100人それぞれの「答え」
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よく生きる研究所 代表
榎本 英剛(えのもと ひでたけ)さん
藤野でのトランジション・タウン活動で導入している地域通貨は、GDPには一切貢献していませんが、モノやサービスの交換は活発に行われています
- Q. 経済成長とはどういうことですか、何が成長することですか
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現代社会において「経済成長」というと、単にGDPが成長することを意味しているような気がします。
私の師である仏教哲学者で社会活動家のジョアンナ・メイシーは現代社会を「産業成長型社会」と呼んでいますが、まさにGDPは産業の成長を測る指標なのではないでしょうか。
- Q. それは望ましいものですか、それはなぜですか
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GDPにはいろいろなものが含まれているので、一概に望ましいとか望ましくないとは言えないと思います。
たとえば、戦争に使う武器を製造したり、販売したりするのもGDPに含まれるので、その場合は望ましくない と言えるでしょうし、自然エネルギーの開発や普及などであれば望ましいと言えるでしょう。ただ、後者で あっても、その開発と普及の仕方によっては環境破壊につながったりもするので、産業の成長ばかりに重きを置く経済はやはり限界があるように思います。
- Q. それは必要なものですか、それはなぜですか。必要な場合、いつまで、どこまで、必要でしょうか
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人々が必要とするモノやサービスを交換する経済活動そのものは必要だと思いますが、経済成長が必要かと言われるとクエスチョン・マークですね。たとえば、私が住んでいる藤野という町ではトランジション・タウンという市民活動の一環で地域通貨のしくみを導入していますが、いわゆるGDPには一切貢献していませんが、モノやサービスの交換は活発に行われています。仮に必要だったとして、それは環境許容量の範囲内に収めることが前提となるでしょう。
- Q. 経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか
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それは難しいと思います。なぜなら、これまでの経済成長は石油などの化石燃料を大量に使用することで成り立ってきた部分が大きいので、今後ピークオイルの影響が顕著になってきたときにそれが大きな足枷となると思うからです。 これは化石燃料だけに限られたことではなく、土地や水、水産資源、森林資源などおよそ経済成長に欠かせないと思われる資源がすべてピークに達しているか、達しつつあります。アメリカ人ジャーナリストのリチャード・ハインバーグは「ピーク・エブリシング(すべてがピークに達する)」と言っています。
- Q. 経済成長を続けることに伴う犠牲はありますか、それは何ですか、なぜ生じるのですか
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経済成長を続けることに伴う犠牲は大きく分けて3つあると思います。1つは環境的な持続可能性。環境許容量を超えた経済成長は環境破壊を不可逆的なところまで進展させてしまう可能性があります。
2つ目は社会的な公正。今の経済のしくみは富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる不均衡なシステムであり、経済成長は貧富の格差を拡大する可能性があります。
3つ目は精神的な充足。調査によると、経済の成長と人々の幸福度は必ずしも比例しておらず、いわゆる先進国を中心にうつや自殺が増加するなど、かえって精神的な問題を蔓延させる可能性があります。
- Q. 日本がこれまで経済成長を続ける中で失ったものがあるとしたら何でしょうか
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前の質問とも関連しますが、一言で言うと「つながり」だと思います。人の幸福よりも経済成長が優先され、より多くのものをより早く生産し、消費し、廃棄するシステムの中で、私たちは自分とのつながり、他者とのつながり、自然とのつながり、地球とのつながりを失ってきたのではないでしょうか。先述のジョアンナ・メイシーは、世の中のあらゆる問題は私たちがこれらのつながりを失ったことから起きていると看破しています。そして、今の経済のしくみがこうしたつながりを失わせる方向に働いていることは間違いないと思います。
- Q. 「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」の関係はどうなっていると考えますか
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ジョアンナ・メイシーは持続可能な未来を築くには、「産業成長型社会」から「生命持続型社会」への転換が必要だと訴えています。 そして、そのためには、まずこれまで当たり前だと思っていたものの観方を変える必要があると。経済の観方を変えることもその1つだと思います。「裸足の経済学」を提唱したチリの経済学者マンフレッド・マックスニーフは「経済学は本来、人間の基本的なニーズ(生命維持、自由、存在意義、創造、余暇、参加、理解、愛情、保護)を満たすためにある」と言っています。二律背反的な関係になってしまった「経済成長」と「持続可能で幸せな社会」を両立させるためには、経済に対する新しい観方にもとづいた「新しい経済」が必要だと思います。
インタビューを終えて
トランジション・タウンの活動に携わってきた榎本さん。榎本さんのお住まいの藤野でのトランジション・タウン活動で導入している地域通貨は「GDPには一切貢献していませんが、モノやサービスの交換は活発に行われています」とのこと、「活発な経済活動がGDPと関係なく成り立つ」という、とても示唆に富む実例となっているのだなあ!と思います。
そして、「人の幸福よりも経済成長が優先され、より多くのものをより早く生産し、消費し、廃棄するシステムの中で、私たちは自分とのつながり、他者とのつながり、自然とのつながり、地球とのつながりを失ってきたのではないでしょうか。先述のジョアンナ・メイシーは、世の中のあらゆる問題は私たちがこれらのつながりを失ったことから起きていると看破しています」というご指摘には、大学院時代のカウンセリング(自分自身とのつながりを取り戻す)から、環境ジャーナリスト(地球とのつながりを取り戻す)へと活動してきた自分の人生のテーマとも重なって、深く考えさせられます。失ったつながりをどうやって取り戻すのか?――榎本さんたちが展開されてきたトランジション・タウンの活動の中核の1つのだろうと思います。
取材日:2015年4月18日
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