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Case.8

花束を抱えて電車に乗ると運賃が無料に! 人口減少時代にも活力ある都市を目指す富山市の取り組み

花束を抱えて電車に乗ると運賃が無料に! 人口減少時代にも活力ある都市を目指す富山市の取り組み

                 Copyright 富山市

※JFS ニュースレター No.131 (2013年7月号)より転載※
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/032977.html

北陸地方に位置する富山県の県庁所在地である富山市は、人口約42万人を抱える中核都市です。富山市はコンパクトシティへの取り組みを進めていることで知られており、これまでもJFSでは富山市のLRT(次世代型路面電車システム)導入や環境モデル都市としての実践などを伝えてきました。

路面電車の復活 - LRTへの期待 (2007年12月号)
「環境モデル都市」の取り組み事例 その1 (2009年3月号)

人口が減少していく中で、どうやって魅力的で持続可能な市にしていくのか?「花束を抱えて電車に乗ると運賃が無料!」など、すてきなアイデアを次々に実行しながら、都市縮小に向けてのファシリティ・マネジメントにも取り組んでいる森雅志市長にお話をうかがいました。

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i_cas08_02.jpg富山市では、人口が減少していく中で、できるだけ市街地に人が集まってくるようなまちづくり、クルマ一辺倒から公共交通も使うという暮らしへのシフトを進めています。

人口減少と高齢化が進む中で、市道の維持管理費にしても介護保険にしても、計算してみると、このままでは将来世代の負担が大きくなっていくことがわかります。だから、今のうちに、たとえ現在の市民に嫌がられても、将来市民のためにやらなくてはならないと強く思っているのです。

日本の人口減少は本来あるべき社会にソフトランディングしていくととらえれば、将来のまちづくりを考える好期かもしれません。しかし、地方都市ほど将来をしっかり見据えて布石を打たないと、人口は加速度的に減っていきます。5年、10年後には都市間の格差が大きくなっているでしょう。

大事なことは、きちんと実態を見て都市経営をやっていくことです。たとえば、企業誘致で単身赴任者が増えるだけではダメです。社員の家族も一緒に来てくれるよう、「社員や社員の家族から選ばれる都市像」を明確にし、そういうまちづくりをしていくことです。そうすれば、人口も減るにしてもゆっくりと減ります。そうすると、若い人も「あの都市なら将来も安心」と思える。ここがすごく大事です。

i_cas08_03.jpgだから富山市は、市の魅力を高めることをいっぱいやっていますよ。日本で一番進んだLRTのシステムがありますし、パリのようなサイクル・シェアのシステムもあります。市の予算で中心部を花で飾っています。それから、富山市では町の中で花束を買って電車に乗ると無料なんですよ。おしゃれでしょう?

僕は10年ずっとそういうことを考え、実行してきました。全体として人口が減る中で、減るにしても緩やかに減り、若い人から見ても安心を感じられるようにしたい。社員の家族からも選ばれるようにしたい。そうすることが、都市の力の持続性につながる。地方都市であっても、活力を維持でき、投資や税収にもつながります。

i_cas08_04.jpg富山市のLRTは外国の人は無料で乗れます。県外からのお客様は半額です。おもてなしです。このLRTの周辺に、公共施設を造り、民間投資も呼び込みます。中心部は地価が上がり、市の財源を支える税も増えます。

この環状線LRTが動き始めたのは平成21年12月ですが、3年間のデータをみると、女性の乗客が大きく増えています。なかでも、65歳以上の人が61%も増えている。外出機会をつくった、ということなんです。LRTで中心商店街に来る目的は、ほとんどが買い物です。3年間で中心市街地での滞在時間が15%伸び、消費金額は2割伸びています。

環状線LRTが単なる移動手段ではなく、人々の暮らし方に刺激を与えることになり、元気な高齢者をつくることにつながっている。持続性の高い町にするためには、要介護状態の高齢者を増やさないことです。それが今の若い人たちの将来の負担を抑えることになります。そう思って面白いことをいっぱいしていますよ。

i_cas08_05.jpgたとえば、高齢者向け「女子大生と行く秋の街歩きツアー」。富山大学と一緒に開発した、ブレーキ付きの安全な補助具を使ったりして歩いてもらう。それから、祖父母と孫が一緒に、ファミリーパークや博物館などの市の施設に行くと、入場料は無料になります。孫もうれしいでしょう? ママだったらソフトクリームを1回しか買ってくれないけど、おばあちゃんは3回くらい買ってくれる(笑)。祖父母も、孫と出かけるとうれしいでしょう?

ほかにもいろいろなことをやっていますよ。プラネタリウムでは、月に2回ぐらい、「カップルで来ると無料」という日を設けています。僕は「途中5分間ぐらい真っ暗にしよう」と言っているのですが、それはさすがに、学芸員が嫌がって実現していません(笑)。

i_cas08_06.jpgそれから、都心部にある街区公園で、高齢者に野菜を作ってもらっています。野菜が育っていくことは、高齢者に生命力を与えてくれます。その野菜を、町内で子どもも含めてみんなで集まって、芋煮会をするのもいいですね。

こういった中心市街地活性化のいろいろな取り組みの結果、中心市街地の人口はずっと転出超過だったのですが、5年連続で転入超過になっています。富山市全体の児童数は減っていますが、中心部の小学校では減少から増加に転じました。

また、公共交通沿線の居住人口を増やすことをめざして、まちなかや郊外の駅周辺に「居住推奨エリア」を定めています。中心市街地436ヘクタールと富山駅を中心とした19の公共交通の沿線で、「バス停から300メートル」「駅から500メートル」のエリア、約3,090ヘクタールです。まちなか居住推進事業として、一戸あたり共同住宅は100万円、戸建て住宅は50万円の助成を出し、公共交通沿線居住推進事業として、一戸あたり共同住宅は70万円、戸建て住宅は30万円といった助成で後押ししています。

都市マスタープランでは、公共交通沿線居住推進地区の人口について、2005年の28%を、20年後に42%に引き上げようとしています。現在は31%まで増えてきました。こうやってコンパクトシティ化を進めていけば、将来市民の負担を抑えることができます。

もう1つ大事なことがあります。富山市全体の地価は、全国的な基調と同じく下落していますが、中心部の地価は横ばいなのです。富山市の歳入全体に占める税目の構成比を見ると、リーマンショック以降市民税が落ち、不動産に対する固定資産税と都市計画税の割合が大きくなっています。ここで、地価が下落すると、この税収も減少することになりますから、中心部の地価が横ばいで維持できていることはとても大事なことなのです。

中心市街地の面積は全市の0.4%ですが、全市の固定資産税と都市計画税総額の22.2%を担っています。ですから、ここに投資することが一番合理的なのです。こういうことをちゃんと説明しながら、選択的・集中的な投資をしています。特に、郊外に住んでいる人に説明することが大事です。きちんと説明をすれば、「不満だけど、しかたない」とわかってもらえます。「行政に求められるものは説明責任だ」と言われますが、説明責任で止まっては駄目なのです。必要なのは説得責任です。「反対」と言う人たちをも説得する。そして乗り越えて、将来市民のために必要な施策を進める。それが行政の責任だと思います。

もう1つ大事なことは、100人が賛成するのを待って動いたのでは駄目だということです。ここがとても大事なところです。反対する人がいても、信念と確信があれば、そのうちわかってくれる。公職の責任の取り方として、反対があってもやる。その姿勢を打ち出せるかです。

この間の選挙では86%という得票率をいただき、四選されました。僕のやっていることが伝わっているのだと思います。コンパクトシティづくりも進んできたので、そろそろ「ファシリティ・マネジメント」を具体的に打ち出していこうと、2年前から市役所内に職員のチームを作って、具体的な検討を進めています。

人口減少を考えれば、道路や橋などの新設を抑え、今ある施設を修繕しながら使い続けるとともに、公共施設の統廃合を進めていくことが必要です。東洋大学の根本教授の調査によると、全国の人口30万以上の都市の最大公約数的な都市像では、体育館や学校などを含めた公の施設が市民1人あたり2.8平方メートルであるのに対し、富山市では3.8平方メートル。これを全て維持していくのは非常にコストがかかりますし、老朽化した建物を全て建て替えるのは不可能です。

少なくても、その事実を市民にしっかり伝える必要があります。今回の選挙の公約でも、はっきりと「ファシリティ・マネジメントをやります」と打ち出しました。すでに来館者があまりにも少ない施設などは廃止してきましたが、これからは使われている施設に切り込んでいくことになりますから大変だと思っています。

「使える間は使うけれども、更新はしない」「あと20年だけ使う」「今後も必要なもの」といったカテゴリーを作って、「この施設はA」「こちらはB」と公の施設にラベルを張る作業を、市長の任期である4年間でやりたいと思っています。「今期の僕の責任の1つは、嫌がられることをすることだ」と言っています。将来市民のためにすべきことを進めようとしたら、現状を守りたくて反対する人と正面からぶつかることになりますから。

でも、何でも削っていくわけではありません。地域で市民の対応をする出先機関や公民館、図書館などは減らしたくない。そのための財源をつくるためにも、その他の施設をスリム化したいと思っています。また、ファシリティ・マネジメントを進めて市民に痛みを我慢してもらうなら、市でもきちんと人件費を減らしていくなどの取り組みが必要です。でも、それを給料カットでやると士気にかかわります。富山市では、職員の給与カットなしに2005年度に比べて11%、人件費を減らしています。

具体的には、残業を減らして人件費を減らしています。市庁舎の電気は18時になるといったん切られます。そのあと自分で電気を点けて残業できますが、最大でも20時までです。小学生の子どもを持つ女性職員が夜22時、23時まで働いているのはよくないですよね。ワーク・ライフ・バランスがとれる文化に変えなくては、と働きかけをしています。

こういった取り組みが評価され、2012年6月、OECDが選ぶコンパクトシティの世界の先進モデル5都市の1つに選出されました。「東アジアにこれからいくつか出てくる人口減少高齢社会でのコンパクトシティ戦略のモデルだ」と評価いただき、国連の会議や海外の国際会議への招聘も増えています。

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お話を聞いていて、きちんとした現状のデータの分析と今後の予測、わくわくするようなアイデアと、市民にきちんと説明し、説得する力を併せ持っていらっしゃるからこそ、世界に先駆けて人口減少・高齢社会に入った日本の中でも、持続可能で幸せな暮らしに向けての都市づくりの成果があがっていることがよくわかりました。今後の展開や他の自治体への影響などにも要注目!です。

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※写真提供:すべて富山市

(枝廣淳子)

 

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