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Case.26

コミュニティ・ランド・トラスト:手頃な価格の住宅を人びとに届ける仕組み

手頃な価格の住宅を届ける草の根の取り組みに「コミュニティ・ランド・トラスト(Community Land Trusts: CLT)」があります。日本ではあまり知られていない仕組みですが、CLTは米国で生まれ、現在では世界の多くの国に広がっています。

コミュニティ・ランド・トラスト(CLT)の「ランド」は土地、「トラスト」は信託、信頼を意味する言葉です。つまり、CLTとは、コミュニティの人びとの信頼を基盤として、託された土地を管理し、手頃な価格の住宅などを届ける取り組みと言うことができるでしょう。英国の「ナショナル・トラスト」をご存知の方も多いと思います。ナショナル・トラストは、国民の信頼を得て託された自然景勝地などを守る役割を果たしています。CLTの場合は、対象は土地や住宅などですが、似たような考え方に基づいて行なわれている取り組みです。

なお、CLTは様々な方法で土地を取得しています。あまりコストがかからない公共の土地を取得する場合もありますし、助成金や市民への投資の呼びかけにより資金を得て、土地を得ることもあります。

CLTには、手頃な価格の供給を目指していること、非営利であること、コミュニティを基盤としていることなどの共通点がある一方で、各トラストによる違いも数多くあります。そこで、今回の「注目の取り組み事例」では、米国と英国の2つのCLTをご紹介します。

米国、シャンプレイン住宅トラスト(The Champlain Housing Trust)
米国バーモント州北西部にある「シャンプレイン住宅トラスト」は、1984年に設立された米国で最も大きなCLTです。このCLTでは、2,200のアパートを運営するほか、565軒の持ち家住宅を管理しています。

例えば、このCLTを使って家を購入する場合は、「3人家族の場合、75,600ドル以下」といった収入の条件を満たす必要があります。それは、このCLTでは、基本的に世帯収入がこの地域の中央値の80%以下の世帯を対象にしているためです。この他、購入希望者は、会合やワークショップに参加することが求められます。

そして、土地はCLTが所有し、住宅を住民が所有するというスタイルで管理が行なわれます。住宅の所有者は、土地を長期に渡り、独占的に使用することができます。

また、アパートを借りる場合も「3人家族の場合、45,360ドル以下」といった収入のガイドラインがあります。家賃は、寝室が3部屋ある物件の場合は900ドルから1,350ドル程度とのことです。

なお、このCLTの2016年度の収入をみると、約32%(約560万ドル)を家賃収入で、約13%(約230万ドル)を助成金で得ています。

英国、ロンドン・コミュニティ・ランド・トラスト(London Community Land Trust)
英国の首都ロンドンで初めてのCLTがロンドン・コミュニティ・ランド・トラストです。ロンドンでは住宅価格が高騰していますが、このCLTでは市場の1/3の価格で住宅を提供することを目指しています。

イーストロンドンの元セント・クレメント病院の建物が、このCLTの初めての物件です。このプロジェクトでは、252の住宅が供給されますが、このうちの23%にあたる物件が手頃な価格の住宅(58住宅は賃貸、23住宅は販売)として供給されます。すでに販売は終了して、寝室が3部屋ある住宅は、23万5000ポンドで販売されました。

なお、このCLTが2016年に、1人100ポンド以上の投資を呼びかけたところ、目標額の450万ポンドを達成しました。これらの費用は、オリンピック・パークのCLT住宅供給など、新たなプロジェクトにあてられる予定です。

(新津 尚子)

 

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