2012.12.18
シェアする社会へ
ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)ニュースレター No.123 (2012年11月号)
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/032421.html
JFS ニュースレター 2011年6月号で「今日の"3脱"世代へのメッセージ」として、「暮らしの脱所有化」「幸せの脱物質化」「人生の脱貨幣化」と名付けた動きについてご紹介しました。
脱所有化・脱物質化・脱貨幣化――今日の"3脱"世代へのメッセージ
特に3.11の東日本大震災以降、「所有」ではなく「共有」する暮らし、つまり「暮らしの脱所有化」が大きなうねりとなり、単なる「ライフスタイルの1つ」ではなく、主流のビジネスの1つともなりつつあります。今号では、最近の日本の生活者の意識の変化と、「共有」の中でも日本ではなかなか定着しないのではないかと考えられてきた「住まいを共有する」=シェアハウスの動向をお伝えしましょう。
社会で高まってきているシェアの意識
調査会社のリサーチ・アンド・ディベロプメントでは1982年から毎年「生活総合ライフスタイル調査CORE」を実施していますが、2011年は10月に18~74歳の首都圏の一般生活者3,000人を対象に「レンタルやシェアに関する意識」を実施しました。その結果によると、アラサー・アラフォー女性を中心に「物を持たないライフスタイル」に対するポジティブなイメージが広がっていることがわかりました。
物の所有について「借りるのとどちらが得か比較して決める」という意見が全体の6割にのぼり、特に30~40代の女性では3人に2人以上が「必要なときに借りて使う生活はスマートだと思う」と回答しています。「必要なときに借りて使いたいもの」として最も多くあげられたのは「音楽CDや映画などのビデオ」、2番目は「キャンプ、レジャー用品」でしたが、女性では「介護用品」や「ベビーカーや子供用品」など一時的に必要な物をあげる割合が高く、合理的で無駄のない生活への志向が強く表れています。
この結果からリサーチ・アンド・ディベロプメントでは、これまでは「お金がないので仕方がない」などのマイナスイメージでとらえられがちであった「物を借りて使う生活」について、30代、40代女性を中心に「物を持たない生活こそがスマートでおしゃれ」という感覚が浸透しつつあり、今後はレンタルやシェアのサービスの拡充とともに、「必要なとき必要なだけ借りて使う」ライフスタイルがいっそう広がっていくだろうと考えています。
アラサー・アラフォー女性に広がる「借り暮らし」スタイル(株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント)
また、NTTレゾナントが2011年4月28日から同年5月5日に、主に関東圏に在住の20代以上の男女対象に行った商品・サービスのシェアに対する意識についての調査(有効回答者数 1,074名)結果でも、中古品やレンタルへの抵抗感は、以前に比べ2割程度薄まりつつあることがわかっています。
中古品を購入する人の割合は、女性20~40代では約半数に及び、今後の中古品購入意向を見ると、男性の20~40代でも4割を超え、ニーズは高まっていました。中古購入された商品・サービスでは、「本、雑誌、漫画」「ビデオ・DVD」「衣料品関連」が多く、今後の意識では、「住まい関連」「生活家電」「乗り物」への購入意向がやや高くなります。
商品・サービスのレンタル(共同利用)率は、男性20代・30代で約3~4割と高く、今後の利用意向を見ると、女性20代・30代と男女50代で特に高くなっています。今後レンタル(共同利用)したいという意向のある商品・サービスは、「衣料品関連」「自動車」が高くなっています。有料で修理することに対する今後の利用意向は、女性40代・50代で半数近くに達しており、「住まい関連」「生活家電」「乗り物」などの耐久消費財でその傾向が顕著になっています。
商品・サービスの共有(シェア)に関するメリットとしては、主に「環境への配慮」「お試し感覚利用」「新品より良いものが買える」ことなどが挙がっていますが、男女や年代別で意識も異なっています。また、商品・サービスの共有(シェア)に関する主な不安・不満点としては、「品質面」「誰が使ったかわかること」「アフターサービス」などが挙がっています。
「中古品・レンタル・修理品など商品・サービスの共有(シェア)に対する意識」調査結果発表(NTTレゾナント株式会社)
このようにさまざまなものを共有するという意識が高まる中、一軒の家を複数の人と共有して暮らす住居スタイルである「シェアハウス」が、特に都市部で急速に広がってきています。日本では伝統的に「住居をシェアする」という考え方やライフスタイルはほとんどありませんでしたが、近年、一軒の住宅を何人かで借りてシェア(共有)して住む若い人たちも増えているのです(私たちのまわりにも何人もいます)。
最近では、最初からシェアハウス用にアパートを建てるディベロッパーや、シェアハウスの仲介を専門にする業者などが増えつつあり、不動産業界で最もホットなジャンルとなっています。
2012年3月5日付の日本経済新聞には、「シェアハウスの情報提供サイトの運営会社、ひつじインキュベーション・スクエア(東京・渋谷)によると、全国にあるシェアハウスは2011年末時点で1004軒と5年間で約10倍に増えた」とあります。
この記事では、電通ソーシャル局の宮城美幸氏が、シェアハウスで暮らす若者が増えている理由について「先行きが不透明な経済情勢が背景にある」と分析していると紹介されています。その対策として若者たちが、(1)日ごろから切磋琢磨できる環境に身を置き、今の仕事で足場を固める、(2)現在の勤務先が不安定になるリスクも想定し、人脈を社外にも広げる、(3)同じ価値観を持つ仲間同士で、社会の変化に対応した事業を生み出す機会も探る――などの行動に出ていると宮城氏は指摘しています。
シェアハウスの大手運営会社オークハウスは、2012年11月11日現在、首都圏で130 物件 2,177室のシェアハウス・ゲストハウスを運営しています。同社の推計によると国内のシェアハウスは約1万5,000室あり、今後も大きな増大が見込まれているとのこと。
規模の拡大につれて、個性を打ち出したシェアハウスが登場しています。シニア向け事業をしている会社「ナウい」では、「日本初の世代横断型シェアハウス運営事業」とうたって、一人暮らしのシニアとシングルマザーのシェアハウス・ルームシェア(共同生活)を展開中です。高齢者と働くシングルマザーがお互いに手を貸し合うことで、世代間交流・助け合いを進め、お互いに安心できる暮らしをめざす、という考え方です。
旧企業独身寮や中古マンションをリノベーションして、単なる集合賃貸住宅ではなく、シェアハウス型のアパートにする事業者も増えています。「シェアハウスに惹かれるが、自分の時間や空間はマンション並に確保したい」という人向けに、シアタールームやフィットネスルーム、プールバーなどの贅沢な共用設備を売り物に、「週末には友人を呼んでパーティーもできる」とアピール、「ソーシャルアパートメント」「シェアプレイス」などの名称で展開をしています。
都市型住宅の建築・販売を行う旭化成ホームズでは、1975年に「二世帯住宅」を商品化し、1980年には「二世帯住宅研究所」を設立してきましたが、最近のニーズに対応すべく、2011年に子会社の旭化成リフォームから二世帯住宅用リフォーム商品「リメイク二世帯再生タイプ」を発売しました。
子どもの独立などで二人暮らしになった二世帯住宅を対象に、空室を従来型の「賃貸」用だけではなく、留学生、母子家庭、介護従事者なども含めて対象にした共同生活の場(下宿)として社会貢献につなげる「シェアハウスタイプ」、または、ギャラリーや生涯学習教室などに使えるコミュニケーションスペースとして、趣味仲間・友人や地域住民との交流を活性化して絆を深める「交流型活用タイプ」に改築するというものです。
企業だけではありません。社会的な目的のためにシェアハウスを提案・運営するNPOも登場しています。NPO法人「ハートウォーミング・ハウス」は、シェア暮らしの良さをもっと多くの人に知ってもらう活動を展開しています。1つの家に家主と他人が一緒に住むホームシェア事業を運営するかたわら、「月イチカレーの日」など地元の人々が気軽に集まってシェアを体験し、楽しめるイベントなどを開催しています。
日本では、若者を中心に、住まいをシェアすることがごくふつうの暮らしの選択肢の1つになりつつあります。当初は東京で始まったものが多いですが、今では東京以外の都市へ、そして都市部以外にも展開中です。大手の全国紙などを見ていても、週にいくつもシェア関係のビジネスや消費者動向が取り上げられています。この動きが日本人の暮らし方や価値観、ビジネスをどのように変えていくのか、目が離せません!
(若山としこ・枝廣淳子)