100人それぞれの「答え」

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元新潟県知事・新潟国際情報大学学長

平山 征夫(ひらやま いくお)さん

いつでも世界恐慌が起きかねないリスクの多い経済構造になっていることは極めて大きな問題です

Q. 経済成長とは何でしょうか

通常、経済学的に言えば、「GDPが前年に比べて増えるかどうか」、もう少し正確に言えば、「生産等によって付加価値がどれだけ増えたか」ということです。わかりやすく言えば、「経済が前の年に比べてどのくらい大きくなったか」ということです。

一般的に「付加価値です」と学生に説明しても、ピンとこないようです。だから「GDPです」と言いますが、厳密には付加価値です。どれだけ価値を増やしたかということ、それが経済成長です。

Q. 経済成長は望ましいものでしょうか

一般的には、所得が増え豊かになり、失業の可能性が低下するなど望ましいでしょう。一方、競争型の成長は所得格差拡大により貧困層を産んだり、環境破壊を伴ったり負の結果も齎すので、総論としては条件付きで望ましいということでしょう。

Q. 経済成長は必要でしょうか

これも一般論ですが、必要というより望ましいということでしょうが、利益追求・前年比増加が基本の企業にとっては必要項目でしょう。ただ、グロスでの成長をベースに議論しても、人口減少社会では、成長の一要素である労働力が減少するわけですから、GDPが増えるということを経済政策の絶対的な必要条件にするには、余程の技術革新による投資増か生産性の向上が必要になりますので、相当無理があります。

そういう人口減時代には、一人当たりのGDPを基準にし、その増加ないしは横ばい(マイナスにならない)は必要、というのが妥当でしょう。労働力を海外から入れれば可能かもしれませんが、国家としてそうした政策選択が好ましいとは思いません。従って私の結論は、経済成長はいつまでも必要ということはないし、無理でしょうということです。

Q. 経済成長を続けることは可能でしょうか

労働・資本・生産性など成長要素を考えると、可能とは言えないでしょう。労働力人口が減って、魅力ある資本投下物件が減ってくれば、技術革新に頼るしかないわけで、これだけでプラス成長を維持できるかは疑問。

Q. 経済成長による犠牲はあるでしょうか

一番犠牲として挙げられるCO2の増加について、経済学者の中には「実証的にみても因果関係が見当たらない」という主張もある。むしろ人口増加による方が環境破壊的には因果関係が大きいという人もいて断定的には言えないが、成長が森林や水資源、海洋資源など広く環境等に多くの負荷を、しかも地球の歴史から見て第二次大戦後のごく短期間に及ぼしたことは否定出来ないでしょう。ファッションなど繊維産業の拡販が綿花栽培を増やし、アラル海を干上がらせたことなど例示はいくらも出来るでしょう。

さらに言えば、行き過ぎた成長志向、経済のグローバル化の進展、バブル経済の発生・破裂などが投機的マネーを肥大させ、世界のGDPの4倍もの規模に膨れ上がり、こうしたマネーが常に利益を求めて蠢くという不安定な状況を作り出し、いつでも世界恐慌が起きかねないリスクの多い経済構造になっていることは極めて大きな問題です。金融資本主義化の課題です。

Q. 日本が経済成長で失ったものは何でしょうか

高度成長下では、環境破壊を伴ったが、近年では、所得格差拡大や競争的経営が中間層を壊し、人々の助け合いや連携の心を失わせていることなど、経済学が幸福を目指すものであったのに、それを「効用」に置き換えて発展したため、富を追う学問になったように、成長も人々を幸福にするためであったのに、企業が大きくなったり、資本家を更に金持ちにするものになってしまった事で、多くの人々の精神的な幸福の条件を失ったかもしれません。アダム・スミスの危惧した利己心社会です。

Q. 経済成長と持続可能な幸せな社会の関係は?

必ずしも相容れない関係のものではないですが、最小限の成長は社会の持続に必要と思われる一方で、成長に競争が伴うため勝ち組、負け組を生み、全員を幸せにすることを難しくするのが一般的。

これをカバーするには、所得の再配分として福祉政策をきちんとやることが必要になるが、やりすぎると財政悪化や増税による成長力のない社会になり易く、バランスを取るのは容易ではないでしょう。ただ、現状の評価としては、国民負担率は高くても、北欧型(米国との比較ではライン型ともいう)のような、大きい政府の方が支持されており、高い成長力より安定した成長での福祉の充実を望む方が私もよいと思います。


インタビューを終えて

元新潟県知事の平山先生は、日銀でのお勤めも長く、お金や経済のプロでもいらっしゃいます。経済の仕組みについて詳しく講義をしていただいたあと、この7つの問いにも答えて下さいました。

「いつでも世界恐慌が起きかねないリスクの多い経済構造になっていることは極めて大きな問題」「高い成長力より安定した成長での福祉の充実を望む方が私もよいと思う」というコメント、お金や経済のプロがおっしゃると説得力が増しますね。平山先生は、そういった意味からも「地域経済」に注目していらして、県知事時代も含め、地域の経済をどう成り立たせるかに心を砕いてこられました。

いろいろお話をうかがったなかで、「地産地消というが、本当は、その地域で消費しているものをその地域で作る、"地消地産"が大事なんだ」というお話は、とても腑に落ちるわかりやすい言い方で、それからあちこちで紹介させていただいています。

取材日:2014年12月5日


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