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Case.30

ベルギーの都市ゲントで育まれてきたコモンズの文化

(Shareableより)

シェアリングシティとして知られつつあるベルギーのゲント市。人口2万5,000人弱のこの市に、約500もの都市コモンズ・プロジェクトが存在します。市が2017年春に行った調査から、ゲント市では10年間にわたってこうした取り組みが育まれてきたことが明らかになりました。

注目される四つの取り組み

REScoop(Renewable energy cooperative)――再生可能エネルギー協同組合

この協同組合では、組合員は手ごろな価格で太陽光パネルを共同で所有し、管理することができます。この取り組みでは、低所得者だけでなく、例えば、屋根の日当たりが悪くて、太陽光パネルの設置に向かない住宅の所有者など、組合員の誰もが太陽光発電を利用することができるという利点があります。

Buren van de abdij――近隣の人々が教会を管理する取り組み

放置された教会の建物を、近隣の住民たちが10年ほど前に市から譲り受けて、すべて自分たちだけで管理するようになりました。建物は、展示場や集会などのコミュニティのイベントに再利用されています。

CLT Gent(Community Land Trust Gent)――ゲント市のコミュニティによる土地トラスト

低所得の住民が手の届く価格で利用できる住宅などの資産を維持する目的で、土地開発・管理を行う団体。市によって開発された住宅の一部が割り当てられ、管理しています。

NEST(Newly Established State of Temporality)――図書館の改修を期に、一時的に共同ラボとして利用する取り組み

古い図書館の改修計画が決まり、ゲント市は準備中の8カ月間、建物を都市コモンズ・プロジェクトのために試験的に利用することにしました。現在、集会やイベントスペース、音楽スタジオ、子どもの遊び場などで活用されています。さまざまな市民団体や企業が運営し、サービスやスペースを提供しています。

個人や市民団体の参加を促した要素と今後の課題

調査報告書では、ゲント市のコモンズ・プロジェクトの注目すべき要素を三つ挙げています。一つ目は「計画を率いるメンバーが、住民に時間やスキル、お金、モノを差し出すことでプロジェクトに貢献するよう促している。しかし、それと同時に、共有資源を利用するための寄付を要求していない」こと、二つ目は「都市コモンズ・プロジェクトには市場の形で実施されている面がいくつかある。プロジェクトはそれらにより生じた収入に頼り、持続している」こと、三つ目は「共有資源を管理する一助になる、政府機関やNGOによる支援を必要としている」ことです。

ゲント市には数多くのコモンズ・プロジェクトがありますが、コモンズに基づく経済は、まだ比較的小規模にとどまっています。また、それらの取り組みは個別に行われていて、積極的に協力し合えていません。そのため、市が連携体制を立ち上げ、個人や市民団体の間で協力する機会を作るべきだと報告書で提案されています。

コモンズが民主主義の学びの場に

報告書によると、都市に限らず、どのコモンズ・プロジェクトでも、市民が共有資源をシェアし、管理することで得られる恩恵は大きいといいます。例えば、自動車や道具などを自分で購入して所有する代わりに、互いにシェアして利用すれば、コミュニティの環境への影響や負荷を低減できます。また、市民が一つのものを協力して管理する場合、集団で意思決定し、協働しなくてはなりません。コモンズは、市民が直接会って話し合うことで「市民力」を鍛え、発揮する場と言えるでしょう。

報告書の提案のような市政府の支援体制が整えば、ゲント市は都市コモンズで世界をリードする日が来るかもしれません。

(佐々 とも)

 

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