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2013.03.05

日本の日本による日本のための幸福度指標をめざして

ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)ニュースレター No.126 (2013年2月号)
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/032632.html


世界各地で「GDPだけではなく、幸福度を測ろう」という動きが盛んになっています。日本でも、これまでのニュースレターでもお届けしたように、あちこちの自治体や地域で、独自の幸福度指標や豊かさの指標づくりが進められています。国としてはどうなのでしょうか?

幸せな地域へ! 日本の少なくとも22の自治体が「幸福度指標」を作成

日本での「GDPに代わる指標」の取り組みは古く、1974年に「社会指標」 (SI)が導入されました。公害や人口集中など、高度成長の負の効果が明らかになり、貨幣的指標への過度の依存から転換する時であると判断されたためで、1984年まで続きました。その後、高度成長期の終了とともに高い生活水準や価値観の変化に伴って生活様式の多様化を図る必要が生じたため、個人の効用により焦点を当て、主観的指標とともに国際比較可能な指標を追加した「国民生活指標」 (NSI)が導入され、1986~1990年に使われました。

1980年代後半になって人々が豊かさを求めるようになり、そのための指標を開発する必要が出てきたことから、1992年には「新国民生活指標(豊かさ指標)」(PLI)が導入されました。特に東京への人口集中によって地域の違いを捉える必要性が出てきたため、地域間比較のための地域の指標が導入されたことが特徴で、1999年まで使われ、2002~2005年には「暮らしの改革指標」 (LRI)が導入されました。

2010年には、閣議決定された「新成長戦略」に「新しい成長および幸福度(well-being)について調査研究を推進し、関連指標の統計の整備と充実を図る」と位置づけられた新しい成長及び幸福度に関する調査研究を推進するため、有識者からなる「幸福度に関する研究会」が内閣府に設置され、2011年12月に「幸福度に関する研究会報告―幸福度指標試案―」が公表されました。

幸福度指標の柱として「社会経済状況」「心身の健康」「関係性」の3つを立て、それぞれについての主観的・客観的指標案を提示するとともに、日本社会における人々の「幸せ」とは総じてどのようなことに支えられているのかという点から幸福度の問題を掘り下げました。

平成21年、平成22年度の選好度調査結果をみてみると、幸福感を判断する際に重視した事項として、上位に「家族」、「健康」、「家計(所得・消費)」、「精神的ゆとり(または自由時間)」が挙っています。


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一方、これまでの研究成果からは、自然、地域コミュニティー、天然資源、生物、地球環境などの維持が現在の世代の幸福感に影響を及ぼしていると明確には言えないものの、現代世代の幸福感が将来世代の幸福感の犠牲の下に進むのは望ましくないと考え、3つの柱と別に「持続可能性」を立てています。この「幸福度指標試案」の構成要素の体系図が以下です。


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それぞれの項目の指標案の詳細や考え方については、以下をご覧ください。
http://www5.cao.go.jp/keizai2/koufukudo/koufukudo.html

ここではこの報告書から、特に主観的幸福感に関するこれまでの調査結果や、日本的な幸福度を多角的に捉えるための試みの一環として実施した若年層を対象とした試行調査の結果を引用し、「日本らしい幸福度指標」へ向けてのいくつかの側面をお伝えしましょう。


(1)「幸福のパラドックス」は日本も例外ではない

経済発展を遂げた先進国では、経済的な豊かさを表すGDPの上昇が心の豊かさを表す幸福感に結びついていないとする「幸福のパラドックス」が示されていますが、日本も例外ではありません。


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(2)東日本大震災は人々の幸福に関する価値観を変えた


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(3)独特な日本の「主観的幸福感」のグラフ

日本の「主観的幸福感」のグラフをみると、中間値である5点と比較的幸福感の高い7ないし8点の2つの山があります。幸福感が高いデンマーク、英国などは8点を頂点とした非対称の山型で、日本のものは形状が大きく違うのです。

したがって、幸福感を評価する際には平均値だけでなく、幸福感が低い人たちが全体のどれだけを占めているかが重要な指標となると考えられます(幸福感格差)。


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(4)高齢期に幸福でない日本

年齢と幸福度の関係については、諸外国の調査研究では、U字カーブをたどるとされていますが、日本では高齢期に入っても他国(たとえばアメリカ)に比べると幸福度が上昇していきません。


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(5)日本的な幸福度を多角的に捉えるための3つの次元

同報告書では日本的な幸福度を多角的に捉えるための3つの次元として、1)理想と現実の乖離(理想としている状況よりも高い水準にいるのか)、2)方向感(今後、幸福感は上がって行くと期待できるのか)、3)他者との比較(人並み感)を考えています。

理想と現実の乖離が大きい場合には、その乖離が生じている原因を探ることが重要になり、また現在の幸福感が例え高くても、今後幸福感が下がって行くと想定している者が多い社会も、問題が生じていることを意味するでしょう。幸福感には、追い求め、追求する幸福感とともに、ほどほどや不幸なことがない日常生活に感じる幸福感がありえます。

一般的に自尊心を促す形で幸福感を高める欧米に比して、アジアでは他者への思いやりや感謝の念、自然との調和など「関係性」を通じて主観的幸福感が高まるとされています。日本人の幸福感がどのような幸福感に根ざしているのかといった文化的差異を捉える意味でも、人並み感を計測することが重要と考えられます。

幸福感を多角的に捉える3つの次元の尺度の有効性を試すために行った、若年層に対する試行調査をみてみましょう。まず、理想の状態は「100%幸せだけを感じている状態」とするのでなく、「7~8割が幸せ、2~3割が不幸せを感じる状態」または「幸せと不幸せが半々ぐらい」を挙げる者が多くいることが大きな特徴です。

現在の幸福感が高い人と低い人で理想の状態に違いがあるかをみると、現在の幸福感が「とても幸せ(10点)」と「とても不幸せ(0点)」の層で「幸せだけを感じている状態(10点)」を挙げる者が相対的に多くなっているものの、基本的には「7~8割が幸せ、2~3割が不幸せを感じる状態」または「幸せと不幸せが半々ぐらい」を挙げる者が多く、全体の傾向と同様でした。日本的幸福度の理想の状態が「100%幸せだけを感じている状態」を意味しないのであれば、一定程度、平均点が低いことは、必ずしも幸福度の観点から直ちに問題とならない可能性を意味すると言えます。

京都大学こころの未来研究センターの准教授・内田由紀子氏は、欧米での幸福感は、自己の持つ属性の望ましさを可能な限り最大化した状態で得られるとされるのに対し、東洋での幸福感では、「あまりに良すぎることはかえって不幸を招く」「良いこと・悪いことが同数存在するのが人生」「周囲とのバランスを考える」といった特徴があるとしています。

また、日本的な幸福感として「人並み感」(協調的幸福感尺度)を挙げている内田氏が、若年層調査を利用して、現在の幸福度と人並み感との関係性を統計的に分析したところ、相関がみられました。協調的幸福感尺度は、「自分だけでなく、身近な周りの人も楽しい気持ちでいると思う」「大きな悩みごとはない」「周りの人たちと同じくらいにうまくいっている」「周りの人に認められていると感じる」「平凡だが安定した日々を過ごしている」「周りの人たちと同じくらい幸せだと思う」「大切な人を幸せにしていると思う」「周りの人並みの生活は手に入れている自信がある」「人に迷惑をかけずに自分のやりたいことができている」といった項目で測られます。

このような結果から、幸福度指標試案では、日本らしい主観的幸福感の指標案として、1)主観的幸福感、2)理想の幸福感の状況、3)将来の幸福感予想、4)人並み感、5)感情経験、世帯内幸福度格差を挙げています。

この試案で提案されている指標には、現在データとして把握されていないものもあり、官民によるデータ整備が求められます。また、主観的幸福感という主観的なデータを政策目的として活用するためには、特に同一の対象を継続的に調査し、観察不可能な個人間、世帯間の違いを抽出することを可能にするとともに、ある時点の政策やライフイベントに対してどのように反応したかを分析可能にするパネルデータを収集することが不可欠になりますが、これも今後の日本の課題です。

「今回の提案は今後の日本における生活や社会の価値観を議論するための出発点にしか過ぎない」と報告書の最後にあるように、多くの課題があるものの、欧米とはまた違った日本らしい、日本の役に立つ幸福度指標へ向けての興味深い一歩であると思います。今後の研究と議論が楽しみです。

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