9割の人が知らない「アニマルウェルフェア」 ~消費者の意識と行動が企業の動物福祉の取り組みを変える~
東京都市大学環境学部枝廣淳子研究室(横浜市都筑区)は本日、「アニマルウェルフェアに関する意識と取り組み」プロジェクトの結果を公表しました。
このプロジェクトは、欧米で取り組みが進んでいる「アニマルウェルフェア」(動物福祉:動物が意識ある存在であることを理解し、たとえ短い一生であっても、動物の生態・欲求を妨げることのない環境で、適正に扱うこと)の考え方について、一般の人々の認知度や企業の取り組みの現状を調査するものです。
1.一般の人々の認知度に関する調査結果
*本意識調査は2016年12月16日(金)~2016年12月19日(月)にインターネット調査法を用い、株式会社マクロミルのモニター323人を対象に行いました(年代、性別および大都市/中小都市・地方の割合は国勢調査の日本人口比に合わせています)。
■ 9割近い人は「アニマルウェルフェア」という言葉を聞いたことがない(図1)
まず、一般の人々にアニマルウェルフェアという言葉を聞いたことがあるかを尋ねたところ、意味を知っていた人は323人中1人しかいませんでした。9割近い人は「アニマルウェルフェアという言葉を聞いたことがない」のが日本の現状であることがわかりました。
■ 約9割の人は多くの母豚が飼育されている環境を認識していない(図2)
日本で肉用豚を産むために飼育されている母豚の多くは、「妊娠ストール」と呼ばれる屋内の幅60cm、長さ2mほどの母豚とほぼ同じ大きさのオリの中で飼育されており、身体の向きを変えることもできません。
母豚の飼育環境について尋ねたところ、正しい選択肢を選んだ回答者は約13%のみで、約9割の人が母豚の飼育環境に関する認識がなく、また、約6割の回答者は、母豚はもっと広い飼育環境で飼われていると考えていました(図2の赤字)。
2.企業に対するアンケート調査結果
一般の人々を対象とした意識調査とは別に、食肉や卵を扱う48の企業や組織を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、西洋フード・コンパスグループ株式会社、 株式会社大地を守る会、パルシステム生活協同組合連合会など48組織中12組織から回答を得ることができました(回収率は25%)。
「担当者がいない」「対応を検討しはじめた段階」「取引先との関係があるので難しい」などの理由から回答しないまたは社名を公表しないとした企業も多くあり、アニマルウェルフェアが企業にとって、対応が難しい問題であることがわかりました。回答数は少ないものの、アンケート結果から以下のような傾向が見られました。
アニマルウェルフェアを「事業に関わる課題として認識しているか」という質問に対しては、10社(83.3%)が「認識している」と回答しており(図3)、アニマルウェルフェアを事業上の課題として認識している企業が多いことがわかります。しかし、ガイドラインなどを公表している企業は2社(16.7%)に留まり(図4)、具体的な対応や取り組みには至っていない企業が多いことがわかりました。
また、自由回答には、「特に取り組みは行っていないが、消費者も理解・必要性を感じていない」「日本国内の市場はまだまだ無関心で、商業ベースには乗らないため、現状では目標・ターゲットを設定することは不要」といった声が挙がりました。
先の一般の人々向けの意識調査では、アニマルウェルフェアの考え方を説明した上で、「日本の畜産業界もアニマルウェルフェアを重視する方向に変えていくべきだと思うか」を尋ねたところ、「思う」「どちらかといえば思う」との回答者をあわせると約6割に達しています。
これらのことから、行政や企業・NGOなどからの働きかけによって消費者の意識や理解を広げ、そうした消費者の声や行動を通して、企業のアニマルウェルフェアの取り組みを進めていくことが必要であると考えられます。
調査で例として挙げた母豚の妊娠ストールは、EUではすでに使用が禁止されており、世界の大手食肉会社も自主的に使用禁止を打ち出しています。東京オリンピック・パラリンピックでの食材の調達基準への反映も含め、日本での取り組みが加速度的に進むことを期待しています。
※調査結果の詳細につきましてはこらのPDFをご参照ください。
調査協力:幸せ経済社会研究所
※2018年(平成30年)3月をもちまして、枝廣淳子は東京都市大学を退職いたしました。調査に関するお問い合わせは幸せ経済社会研究所までお願いいたします。
【本リリースに関するお問い合わせ】
幸せ経済社会研究所 (有限会社イーズ内)TEL:03-5846-9841 E-mail:inquiry@ishes.org