キーワード解説

ナッジ

ナッジ(nudge)とは「ひじでそっと突く」と言う意味の英単語です。そこから現在では「望ましい行動をとるように、そっと後押しする」といった意味で使われています。

例えば、社員食堂で野菜たっぷりの健康によい料理を選んでもらいたい場合、ナッジでは、料理を置く場所などを工夫することで、自然に健康によい料理を手に取ってもらえるようにします。

こうしたデザインを考える際に、ナッジが活用するのが心理学や行動科学の分野で得られている、人々の行動傾向に関する知見です。「人はものを失う損失を高く見積もる傾向がある(損失回避バイアス)」「人は周りの人の行動を参照値にする(社会規範)」など、さまざまな知見が、ナッジには取り入れられています。

ノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラーらはナッジについて、「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素(セイラー&サンスティーン, 2009)」と定義しています。

ナッジの発展
ナッジは「行動経済学」から誕生した考え方です。行動経済学とはそれまでの経済学が前提としてきた合理的経済人という考え方への批判、つまり「人はいつでも自分の利益を合理的に計算して行動しているわけではない」という立場をとる経済学の理論です。

行動経済学は、1979年にプロスペクト理論(行動経済学の核となる理論)に関する論文をカーネマンとヴェルスキーが発表したことから誕生したと言われています。その著者の1人のカーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。2017年にはナッジを提唱したリチャード・セイラーもノーベル経済学賞を受賞しています。

ナッジの公共領域への利用
最近は公共政策にナッジを使おうという活動が盛んです。OECDによれば、欧州・米国・オーストラリアを中心に、世界で200 を超える組織・機関が公共政策にナッジを活用しています。

ナッジで使われるデザインは、特定の方向に人々を誘導する仕組みであるため、悪用されることもあります(たとえば、健康によい食品の代わりに、健康に悪い食品を食べるように人々を誘導することも可能です)。そこで、倫理規定を設けるなど、ナッジの技術が悪用されない仕組み作りも始まっています。

参考文献
大竹文雄, 2019『行動経済学の使い方』岩波書店
リチャード・セイラー&キャス・サンスティーン, 2009『実践行動経済学』日経BP社

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