうではなくて、その先まで考えて、「もったいない」ですよね。お年寄りなどは手放せないから、「捨てたらもったいない」と言って、そこで葛藤や争いが起こるわけです。「捨てろ」と娘が言うけど、親は捨てられない。

そうではなくて、うまく回していく仕組みを考えること。それをみんなで考えて、「もったいない」をちょうどよくする。それが、今自分がやっていることで一番伝えたいことです。お片付けとエコライフ、持続可能な社会全体と自分の幸せをつないでいくのが理想です。


インタビューを終えて

私の主宰するNGOジャパン・フォー・サステナビリティのボランティアとして記事を書いたりという活動を支えてくれている大野さん、あるとき「私、ライフオーガナイザーの仕事を始めたんです」と教えてくれたのですが、どんな仕事なんだろう?と思っていました。今回、インタビューに答えていただく中で、その活動や考え方も教えてもらえて良かったです。

「自分が所有しているモノが、所有していることさえも忘れてしまうのだったら、必要ないですね」という言葉には、どきっとする人も(私も含めて)多いかもしれませんね。「情報やモノが多すぎる、選択肢が多すぎると、人は不幸になるとも言われています」「モノが多いということは、時間を奪うことになる」という指摘、人のお片付け・暮らしや人生の整理整頓を手伝うお仕事だからこその重みのある言葉だなあと思います。

「モノや情報が多すぎると、思考の整理も難しくなりますが、その人にとっての適正量が分かることが「幸せ」に結びつきます」ということは、個人だけではなく、社会や人類全体にとっても当てはまるような気がします。これだけスマートな機器が登場している時代、その人や社会にとっての適正量を計算して通告してくれるアプリがあってもいいですよね?

取材日:2015年1月18日


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