論文:全世界85億人が人間らしい生活を送ることは可能-アプローチのシフトがカギ
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貧困対策へのアプローチを変えれば、全世界85億人に人間らしい生活水準(DLS)を提供するのに必要な世界の資源・エネルギー使用量は現行の3割で済む――そう結論づける論文が2024年7月、「World Development Perspectives」誌に発表されました。
貧困を撲滅するには、全世界の一人当たりGDPを高所得国並みに引き上げることが必要、と言われます。著者のバルセロナ自治大学ジェイソン・ヒッケル教授らによると、そのためには膨大な時間や生態系への負荷がかかる上、GDPが成長しても貧困率が悪化した国もあり、総体的な成長は人々の必需品へのアクセス改善を保証するものではありません。
著者らは、人間の幸福を目的とするなら、重要なのはGDPではなく、ニーズを満たす特定の財やサービス、そしてそれらに人々がアクセスできるか否かであり、このニーズに基づくアプローチの方が早く、効率的だと指摘します。
論文では、衣食住や保健医療、教育、通信、移動の面で算出されたDLSを元に、全世界の人々がDLSを享受するために必要なエネルギーと物質の使用量等を試算した研究結果を用い、世界における現在の資源・エネルギー使用量と比較しました。すると、最低限のDLSを85億人に提供しても、現行使用量の3割で済むことが明らかになりました。
そして、必要なのは、人間のニーズを高い水準で満たすために必要な特定の生産形態を拡大しながら、公的な供給や脱商品化を通して誰もが主要な財やサービスにアクセスできるようにすると同時に、高所得国で必要性の低い生産を縮小すること、と指摘しています。
(たんげ ようこ)
- この論文について詳しくはこちら(英語)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2452292924000493