社会的共通資本
社会的共通資本とは、経済学者の宇沢弘文氏(1928-2014年)が提唱した概念で、すべての人びとが、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力のある社会の安定的な維持を可能にする自然環境と社会的装置のことで、これを社会共通の財産とする考え方です。
社会的共通資本は、自然環境(大気、水、森林、河川など)、社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道など)、制度資本(教育、医療、金融など)という3つの範疇にわけて考えることができます。大気、道路など具体的に何を含むかは、それぞれの地域や国の自然的、歴史的な要因などによって異なります。
こうした社会的共通資本は、社会の共通の財産として、社会的な基準に従って管理されなければならないと宇沢氏は言います。たとえば教育は、子どもたちが持っている資質を伸ばすことを、また医療は病気やけがの人を助けるものです。どちらも一人一人の市民が、人間らしい生活を営むために重要な役割を果たすものなので、国家によって官僚的に支配されたり、市場の基準によって利潤追求の対象にされるべきではない、というのが宇沢氏の考え方です。
また社会的共通資本は、分権的な市場経済制度が円滑に機能し、実質的な所得分配が安定的となるような条件でもあります。
参考文献:宇沢弘文, 2013, 『経済学は人びとを幸福にできるか』, 東洋経済新報社