100人それぞれの「答え」

i_enq_097.jpg

097

思想家、「リサージェンス」誌編集長

サティシュ・クマールさん

実のところ、経済成長など存在しません

Q. 最初の質問はとても単純なものです。経済成長とは何でしょうか?

実のところ、経済成長など存在しません。なぜなら、私たちが「経済成長」と呼んでいるものは、経済の成長ではなく、お金の動きだからです。

エダヒロ:なるほど。

「経済=お金」ではないのです。お金は経済の一部に過ぎません。

エダヒロ:確かに。

しかし、経済とは、土地、人、人の技術など、あらゆる資源のことです。すべて が経済なのです。ですから、景気が悪いときでも、土地は食料を生産し続けます し、人はものを作り続けます。でも、経済成長は、お金の動き、取引に過ぎませ ん。つまり、私たちはこの言葉を間違って使っていて、お金の動きを「経済成長」 と呼んでいるのです。

経済とは安定したものです。土地は食料を提供する。樹木は果物を提供する。牛は乳を出す。人間はものを作ります。家を建てたり、家具を作ったり、靴を作ったり、コンピュータを開発したりね。こういったことはすべて、続いていきます。それなのに、私たちは、「もっと建物を、もっとお金を、もっともっと資金を......」と言うのです。

実際には、経済成長は、人々が実際にやっていることのすべてを測っているわけではありません。たとえば、家庭菜園で食べ物を作ること。それは経済成長には含まれません。家庭で温かく互いの面倒を見ること。それも経済成長の一部ではありません。母親が子どもの世話をすること。これも経済成長ではありません。家で若者がお年寄りの面倒を見ること。これも経済成長ではないのです。

したがって、経済成長とは、非常に限られた「お金の動き」なのです。財政なのです。それは地球全体を犠牲にしています。そして、地球、地球という家にはもう利用できるスペースなどないのです。私たちが「日本経済」と言うとき、日本の国土や日本の人々、日本の文化、日本の技術、日本の伝統のことは考えません。そんなことについては考えないのです。考えるのは、日本のお金のことだけです。

エダヒロ:確かに、その通りです。

ですから、お金の成長であって、経済の成長ではないのです。お金の成長です。お金の動きなのです。

エダヒロ:そうですね。

それから、失業は私たちの教育が生み出したものです。教育によって人間のスキルが奪われているのです。

エダヒロ:スキルが奪われている?

スキルが奪われているのです。大学を出ても、食料の育て方を知りません。家の建て方も知らない。服の作り方もわからない。陶器の作り方もわかりません。家具の作り方もわからない。机の前に座って、コンピュータとキーボードに向かうこと以外、何も知らないのです。

エダヒロ:確かに。

コンピュータを向かって机に座っていて、どれほど多くの仕事を作り出せるでしょうか? ごく限られていますよね。それに対して、農業、家具作り、靴作り、こういったことはすべてスキルです。大学はスキルを教えません。大学はものを作ることを教えないのです。だから、何もかも機械が製造しているのです。

今では、機械であっという間に作れるものもあります。人間は必要ないのです。だから、人は失業しているのです。

エダヒロ:その通りです。

ですから、完全雇用を求めるのなら、機械による生産を減らし、人間がものを作れるようにする必要があると思います。そうしなければ、永遠に失業が続くでしょう。永遠に失業問題が存在することになります。機械はいつでもものを作ることができるのですから。そうすると、人間は何もすることがなくなってしまいます。

エダヒロ:確かに。

今日では、トラクターやコンバイン収穫機、さらには数台のヘリコプターまで持っていれば、1軒の農家が20平方キロメートルの畑を耕作できます。今や1カ所の酪農場に4000頭の牛がおり、ロボットが牛の乳を搾っています。人間が牛の乳を搾るのではないのです。だから、人間は失業しているのです。つまり、人々にスキルを教えなければ、雇用問題を解決することはできません。それから、私たちは人間の労働に対して尊厳の念を抱いていません。

エダヒロ:尊厳ですか。

農業に対する尊厳の念はありません。労働に対する敬意もありません。どんな肉体労働に対しても尊厳の念を抱いていないのです。だから、農業に携わる誰もが、東京や京都や大阪、ロンドンやニューヨークに行って生活したがるのです。農業ではお金を稼げないと思っているからです。農業では生計を立てられない、と。

だから私は、今の経済を見直さなければならないと思うのです。機械には何ができるかを明確にする必要があります。自動車の製造は機械でできることかもしれません。しかし、人間にできることは人間がすべきです。農業や園芸、料理、牛の乳搾り、洋裁、家具作り、陶芸などです。これらは人間の手ですべきことなのです。そうすれば、美が得られるでしょう。美意識も身につきます。満足感も得られるでしょう。人は美しいもの、役に立つもの、丈夫なもの、すばらしいものを作ったことを実感したとき、満足感や至福感を味わえるのではないでしょうか?

ですから、製造を分けるべきなのです。機械にやらせるものもあるでしょう。それなら、ロボットなど何でも使えばいい。そして、人間がやるものもあるでしょう。そのためには、人間が作るものを守らなくてはなりません。そうすれば、失業などなくなります。

エダヒロ:その通りです。

もしそうしないと、いつまでたっても失業がなくならないでしょう。スペインの失業率は20%です。ギリシャでは30%の失業率。イタリアでは25%、そして英国は10%です。先進国では、日本の失業率がどれくらいか知りませんが。

エダヒロ:およそ5%か6%です。

それなら、まだいい方です。日本はうまくいっているのですね。

エダヒロ:でも、上昇しつつあります。

しかし、ヨーロッパの国々には、非常に多くの失業者がいるのです。

エダヒロ:それは、大きな問題ですよね。多くの人々は「失業問題を解決するためには、経済成長が必要だ。だから、ロボットや機械を導入しなくてはならない」と言います。

しかしながら、この有限の地球の上で、どれだけの経済成長ができるのでしょうか?

結局は、限界があるのです。ですから、自問自答しなくてはなりません。「どこが上限なのか」「どこが最適な限界なのか」と。あなた方日本人は、国中にビルや道路、高速鉄道や空港、他にも工場や住宅や事務所を作りましたが、そうして、あなた方はどこへ行こうとしているのでしょうか?

私たちが作らなくてはならない経済とは、「成長して、成長して、さらに成長し続ける」というものではなく、環のような循環型経済です。つまり、経済は、「直線型」ではなく「循環型」であるべきなのです。なぜなら、直線型だったら、最後にはどこに辿り着くのでしょうか?

エダヒロ:本当にその通りですね。

私たちはこう問いかけなくてはなりません。「最適な経済成長とは何か?」「いつになったら『これで十分』なのか?」

エダヒロ:そうですね。それは、とても大事なことです。

日本は世界で最も裕福な国の一つですが、その日本においてすら、人々はいまだに不安を抱えて暮らしています。「まだ足りない、まだ足りない、まだ足りない。もっともっと景気を良くしなくては」と。あなた方はどこで止まるのでしょう? 「ここでやめにしよう」というところがあるのでしょうか?

つまり、限りある惑星で、無限の経済成長は可能ではないのです。だから、あなた方は成長を、限界に達したら止めなくてはいけません。ちょうど人間の子どもと同じです。子どもはどんどん成長して、170センチメートルほどか、180センチメートルになる。どんなに大きくても190センチメートルくらいですよね。そこで、成長は止まります。同じように、それが何であっても、最適な大きさで止まらなくてはなりません。

今後5千年、1万年にもわたる無限の経済成長はありえません。私たちは、5百万年、そう、5百万年の間、続けることのできる、健全で持続可能な経済を作る必要があります。

エダヒロ:その通りですね。

もし500万年の間、ずっと成長し続けるとすれば、どこが終着点になるのでしょう? つまり、私たちの指導者や経済学者たちは、長期的な思考をしていないのです。

エダヒロ:そこが問題なのです。

そういった人々は、短期的にしか考えていないのです。

エダヒロ:その通りです。

Q. それでは、最後の質問です。最近、多くの人々が経済成長への強迫観念を持っています。私たちが経済成長に執着することで、どのような問題や犠牲が生じているのでしょうか?

私たちが犠牲にしているのは、人としての幸せや豊かさ、健康、家庭生活、村やコミュニティの暮らし、自然環境、気候変動や地球温暖化です。こういったものはすべて、私たちが支払っている経済成長の代償です。

もはや、経済は人間の役に立つものではなくなっています。今や、人間が経済の役に立つために存在しているのです。経済が主人に、人間は召使いになってしまいました。そして、自然も召使いになってしまった。そう、私たちが「経済成長」という名前の下にしていることは、人間らしい幸福や豊かさ、コミュニティ、家族、自然、良好な気候、環境といったものを犠牲にし、地球温暖化を生み出すことなのです。

資源は枯渇しています。人々の健康も消耗しています。家族は崩壊し、コミュニティもバラバラになっています。私たちはみんな、人々が東京、大阪、ロンドン、ニューヨーク、ワシントン、ニューデリーといった都市に住むようにしむけています。そして、みんないつも、慌ただしく、大急ぎに急いでいる。そこには活力もなく、暮らしや人生もありません。つまり、私たちは、どこにも辿り着くことのない、いわゆる「経済成長」を得るために、大きな犠牲を払っているのだと思います。

エダヒロ:どうしたらそれを変えられますか? つまり、大勢の人がますますそういった犠牲を身近に感じるようになってきてはいますが、どうやって従来の経済から移行したらよいのか、新しい経済への移行の仕方はわからないのだと思うのです。

ええ、そうですね。1つは、人々の意識が変わること。今の教育が変わらねばなりません。メディアも変わるべきです。私たちは「良い暮らしとはどんなものか?」といった知識や情報をもたらさなくてはなりません。洗練されたシンプルさ。美しい簡素さ。美しく、いつまでも長持ちし、リサイクルされるものを作り出すこと。

そこにはゴミもなく、汚染もありません。私たちが創り出さなくてはならない経済は、ゴミも、汚染もない経済です。そうすれば、やりたいことができます。どこまでも止まることなく、ね。だから私たちには、ゴミのない、汚染のない経済がいるのです。

エダヒロ:おっしゃる通りですね。

それはどうやればよいのか? 意識を高めることによって、です。そう、あなたはご自分のウェブサイトを通じてやっていますね。私は、シューマッハー・カレッジやリサージェンス誌を通じてやっています。私たちはこの動きをさらに、もっともっと積み上げていかなくてはなりません。

政府にも働きかけねばなりません。実業家や経営者たちにも会いに行って、こう言うのです。「いいですか、最終的に、あなた方の最適なゴールとは何なのでしょう? どこに到達したいのですか?経済成長におけるゴールは何ですか? 『これで十分だ。今や食べ物も十分あり、衣服も足りている。住まいも十分だ。すべては満ち足りている。これ以上成長する必要はない。ただ楽しむだけでいいんだ』と言える時点がどこかにあるのでしょうか?」と。

エダヒロ:科学技術の役割についてどうお考えですか?「汚染のない経済を築くためには、技術的なイノベーションが必要だ」と言う人々が大勢います。

技術の役割、イノベーションの役割はあります。たしかに、優れた技術や素晴らしいイノベーションを目の当たりにしています。たとえば、太陽エネルギーは優れたイノベーションです。たとえば、このコンピュータ。インターネットや電子メールでコミュニケーションができる。素晴らしいイノベーションです。風力発電も優れたイノベーションです。

つまり、何かイノベーションを生み出し、そのイノベーションが直線的思考を引き起こさず、循環的なシステムを備えていれば、そこには優れた技術が存在している。そして、技術は役に立つでしょう。技術は助けとなります。

たとえば、日本の屋根の上すべてに太陽光パネルが備え付けられれば、大量のエネルギーが得られます。それは素晴らしい技術です。たとえば、インドの湖から引水している水ですが、インドは短期間しか雨が降らず、大変暑いところです。もしすべての家の屋根で雨水を集めていたとしたら、それは素晴らしい技術です。つまり、技術には役割があります。しかし、人間の心や幸せとのバランスをとらなくてはなりません。

エダヒロ:そうですね。

技術は幸福をもたらすことはできません。技術は満足感をもたらすことはできません。思いやりも、知恵ももたらすことはできません。技術は美しさをもたらすことはできません。つまり、知恵、美しさ、思いやり、家族、コミュニティ、関係性といったものは、技術ではもたらせないのです。そう、技術には役割があります。しかし、技術はその役割に留められるべきであって、私たちの問題すべてが技術によって解決されると思ってはいけません。問題の中には、人についての問題もあります。そういう問題にとって必要なのは、人による解決策であって、技術による解決策ではないのです。

エダヒロ:すばらしい。お時間をとっていただき、本当にありがとうございました。


インタビューを終えて

インド生まれの思想家で、イギリスでシューマッハ・カレッジを創設し、世界中に影響を与えている「リサージェンス」誌の編集長でもあるサティシュ。来日のたびにお会いする機会を得て、いつも本当に多くの学びと愛をいただいています。
今回の経済成長をめぐる問いにも、最初の答えが「実のところ、経済成長など存在しません」。サティシュらしい素敵な知恵をたくさんいただきました。ぜひ繰り返し読んで、味わい、考えていただけたらうれしいです。サティシュの笑顔にまた会いたいなと思います。

取材日:2015年3月27日


あなたはどのように考えますか?

さて、あなたはどのように考えますか? よろしければ「7つの問い」へのあなたご自身のお考えをお聞かせ下さい。今後の展開に活用させていただきます。問い合わせフォームもしくは、メールでお送りください。

お問い合わせフォーム(幸せ経済社会研究所)

i_mail.png