100人それぞれの「答え」

写真:ジェイ・トンプトさん

037

ライター・環境ビジネス活動家

ジェイ・トンプトさん

大事なことは、今日からでも新しいモデルの実験を始めることができる、ということです

Q. 経済成長とは何でしょうか?

経済成長の定義の一つは、「GDPが増加すること」だと思います。現在の私たちの経済システムは、この200年ほどの間にじょじょに発達してきました。この経済システムの特徴の一つは、新しい市場が必要だということです。地理的な意味で新しい市場ですね。市場システムに新しい関係を持ち込む必要があるのです。それはつまり、あらゆる種類の新しい資源に対するいわば飽くことのない欲求を意味します。

このプロセスは、石油という、安価で輸送しやすいエネルギーの出現により、加速されてきました。特にこの数十年間、幾何級数的に増大しました。これが私の経済成長の定義です。

Q. それは望ましいことでしょうか? 理由は?

おそらく、今日私たちが認識しているマイナスの結果の多くは、"意図せぬ結果"だと言ってもよいでしょう。そういうと寛容すぎるかもしれませんね。結果の多くは、予期されていたでしょうし、予期できたのだろうと思います。

一方で、経済成長は物質的により快適なライフスタイルを多くの人々に提供しました。しかし、最終的には――私たちは最終段階にいると思うのですが――、それは望ましいものではありません。

この手札ではすでに行き着くところまで勝負したと思います。それによって、一握りの人々が裕福になりました。生物圏は大規模に破壊され、人々のつながりの崩壊を招きました。強力な巨大企業は裕福になり、政治的に強い立場を手に入れ、民主主義を損なっています。

私たちが完ぺきに機能する民主主義を持ったことがあるどうかは議論の余地がありますが、何であれ私たちが持っていたものは、特にこの数十年間に大いに脅威にさらされています。ですから、望ましくありません。

写真:ジェイ・トンプトさん

Q. 経済成長は必要なものでしょうか?

こうした経済システムは、この200~300年の間に発達してきました。また、それを支えてきた物語(ストーリー)も同じです。多くの人々にとっては、自分の目の前に見えることがすべてだと思います。そうすると、「この経済システムの代わりはない」ということになります。

でも、この経済システムがどのように機能しているのかという側面やその影響に関して分析し始めると、代替となるモデルが実験されていたり、提案されてきたことが見え始めてきます。なかには、かなり長い間実際に使われているものもあります。私たちの今の経済システムの運用方法とは違う別の方法が実はたくさんあることがわかります。

「私たちには経済成長が必要であり、他に代替はない」という物語(ストーリー)は、そのシステムを牛耳っている人たちの利益に役に立つものなのです。そういった物語(ストーリー)は、政治プロセスや教育制度など、私たちの暮らしのさまざまな側面に影響を与えてきました。

トランジション活動や社会的環境的正義に携わる活動や組織のすべてにわたって、私たちが取り組んでいる仕事のひとつは、私たちの心をいわば「非植民地化する」ことであり、新しい物語(ストーリー)を提示することです。経済システムがどのように機能するか、世界についての別の見方を提示することなのです。

Q. つまり、経済成長は必要なものではないということですね?

ええ、必要ではありません。

Q. 経済成長を続けることは可能でしょうか? その理由は? 

言いたくはないのですが、経済成長を続けることは可能だと思います。なぜなら、搾取できる資源がまだあるからです。残念なことですが。また、タールサンドやフラッキング(水圧破砕)といった動きを見ていると、今、私たちがどこへ向かっているかもわかります。

今後、どれくらいの期間、経済成長が可能か? それはわかりません。おそらく可能ではないでしょう。多くの経済学者が、「私たちは経済成長の終焉に達した」と言っています。終わりが来るのは確実です。楽に終わりを迎えるのか、辛い思いをしながら迎えるか......。

経済成長が続くかもしれない理由、今後も経済が成長していくであろうと思う理由は、世界には、こうしたシステムから恩恵を受けている人たち、つまり、実業界や政治界で力を持つ人々がいるからです。その恩恵は公平に分配されるわけではないのです。だからこそ、現在、代替案を創り出すための取り組みが強まっているのだと思います。困難にうまく対応しようと。私はそう願っていますし、そう信じています。

写真:ジェイ・トンプトさん

Q. 経済成長を続けることには何らかの犠牲やデメリットが伴いますか? その内容と理由を教えてください。

そのうちのいくつかについてすでにお話ししたと思いますが、経済成長を続けること、そうですね、今の私たちの経済システムは、文字通り地球を"消費"しています。危険信号は私たちのまわりにあふれています。

明らかに、大気中の二酸化炭素により気候は変化していますし、海洋も炭素によって酸化し、変化しています。漁業資源は枯渇し、森林は破壊されています。世界各地で進行している大規模な搾取により、人間の暮らしも破壊されています。大きな不平等などなど。

ですから、経済成長が続くことは多くの犠牲をもたらすと思います。こうしたマイナス面は、人々の目を覚ましつつあります。人々の背を押し、何らかの方法で抵抗し、代替案を創り出すための行動の原動力となっています。

Q. 経済成長が続く中であなたの国が失ったものはあるならば、それは何ですか?

2つの国についてお話しできると思います。私は米国カリフォルニア州生まれなのですが、自分自身の人生を振り返ると、カリフォルニアに存在していた自然の美しさの大部分が失われてしまいました。

30年前、いえ、私が子どもだった頃なので、40年も前になるでしょうか。汚染は深刻で、疎外感が蔓延していました。若者は育った地域で住むことができませんでした。カリフォルニアは、さまざまな面で「舗装」されました。古いパラダイムをもとにした新規開発で舗装された地域でスプロール現象が見られ、大通りは当てもなく広がり、大規模小売店が地域のアイデンティティを著しく損ないました。この数十年間、私たちのシステムの「グローバル化」という性質によって、次第にまともで意義のある職業や生業に就く機会や可能性はほぼ失われました。これらは私が個人的に経験してきたことの一部です。

そして、米国全体で、さらには英国でも見られることは、もし、機能する民主主義や説明責任が存在していたことがあったとしても、今日、それらは明らかに失われてしまっているということです。

企業幹部と政府役人たちが互いに天下りすることは、世の中で多く、公けになっています。米国ではブッシュ政権によって、そして、程度はそれほどではなくともオバマ政権でも、――もちろん、起きていることすべての責任が大統領にあるわけではありませんが――、企業権力が優位であることが想定され、認められています。それ以外の物語(ストーリー)を語ろうとする試みすらありません。

例えば、米国最高裁判所は最近、市民の団結などについての判決で、「企業は基本的に人であり、現実に暮らしている人々よりも多くの権利と少ない責任を有する」ということを全国規模で法律化しました。

言論の自由は、実際のところ、お金で買えるものです。お金があればあるほど、より多くの言論の自由を得ることができます。これは政治システムに莫大な影響を与えました。さらに、人々のための社会保障制度を解体しました。企業向けの社会保障制度はもちろん継続されています。

2つの国についてお話しするといいましたが、こうしたことの多くは英国でも起きています。過去30年間において、ほとんどの場合、英国は米国に追従していますから。

Q. 最後の質問です。経済成長と持続可能で幸せな社会の関係についてどう思いますか?

私たちは、この経済成長パラダイム全体の枠を越えなければならないと思います。すでに話したように、多くのことにおいてすでにその時代は終わっています。

異なるタイプの社会を築くためには、異なるタイプの経済システムを作らなければなりません。もし、私たちが持続可能なものを求めるならば、私たちは資源の使い方、消費パターン、暮らし方を根本的に見直さなければなりません。

もう一つ取り組む必要があるのは、市場に持ち込まれた人と人とのつながりの一部を解放すること、または取り戻すことです。本当に変えなければならないことすべてについてお話ししようとしたら、何時間もかかるでしょう。しかし、大事なことは、今日からでも新しいモデルの実験を始めることができる、ということです。

Q. ジェイさんは、新しいモデルを作ることに取り組んできたのですよね。

トランジション運動の根底にあるのは、こうした問題に対するコミュニティレベルでの対応です。ですから、トッドネスなどの地域では、まったく異なるビジネスモデルを使って、市場の内外のニーズを満たすために、さまざまな方法で人々が協力しています。

これらの多くのコミュニティでは、生活の質が向上し、人と人の交流や関係が深まり、幸せにつながっています。同時に、消費が減り、エネルギー消費量も削減され、市場システムへの依存度も軽減されました。自分たち自身のために取り組む人が増え、コミュニティのニーズに応える新しいタイプの事業を、自然の限界を尊重しながら、誰でも受け入れる形で、資源を公平に共有して、提供するようになっているのです。

写真:ジェイ・トンプトさん


インタビューを終えて

トランジションタウン運動のメッカでもあるトットネスに米国から移り住み、さまざまな新しい取り組みを展開しているジェイさんが来日された折に、トットネスの取り組みを紹介するセミナーを開催させていただきました。このインタビューもそのときにさせてもらったものです。実際にコミュニティでの取り組みを進めてきた体験にもとづく考えと手応えの伝わってくるインタビュー、とても勉強になり、また刺激を受けました!

取材日:2014年11月26日


あなたはどのように考えますか?

さて、あなたはどのように考えますか? よろしければ「7つの問い」へのあなたご自身のお考えをお聞かせ下さい。今後の展開に活用させていただきます。問い合わせフォームもしくは、メールでお送りください。

お問い合わせフォーム(幸せ経済社会研究所)

i_mail.png