100人それぞれの「答え」
011
株式会社巡の環 代表取締役
阿部 裕志(あべ ひろし)さん
海士町という小さな島は、「経済成長と持続可能で幸せな社会の両立ができる出口」を作りやすい場所じゃないか
- Q. 経済成長とはどういうことでしょうか 何が成長することですか
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3つぐらい考えました。
まず、一般論として、経済の活動規模がGDPに置き換えられて、GDPが大きくなるということだと思います。
2つめに、あるべき論で考えると、経済が成長するとは、世の中の価値創造が成長しているということだと思います。価値があるから、経済に置き換えられて成長していく、ということです。
3つめに、もう少し先に行きたいと思う方向は、経済活動の「量」ではなくて、「質」が成長するということです。そうしたら、経済成長ってうれしいことなんだろうな、と思います。
- Q. 経済成長は望ましいものですか、それはなぜですか
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経済成長によって人々の生活が豊かになる。だから望ましいと思われてきたのだと思います。
- Q. 経済成長は必要なものですか、それはなぜですか
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これからを考えると、経済成長とその成長に伴う競争の激化が、トレードオフのようなバランスになってきているんじゃないかなと思っています。
たぶん、「プロダクト・アウト」から「マーケット・イン」のように、今までの「作ればニーズがあった時代」から、一通りニーズを満たしたので、「ニーズを探って作り出さなくてはならない」という方向へ行かなくてはいけなくなっているのだと思います。
そこには、ニーズを作り出す中での競争の激化があります。それまでは、作ればニーズがあったのでよかったのですが。競争の激化による「経済成長」と「豊かさの低減」のバランスにポイントがあるんじゃないかと思っています。僕のまわりを見ても、競争に勝ち残るために、人の心も体も壊しているという現実をたくさん見ています。
昨日は最終便で来たので、夜11時くらいに都内に入ったんですけど、ほんとにみんな疲れ切っていて、大丈夫かなと思いました。飲んで酔っ払って気持ちのいい人はいいですけど、「仕事帰りだな」という人たちは、明日生きる希望があるんだろうかという顔をしていて......。自動改札でどっちが先に行くかでこぜりあいをしていたり。ちょっと隣に行けばいいだけなのに......。
そういう意味での、「経済成長」と「それに伴う人の豊かさの低減」のバランスが大事になってくるんじゃないかなと思います。
競争が激化するだけの経済成長は頭打ちだと思っているんです。よく「グローバリゼーション」と言いますが、「アジアが駄目なら、次はBRICs」「次はアフリカ」と、その次はどこへ行くの?と考えると、延命措置でしかないと思います。
だから、このままの形態では、「量」の経済成長は望めない。というか、やってしまったら、世の中に悲しいことがたくさん増えてしまうんじゃないかと思います。「経済成長に伴う犠牲」です。
競争の激化や、個人レベルでの豊かさの低減、国家間の戦争も、たぶん、経済成長が「目的」になっているからだと思っています。経済成長は「手段」であると考えるようにしていかないとよくないと思います。
- Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか
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海士に住んでいる人間として考えると、1000年以上の長い歴史の中で日本人がはぐくんできた、限られた自然環境や人間関係の中で共存する知恵や文化が失われてしまったんじゃないかなと思います。
人や物の移動がスムーズになり、「つくり出せば資源はあるのだ」と錯覚することによって、限定性を排除したがゆえに、無限に拡大しないと成立しない社会をつくってしまったのではないか。
『定常型社会』で広井先生も書かれていますが、「限定性がある」ということをもう一度考える必要がある。そういう知恵や文化は、長い年月をかけて日本が各集落で持っていたと思います。それを失いつつあるというか、かなり消滅してしまったと思います。
親の世代がつくってきた経済成長を否定する気は全然ありません。こういうステップを踏んでこないと、現状もわからなかったし、地球規模で考えれば限定されたものであることにも気づかなかったと思うので。今までは経済成長が必要だったということは否定しませんが、見直すべきタイミングは今じゃないかなと思っています。
そういう限られた自然環境や人間環境の中で共存する知恵や文化が、海士町にはまだ残っています。都会から遠く離れていたから、不便だからこそ、消えずに残っているんです。
週明けに地域のお祭りがあるんです。お祭りがあったり、しめ縄にまつわる農的な暮らしの文化があったり、それに紐づいた神社の行事があったり。「人の和を乱さない」という価値観が残っていることが海士町の魅力だと思っています。
- Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか
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さきほど「経済成長とは、目的ではなく手段である」と言いましたが、その先にある目的を見失わないということだと思います。
では、目的は何なのか。「人々の心身ともに豊かな生活の実現」ではないかと僕は思います。「幸福」と言ってしまえばそれまでですが、「幸福」というぼんやりした言葉より、「心身ともに豊か」と言うほうが、僕はイメージしやすいかなと思います。
今までは、ピラミッド型の経済社会、生き残り社会になっていて、頂点以外は生き残るのが難しい競争社会になっている。頂点にいる人は生き残ることができるけれど、その頂点でやっている人も心がすさんでいく。多くの場合、ピラミッドの下にいる人たちから搾取して成り立っていますし、それを自覚してやっていますから、「本当にそれがいいの?」と突き詰められたら「NO」なんだけれども、そうせざるを得ない。それは自分の稼ぎを得るためです。そうすると、本当に神経が太くてタフな人でないと生き残れない。
そういう意味では、心身ともに豊かという中でも、心が豊かになるというところは、今のままでは無理で、「足るを知る」ということを意識しないといけないんじゃないかな。
内山節さんから教わったことがあります、これからの時代は、量的な意味で大きくなることは無理だということを悟った時代だから、「下手な損」ではなく、「上手な損」をしないといけない、と言われました。
下手な損をすると、いろいろなものが下がって、みんなが貧しくなる。上手な損の仕方を考えれば、たとえば、労働時間は減るけれども、逆に空いた時間で、家族で土と触れながら野菜や米を作る時間を持つことで、心身ともに豊かな時間になるとか、そういうことができるんじゃないかと思います。
それが、僕がいつも言っている「暮らしと仕事と稼ぎ」の概念であり、「自給経済」と「贈与経済」と「貨幣経済」をミックスした経済モデルを自分の中に採り入れることによって、上手な損ができるんじゃないかなと思っています。
僕は、京都の料亭、草喰(そうじき)「なかひがし」の中東さんを非常に尊敬しています。草を喰(は)むという意味なんですが、「喰む」という食べ方は、量ではなく質を食べるということです。「食べる」と言うのはおなかを膨らますことであって、「喰む」というのは、心に味を膨らますものであると仰っているんです。
そういう質的な経済活動の向上が必要じゃないか。両立するところに乗っかることじゃないかなと思っています。
最後に、さきほど言った「延命措置」は必要だと思います。シフトする間の時間稼ぎとして、です。この間も経産省の方とこのことは議論していたんですけど、もったとして50年じゃないかなと思うんです。ほっておくと20~30年で、あっという間に行き止まりまで行き着いてしまいそうで。
時間を稼いでいる間に、本当の出口づくりをしていかないと、みんなが規模の経済成長の競争の中で迷子になっちゃうんじゃないか。そういう意味で、量と質の経済成長は今はどちらも必要だと思います。延命措置を頑張る人には、延命措置を頑張ってもらって、その間に、次に続く「経済成長と持続可能で幸せな社会の両立ができる出口」づくりをやっていく。それが「定常型経済」の考え方なんですが、そこをやっていかないといけないんじゃないかと思っています。
僕たちの会社で出版した「僕たちは島で、未来を見ることにした」という本の中にも書いたのですが、これからの時代の企業活動に必要なのは、「ソーシャルウィズ」だと考えています。
それは、社会の「担い手」としての役割を自分たちの会社に採り入れ、顧客に向けて発信し、顧客とともにそのサービスを進化させていく企業活動の在り方のことです。〝ウィズ〞という関係性は、企業と消費者が相互理解を通して同じ方向を向き、個々が垣根を越えた当事者として物事を考えることができる関係性です。従来の関係性が対面通行であれば、こちらはいっしょに並走する感覚です。
社会にとって、自分にとって、あるいは地球にとって、何が必要で、あるいは何が不要か。そしてこれからの未来でいっしょに何を必要としてつくっていくべきか。それを個人が社会といっしょに考えて、いっしょに行動していく世界観なのです。
こういう社会を実現させていく中で、海士町という小さな島は、「経済成長と持続可能で幸せな社会の両立ができる出口」を作りやすい場所じゃないかと思っていて、僕は海士町でこれからも頑張っていきます。
インタビューを終えて
全国的に注目される海士町で活躍中の阿部さん。島という「限定性」が日常である環境で暮らしているからこその「実感」を共有してくれたと思います。「海士町という小さな島は、"経済成長と持続可能で幸せな社会の両立ができる出口"を作りやすい場所じゃないか」という言葉、とても勇気づけられます。海士町のこれからの取り組みも応援しています!
取材日:2014年7月4日
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