100人それぞれの「答え」

写真:チラポール・シンツゥナワさん

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タイ・マヒドン大学環境資源研究学部

チラポール・シンツゥナワさん

持続可能性は「分かち合い」と「与えること」から始まるのです

Q. 経済成長とは何でしょうか。

経済成長とは、消費と生産のプロセスを成立させる金銭的な取引のことです。私たちは消費するたびに、経済成長に貢献します。また、私たちは生産するたびに、経済成長に貢献します。ほとんどの政府は、国の経済成長に直接的な貢献をするであろうという理由で、消費と生産のプロセスを奨励しています。

Q. 経済成長は望ましいことでしょうか?

望ましいことですが、互いに競争するものではありません。高い成長率を目指す必要はなく、1%の成長で十分であり、1%以下でも、0%の成長でさえも、"足るを知る経済"を取り戻すことができます。幸せとは関係なく、より多くを手に入れ、より多くを所有しようと、限界まで自分たち自身を突き動かすのではなく、今持っているもので幸せになることができます。

Q. 経済成長は必要必要なものでしょうか?

必要なものではありません。昔の人々、たとえば、石器時代の人たちは、経済成長について話していなかったでしょう。でも彼らは幸せだったのです。いつも笑っていて、争うこともありませんでした。互いに見つめ合っているときも微笑みあっていました。ですから必要ではありません。

しかし、今の人たちは、どうしたらよいかがわからないのです。つねに、「何かを所有しなければならない」「手にいれなければならない」「何かを作らなければならない」と、頭に植え付けられているのです。でも、何も手に入れず、作らず、消費しなくても、幸せになれるのです。攻撃されたり、中傷されたり、利用されたりしないこと――それが幸せになることなのです。

私たちは物質主義を高く評価しすぎているのです。"所有中毒"になっていて、何も所有していないと安心できません。「近所の人たちはたくさんのものを所有していて、でも自分たちは何も持っていない」――そういった比較によって、私たちは不安に陥っています

Q. 経済成長を続けることは可能ですか?

そうですね、ただ、大きな成長ではなく、1%未満、もしくはゼロでもかまいません。それで十分なのです。私たちは成長を測ることでなく、幸せを目指すべきです。お金の観点からでなく、経済的な価値でもなく。

Q. 経済成長を続けることが何らかの犠牲や損失をもたらしますか?

ええ。なぜなら、何かから何かを奪っているからです。ただで手に入るものはありません。何かを誰かから奪っているのです。誰かから何かをとても安く手に入れることができれば、私たちは幸せなのです。すぐでないにしてもしばらくしたら、何かを奪われた人は不公平だと感じるでしょう。利用されていると感じるでしょう。ただのものなどありません。

つまり、物質やモノや資源のフローがあります。元からあった場所においたままにすれば、じっと静かにしています。あなた自身も、息を吸って、息を吐いて、それだけで幸せなのです。でも今、資源を自分の友達、地域、国へ動かすために懸命になっているのです。そうすることで自ら悩みを作り出し、不安を作り出しているのです。ほかの人たちも不安にしています。

Q. 経済成長を続けることによって、あなたの国で失われたものはありますか?

はい、家族のつながりです。お金を稼ぐために、朝早くから大急ぎで出かけて稼ぎ、夜遅くに家へ帰ります。子どもと顔を合わせることなく、親戚にも、友達にも、近所の人たちとも会いません。隣の家の人と話すことさえありません。社会でのつながりを失ってしまったのです。

同じ地域社会で暮らしていても、見知らぬ間柄になっています。いつでも争いに出くわすようになりました。分かち合うことも、与えることもなくなりました。いつでも、手に入れることばかりに躍起になっているのです。経済成長によって人々は、飽きもせず、あるいは飽き飽きしながら、常に何かを追い求めるようになりました。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係についてどのように考えますか?

今でさえ人々は、「経済を活性化すれば、幸せになれる」と考えています。みんな、手段を楽しみすぎていて、手段と目的をごっちゃにしています。あらゆるものを自分のものにしても幸せではありません。

私は人々が夢見るものをほぼすべて持っています。だからどうだというのでしょう。さまざまなテクノロジーを駆使した消費者向けの製品を持っていても、私は幸せではありません。孤独な地球で、私はほかに何を所有すればいいのでしょうか? だれかの人生を? ええ、所有することはできるでしょう。お金があれば買えます。

しかし、幸せとは何でしょうか? 持続可能で幸せな社会は、満足感から生まれます。「十分だ」という感覚です。足るを知る感覚です。与えたいという気持ちです。与えることを始めなければ、奪い続けることになります。

与えることを始めると、自分の持っているもので幸せを感じます。分かち合い、与える準備が整うのです。多くを与えれば与えるほど、持つものが増えるのです。豊かな気持ちになることで、与えることができるようになるのです。のどの渇きも空腹感もなく、誰かのものを奪うために必死になることもありません。ですから、持続可能性は、「分かち合い」と「与えること」から始まるのです。


インタビューを終えて

チラポールは、デニス・メドウズ氏らが30数年前に立ち上げたバラトン・グループの古参メンバーのひとりで、タイで環境教育のアクション・ラーニング・センターを立ち上げて運営しており、気候変動、再生可能エネルギー、環境資源の持続可能な管理に関する問題について、毎年約1万人がトレーニングを受けています。

風貌もそうなのですが、問いへの答えも、タイの僧を思わせる雰囲気が伝わってきました。「持っているもので十分幸せ」「持続可能性は「分かち合い」と「与えること」から始まる」――大事にしたいメッセージです。

取材日:2014年9月16日


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