100人それぞれの「答え」

i_enq_094.jpg

094

法政大学教授 サステイナビリティ研究所専任研究員

白井 信雄(しらい のぶお)さん

経済成長だけを重視することによって、「地域資源」や地域資源とつながる人々 の暮らしの喜び、幸福を失ってきた

7つ質問がありますが、まとめての答えにさせていただきます。

「経済成長」という場合、「経済」とは何を指しているのか、「成長」とは何なのかを考えてみる必要があります。一般的に使われている「経済成長」は、狭い経済あるいは狭い成長をとらえて言っています。

広く「経済」を捉えれば、「市場経済」と「自給経済」、「贈与経済」等があります。このうち、「経済成長」と言っているのは、「市場経済」の成長のことだと思います。そこだけを追い求めることは違うでしょう。それだけが、社会の目標ではないだろうと思うわけです。

また、「成長」といっても、「フロー」の成長だけでなく、「ストック」を増やすことも大事でしょう。「短期」の成長だけでなく、「長期」の成長もあります。これまでは、特に「短期のフロー」を増やすことを「成長」と言ってきたわけです。「ストックを増やす」、「長期的な安定的な成長を続ける」、あるいは「質を良くする」、「分配や分布をどうするか」ということも、目標設定としてあるはずなのに、「フローの短期的な量的な拡大」を「成長」と言ってきたのだと思います。

このように、「経済」の状態を図る1つの側面だけを指して、「経済成長」と言い、それを最優先の目標としてきたことに、そもそも誤りがあります。

よく、経済成長が優先される段階があり、それが行き詰る段階になって、経済成長と環境負荷のデカップリングを考える段階になったとか、一定の水準までは経済成長が必要であるようなことが言われますが、もともと「経済成長」だけを最優先にすることに間違いがあったと考えます。

高度経済成長期は日本の発展時期といえるかもしれませんが、そうして「経済成長」ばかりを求めることで、公害という深刻な問題を起こしてしまったわけです。「経済成長」を追い求めることはけしからん、とまで言うつもりはなく、狭い意味での「経済成長」だけを求めることを盲目的な目標にするのは間違っていると言いたいわけです。

我々が共有すべき目標としては、「経済成長」以外の他の側面もあるわけです。端的に言えば、「持続可能性」を目標にすべきだと思います。「持続可能性」の定義は様々ですが、非常に多様な要素で構成されているのが「持続可能性」で、その多様な要素を同時に満たしていくことが必要だと思います。その多様な要素の1つが「経済成長」であることはいいと思います。

「持続可能性」については、枝廣先生が定義されているものも拝見していますが、これまで多くの国際的な議論や研究がされてきました。そうした議論を集約して、私なりに定義している「持続可能性」の原則もあります。

それは、「他者に配慮すること」、「主体の活力を高めること」、「リスクに対応すること」、「将来への基盤を整備すること」の4つです。「他者に配慮する」の他者には、人間以外の環境、現在世代に対する将来世代、先進国からみた途上国等が含まれます。ただ、他者に配慮しても自分たちが元気でなければ持続可能ではないので、「主体の活力」が大事になります。この活力の一つの側面が経済です。経済的ではない社会面も「主体の活力」として重要です。

shiraisama_data.jpg

さて、経済成長だけを重視することによって失ってきたものは、「持続可能性」の「経済成長」以外の側面の全てということになります。それに加えて、地域の環境政策などを専門にしている立場から、地域においては「地域資源」を失ってきたということを言っておきたいと思います。

目瀬守男先生という岡山大学の農業経済学の先生の本に書いてあったのですが、「地域資源とは、地域から動かせないものだ」というわけです。「山」とか「川」とか、物理的にそこに張りついているものだけでなくて、土地の持つ要素のいろいろつながっているソフト的なものも含めて、「動かせないもの」と言っています。

そういった「地域資源」に人がかかわって、住民のなりわいや暮らしがあったはずなのに、「地域資源」ではない資源、つまり「外から持ち込めるもの(化石燃料や工業製品、化学肥料等)」を使うようになり、「地域資源」を使わなくなってきたわけです。

「地域資源」を使わなくなると、地域の魅力は激減です。地域には使わなくなったもの、放棄されたものが増えました。つながる中で活かされていない死んだ風景になります。「地域資源」とつながる人々の暮らしの喜び、幸福というものが損なわれます。

(これまでの狭い意味でいう)経済成長は、工業化や都市化、産業革命、エネルギー革命、交通革命、生活革命等と一体にあるものだと思いますが、それが地域から「地域資源」を奪ってきました。

地域再生というけれど、「地域資源」を見なおすことが不可欠だと思います。その際、「地域資源」を奪ってきた経済成長とは何だったのか、「地域資源」を再生、再活用するためには経済成長だけを追い求める考え方自体を変えていく必要があるのではないか、と思います。経済成長を重視する延長上で、地域資源の活用や地域再生を言うことに違和感を持たなければいけないと思います。

ええと、とりとめなくなりました。


インタビューを終えて

「ストックを増やす」、「長期的な安定的な成長を続ける」、あるいは「質を良くする」、「分配や分布をどうするか」ということも、目標設定としてあるはずなのに、「フローの短期的な量的な拡大」を「成長」と言ってきた、というご指摘、本当にそうだなあと思います。持続可能性こそが目標とすべきことで、経済成長はそれを支えるさまざまな側面の1つなのだ、という先生のお考えのような枠組みが共有されていたら、経済成長に対しても異なるアプローチができ、持続可能性を損なうような経済成長は避けられていたのだろうに、と。

また、経済成長だけを重視することで、「地域資源」が失われ、地域資源とつながる人々の暮らしの喜び、幸福というものが損なわれてきた、というご指摘、私もいくつもの地域に関わったり取材にうかがったりするので、そこで聞く話にも重なる思いがします。同時に、地域資源を再発見し、つながり直して、新しい地域のあり方や幸せ、暮らしを創っていこうという動きにも励まされます。

また最後に述べている「経済は必要だが、経済成長は必要ではない」というコメント、この2つを混同して考えている人も多くいるように思われることから、この明確な区別はとても大事だと思いました。

経済成長とのつきあい方も、具体を欠いた数字の世界になってしまう中央や都会ではなく、地域資源が存在し、感じられる「地域」から、やり直しや練り直しが始まる――そんな気がしています。お話をうかがって、いろいろなことを考えさせていただきました。

取材日:2015年4月14日


あなたはどのように考えますか?

さて、あなたはどのように考えますか? よろしければ「7つの問い」へのあなたご自身のお考えをお聞かせ下さい。今後の展開に活用させていただきます。問い合わせフォームもしくは、メールでお送りください。

お問い合わせフォーム(幸せ経済社会研究所)

i_mail.png