100人それぞれの「答え」

写真:ヴィム・ハフカンプさん

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環境経済学者、ロッテルダム大学・アントワープ大学名誉教授

ヴィム・ハフカンプさん

現在の経済成長のプロセスによって、私たちは、世界をもはや人間の生存に適さない場所に変えつつあるのです

Q. 経済成長とは何でしょうか?

経済成長とは、被雇用者(と自営業者)の所得総額と企業の利益の合計が増えることです。ある経済のあらゆる企業、非営利組織、政府組織(つまり民間部門と公共部門)が生み出す付加価値の合計が年々増えていくプロセスです。公式経済の中で測られるもので、国民勘定システムの指標(多くの場合、一国の国内総生産=GDPと呼ばれます)として計算されます。この指標は、都市や地域、または大陸といった規模でも用いられます。

Q. それは望ましいものでしょうか? その理由は?

経済成長は多くの人々にとって望ましいものです。被雇用者にとって、所得が増えれば、よりよい食べ物をよりたくさん買ったり、より大きくて素晴らしい、よりよい家具を備えた家を手に入れることができます。より多くの本を読んだり、より多くの映画を見たり、夢のような休暇に出かけることができます。働いている本人だけではなく、その人の家族や子どもたち、親たちにとってもそうです。

利益が増えれば、企業はより多くの投資をし、イノベーションを進め、より高品質な製品やより低価格の製品を市場に提供することができます。所得と利益が増えるということは、政府にとっての税収が増えるということでもあり、それによって、よりよい学校や大学を増やし、より多くの福祉プログラムやインフラ整備、文化的発展を進めることができます。

私は、経済成長はあるところまでは望ましいと考えています。ほとんどの人々は(起業家も政治家も働く人も同じように)幾何級数的な成長(年率3%)の着実なプロセスを好みます。アジアやアフリカの発展途上の経済では、より高い6~10%をめざしているところもあります。しかしながら、幾何級数的な成長は、天然資源の過剰な使用、汚染、生物多様性の喪失に関するリスクを高めます。これが、「成長は普遍的に望ましいものではない」理由のひとつです。

Q. それは必要なものですか?

多くの人々にとって、経済成長は望ましいだけではなく、必要なものでもあります。そういった人々は、経済成長は失業者に雇用を創り出し、貧困を軽減し、社会的な不平等を減らし、グローバル化の進む世界の中で、より強い国を作るために役立つと考えています。失業者や、母親と父親が2つかそれ以上の職を掛け持ちして何とか帳尻を合わせようと必死になっている家庭にとってみれば、「成長は必要だ」と言うことでしょう。

しかし、あるレベルを超えると、消費は過剰な消費となり、より多い食べ物は肥満につながり、発展は物質主義となり、病的な状態になってしまいます。豊かな国々ではこういった兆候がたくさん見られます。

Q. 経済成長を続けていくことは可能でしょうか?

グローバルな規模では、現在のような幾何級数的な経済成長を続けていくプロセスは実現不可能以外の何物でもありません。私たちの石油とガスへの依存は恐ろしいものになる一方、世界規模での埋蔵量は減少し、化石燃料に払うお金が暴力的な国際紛争をもたらす(少なくともその一端となる)ようになっています。同じことが生物多様性の損失にも言えます。アジアや南アメリカでの森林被覆が大規模に失われていること、北部アフリカや南ヨーロッパでの砂漠化を考えてみてください。現在の経済成長のプロセスによって、私たちは、世界をもはや人間の生存に適さない場所に変えつつあるのです。

Q. 経済成長を続けることは、何らかの犠牲やデメリットをもたらしているでしょうか? もしそうだとしたら、それはどのようなもので、なぜでしょうか?

これまでのところ、温室効果ガスの排出を著しいペースで減らしつつ、経済成長のプロセスを続けることができている国はありません。温室効果ガスの排出の影響は、地球規模で、現実のものとなっており、次第に向上しているモデリングとシナリオによると、そのダメージは破局的なものになるでしょう。

これは、単にモルディブやフィリピンの話ではありません。世界の人々の大部分や多くの国家政府は、その政治色に関係なく、否認状態にあります。つい最近のリマでの会議でもそうだったように、温室効果ガスを大量に排出している国々の政府は、あらゆる機会を活用して、京都議定書と各国の批准、フォローアップ交渉を頓挫させてきました。 

Q. 経済成長を続けてきた間に、あなたの国が失ったものがあるとしたら、それは何でしょうか?

オランダは、水の安全性を失いました。わが国は低地の国で、ヨーロッパの3つの主要な河川であるライン川、ムーズ川、スヘルデ川のデルタ地帯にあります。国土は沈下し続ける一方、海水面は上昇し続け、河川氾濫のリスクは高まりつつあります。私自身の家もいまや海抜「マイナス6メートル」です。つまり海面下にあるのです。

経済成長ということについては、オランダは"その無邪気さ"を(もともとそれがあったとして)失ってきました。開かれた経済でグローバル化のプロセスに適応しようとしており、それが持続可能ではないとわかっていても、無限の幾何級数的成長のプロセスをめざし続けているのです。

Q. 経済成長と持続可能で幸せな社会との関係をどのようにお考えですか?

人々に「人生で最も大事にしているものは何ですか?」と聞いてご覧なさい。少なくとも、ここオランダでは、「良好な健康、最愛の人の愛情、公正な社会での良好な社会的な関係性」というでしょう。「繁栄」や「幸せな社会」と呼んでもよいでしょう。

今こそ、経済成長の象徴として偶像視されている"金銭で測られた価値"から目を離して、天然資源の枯渇や汚染のプロセスを止め、皆の言う「人生で本当に大切なもの」に目を向けるべき時なのです。


インタビューを終えて

ヴィムは、世界の持続可能性やシステム思考の研究者の集まりであるバラトン・グループのpresidentを務めているオランダ人です。オランダは気候変動による海抜上昇のリスクが高いとは聞いていましたが、お家が「海抜マイナス6メートル」という海面下になってしまったというぐらいの状況なのですね。「現在の経済成長のプロセスによって、私たちは、世界をもはや人間の生存に適さない場所に変えつつあるのです」という言葉が現実感をもって迫ってくる気がします。

取材日:2014年12月15日


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