100人それぞれの「答え」

写真:鑓水 青子さん

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歌人

鑓水 青子(やりみず せいこ)さん

「経済成長」なんていうから、とてもよい言葉に思えてしまうんですね。言葉の持つパワーは、偉大です。

Q. 経済成長とはどういうことですか、何が成長することですか。

経済についてこれまで真剣に考えてこなかった、という自分自身の反省もあるのですが、「経済成長」という言葉の持つ意味は、新しいものをどんどん作って産業界が発展するということでしょう。少なくとも日本では、多くの人がそう考えているし、そう思い込まされていると思います。

Q. それは望ましいものですか、それはなぜですか。

産業界が発展するのは、悪いことではありません。それ(新しく作られたもの)が本当に求めている人にいき渡って、それによって犠牲が出ないのであれば。ただ、度を越してしまうと、多くのムダや犠牲が出てしまうので、望ましくはなくなります。うまくバランスが取れていれば、望ましいでしょう。

そうそう、「経済成長」なんていうから、とてもよい言葉に思えてしまうんですね。「経済が成長する」って、なんだかすばらしいことのように感じませんか? 私には3歳の息子がいますが、「子どもが成長する」っていうと、どんな些細なことでも手放しで喜びますから。そうなると、どんどん成長しよう! という傾向になってもおかしくありません。

これ、語順を入れ替えて「成長経済」にすれば、イメージも違ったかもしれませんね。なんだか、経済がむくむくと膨れ上がってこちらに迫ってくるような感じがして恐ろしくありませんか? そうなれば、どこかで歯止めをかけようという気も起きると思うんですよね。言葉の持つパワーは、偉大です。

Q. それは必要なものですか、それはなぜですか。必要な場合、いつまで、どこまで、必要でしょうか。

政治や経済のことは、恥ずかしながらよくわからないのですが、戦後の尺度のまま続いてきている、というふうに思えます。戦後当時はそれでよかったのでしょうけれど、これからを考えるうえでは障害となるでしょう。

現代社会においても、経済の成長はある程度必要ですけれど、それが本当にみんなの役に立っている、という前提が不可欠です。

もしかしたら、経済においての成長はもう必要ない時代になったのかもしれません。経済成長している場合ではないかもしれませんね。ただ、この日本にも、貧しい暮らしを余儀なくされている人が一定の割合で存在します。そういった人たちをどう支援していくか、という問題が残っています。

Q. 経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか。

可能だと思います。だからこそ怖い、という恐れがあります。「経済は成長すべきもの」という観念が蔓延していますから。産業界、企業や政府などが、自分たちの利益、数字だけを追い求めて成長していくことに重きを置くのであれば、非常に危険だと思います。

Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか、それは何ですか、なぜ生じるのですか。

何かを新たにつくる場合は、原料や資金などの資源が必要ですよね。原料や資金をどうやって調達するのか、その過程で何かが犠牲になるのではないでしょうか。環境にも影響を及ぼすでしょうし、貧富の差も広がるでしょう。

Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか。

環境に負荷をかけすぎてしまったことや、みんなが同じ方向を向いてきたことによる没個性や、心のケアでしょう。人権を無視した労働もそうですね。犯罪の種類も増えたように思います。ですが、これらは今、少しずつ見直されてきています。

Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか。

「持続可能で幸せな社会」のなかに「経済成長」があれば理想的だと思いますが、「経済成長」しながら「持続可能で幸せな社会」を保つのは難しいでしょうね。「経済成長」でなく、再生可能な資源のみを利用するなどして「循環経済」にシフトしていければいいですね。私たちは、大自然の恩恵を受けている、ということを決して忘れてはなりません。

幸い、全体的に消費の傾向は少しずつ良いほうに向かっていると思います。安いから、高いから、流行っているから、という基準よりも、それぞれの価値観で買い物をする人が増えていますよね。自分はどこにどれだけお金をかけるか、どこにはお金を使わないかを、みんなきちんと考えています。音楽業界や出版業界でミリオンセラーが出にくくなっているのも、そういった傾向に一因があるのではないでしょうか。

サービスの内容やビジネスのやり方も多様化しています。数字を追い続けるだけの企業間競争の規模は小さくなっています。これからは、ユーザーを第一に思い、環境に負荷を与えず、生態系を壊さず、人権を尊重しながらどうやってビジネスを展開していけるかということが経営戦略の軸になってくると思いますし、それが企業生命にかかってくると思います。


インタビューを終えて

「成長」という言葉の持つパワーに言及されたのが印象的でした。歌人ならではの感性かもしれません。私も通訳・翻訳者という言葉に携わる仕事をしてきたので、同じような「言葉の創り出すイメージの影響力」を感じます。「経済成長」の代わりに、「経済拡大」「経済膨張」と言ったら、ずいぶんイメージや好ましさの感じが変わりますよね? 新しい言葉が求められているということを改めて感じました。

取材日:2015年1月13日


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