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Case.23

地域経済を潤す協同組合の支援に乗り出したカリフォルニア州バークレー

(Yes! Magazineより)

米国では地域の経済を活性化につなげようと、自治体が協同組合を支援する活動が広まっています。最近では、カリフォルニア州バークレーで協同組合支援のための条例が新たに可決されました。

カリフォルニア州バークレーのベーカリー「チーズボード」のオーナーは、1971年に家族経営の店を協同組合にすることに決めました。ベーカリーで働いていた従業員とともに出資し、経営を担う「労働経営者」となったのです。数年後、協同組合の事業を広げ、サンフランシスコ・ベイエリアで6件のベーカリーからなるグループ「アリスメンディ協同組合協会」(Arizmendi Association of Cooperatives)と開発支援共同体を組織しました。現在、ベーカリーは「チーズボード・コレクティブ」という名で、エスプレッソバーがあり、ビザや400種類のチーズのメニューを取り揃えた店を構え、良い給料で十数人を雇用しています。

21年間働いてきたキャシー・ゴールドスミスさんも、ほかの労働経営者と同様に、人事、売掛金勘定、地元コミュニティとの交流などの仕事を任されています。従業員の責任が限られる地元のベーカリーと比べて、収入は推定2倍になるといいます。

しかし、今では成功を収めているアリスメンディ協同組合ですが、最初の頃は資金繰りに困っていました。「誰もお金を貸してくれなかった。銀行は二つの事業がすでに成功しているのを知ってようやく理解してくれた」とゴールドスミスさんは語ります。

このような地元の協同組合を支援するために、カリフォルニア州バークレーでは2016年2月、新たな条例が可決されました。条例には協同組合への税金・土地使用の優遇措置や、労働経営者向けの教材作成などが盛り込まれています。また、協同組合の入札への競争力を高め、直接資金面で支援するため、入札時にかかる費用を値引きし、市はそれでも協同組合の提示価格の全額を支払うことを計画しています。

決議案を議会に提出したバークレー市議会議員のジェシー・アレグィン氏は、「市は数百万ドルをサービスに費やすことになるが、そのお金は協同組合を通じて地元に落とされることになる」と述べています。

バークレーのあるサンフランシスコ・ベイエリアは協同組合の活動が盛んな地域で、労働経営者からなる協同組合が全米で最も集中しており、この地域に50件、バークレーには10件あります。近隣のオークランドとリッチモンドではすでに協同組合への支援策が決議されています。

しかし、運動家や市職員は、地域に雇用を生み出し、住民が移住せずに済むようさらなる政府支援を望んでいます。カリフォルニア大学バークレー校が実施した「都市における立ち退きに関するプロジェクト(Urban Displacement project)」の2013年の調査によると、ベイエリアの低所得家庭の53%が都市再開発などにより移住を余儀なくされたり、その危険にさらされていたりしているといいます。

協同組合への支援策を講じている市はほかにオークランド、リッチモンド、ニューヨークがあります。ニューヨークは2014年に、「労働者協同組合事業開発イニシアティブ」(Worker Cooperative Business Development)を通じて、協同組合支援に120万ドルを協同組合の新設や、既存組合への支援、企業家教育のために振り分けました。その一年半後、新たに21の協同組合が設立され、24の既存組合が支援を受けることができました。特に恩恵を受けたのは低所得者で、141名の雇用が創出されました。2016年の予算では協同組合支援に210万ドルが割り当てられています。

「協同組合が資金を手にするまでに、労働経営者の教育、法へのアクセス、会計に関するアドバイスなど越えなければならないハードルは多い。市が支援することで協同組合に平等な機会を与えることになる」と、バークレーでの条例化を後押しする「持続可能な経済のための法律センター」(Sustainable Economies Law Center)のディレクター、ヤシー・エスケダーリ・ケヤール氏は語ります。

バークレー市議会の決議案に対して、地元のほかの小企業にとって不当になり、協同組合に有利に働くことなどが懸念されるという声もありました。しかし、エスケダーリ・ケヤール氏は、協同組合は他の小企業と比べてより高い給料を支払い、より良い労働環境をもたらす、と主張しています。協同組合をむやみやたらと奨励するのではなく、この条例はコミュニティに価値をもたらす企業を優遇する段階的な奨励につながります。言い替えれば、マイノリティを雇用し、労働者に十分な利益を与えることなど、コミュニティにお返しをする協同組合は、そうでない協同組合よりも優遇されるということです。こうした利点がいったん明らかになると、この条例に賛成するかどうか決めかねていたバークレーの市議会委員を含め、政治の領域で、協同組合の考え方が受け入れられることがわかったと、エスケダーリ・ケヤール氏はいいます。

「この協同組合がイーストベイのコミュニティにプラスに働き、地元企業の合法的な競争相手と認められたことが嬉しい。自分にとってこの協同組合の魅力的な点は高い給料ではなく、ほかの50名の労働経営者とともに企業を所有しているという意識が持てることだ」とゴールドスミスさんは述べました。

バークレーの協同組合への支援は、雇用を創出し、低所得者の流出を防ぐとともに、地域経済を潤すことも期待されます。そして、市民の働く意欲にもつながることにもなるのです。


※この記事は2016年2月にYes! Magazineに掲載されたAraz Hachadourian氏の記事の要約です。

 

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