レジリエンス・インタビュー
担当者に訊く:日本政府の「国土強靱化」の取り組み
3.11を受けて、日本政府は「国土強靱化」の取り組みを進めています。2013年12月に「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」が成立し、内閣に総理大臣を本部長とする国土強靱化推進本部が設置され、事務局として内閣官房に国土強靱化推進室が設けられました。担当者にインタビューしました。
Q. 日本政府の「国土強靱化」の取り組みの背景について教えて下さい。
日本では過去に大きな災害が何度も起こっています。1959年の伊勢湾台風で5,098人に及ぶ死者・行方不明者が出たことを契機に、今日の日本の防災対策の原点である「災害対策基本法」が制定されました。
1995年の阪神・淡路大震災の教訓から、住宅・建築物の耐震化、木造住宅密集市街地対策を強化するとともに、インフラの耐震性強化に着手するなど、ハード対策を念頭に置いた設計基準の強化などを図ってきたのですが、事後的な対応が中心でした。
観測史上最大のM9.0の巨大地震と最大40mを越える大津波が発生した東日本大震災の教訓は、これまでの「防護」という発想による個別のインフラ整備中心の防災対策だけでは限界がある、ということです。ハードとソフトを組み合わせて、もっと社会・経済の全体の強さとしなやかさ、強靭性を高めていく必要があります。
Q. どのような経緯ですすめてきたのですか?
東日本大震災後、自民党に国土強靭化調査会が設置され、2年間検討を重ねました。2012年12月に第2次安倍内閣が発足した際、内閣の重要事項として国土強靭化に取り組むため、内閣に「国土強靭化担当大臣」を設置。2013年1月に内閣官房に設置された国土強靭化推進室が事務局となり検討が進められるとともに、同年12月に議員立法により国土強靱化基本法が成立しました。
Q.「国土強靭化」は「防災」とどう違うのですか
防災は、「災害が起きた後にどう対応するのか」という緊急対応が主眼です。「地震が起きたとき」「原子力災害が起きたとき」といった分類で対応マニュアルがまとめられています。一方、平時からどうやって命を守り被害を軽減していくのかについては、今までの防災の取組だけでは必ずしも十分対応できなかったという反省があります。
東日本大震災の津波がまさにそうでした。例えば釜石の防波堤が崩壊して、まさか来ないだろうと思っている人たちを津波が襲い、たくさんの方が亡くなりました。「釜石の奇跡」のような「逃げる」教育がきちんとされていれば、防げたところもあるでしょう。インフラも大事ですが、それ以上にソフトも大事であり、両方を組み合わせてやっていく必要があるという考え方が防災と違うところです。
Q. 国土強靭化はどのように進めていくのですか?
有識者の会議で検討し、「国土強靭化の基本目標」を4つ設定しました。
- 人命の保護が最大限図られること
- 国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること
- 国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化
- 迅速な復旧復興
この4つの目標に照らして、
(1)リスクを特定、分析 → (2)脆弱性を特定 → (3)脆弱性評価、対応方策の検討→
(4)重点化・優先順位を付け実施 → (5)結果の評価 →
というPDCAサイクルを繰り返し見直しながら、国土の強靱化を推進していきます。
回避すべき起きてはならない最悪の事態を有識者懇談会で検討してもらい、45の「起こってはいけない事態」を設定しました。従来は「地震」「風水害」などのハザードを想定して対応を考えていましたが、今回は、ハザードの種類に関わらず、その影響の結果生じるリスクから出発するところが特徴的です。リスクをもたらすハザードは、まずは自然災害を想定しています。
45のうち、特に「施策の重点化」として想定されたのが、次の15です。
-
- 大都市での建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や住宅密集地における
火災による死傷者の発生 - 広域にわたる大規模津波等による多数の死者の発生
- 異常気象等による広域かつ長期的な市街地等の浸水
- 大規模な火山噴火・土砂災害(深層崩壊)等による多数の死傷者の発生のみならず、
後年度にわたり国土の脆弱性が高まる事態 - 情報伝達の不備等による避難行動の遅れ等で多数の死傷者の発生
- 被災地での食料・飲料水等、生命に関わる物資供給の長期停止
- 自衛隊、警察、消防、海保等の被災等による救助・救急活動等の絶対的不足
- 首都圏での中央官庁機能の機能不全
- 電力供給停止等による情報通信の麻痺(まひ)・長期停止
- サプライチェーンの寸断等による企業の生産力低下による国際競争力の低下
- 社会経済活動、サプライチェーンの維持に必要なエネルギー供給の停止
- 太平洋ベルト地帯の幹線が分断する等、基幹的陸上海上交通ネットワークの機能停止
- 食料等の安定供給の停滞
- 電力供給ネットワーク(発変電所、送配電設備)や石油・LPガスサプライチェーンの機能の停止
- 農地・森林等の荒廃による被害の拡大
- 大都市での建物・交通施設等の複合的・大規模倒壊や住宅密集地における
45 の「起こってはいけない事態」と12の施策分野からなる45×12の巨大な表を作り、脆弱性評価を行いました。「起こってはいけない事態」のそれぞれに対して、「行政機能」「住宅都市」「情報通信」などの施策分野で、政府の行っている施策を埋めていき、抜けや不足を評価し、何が必要かを検討します。45のプログラムについては5年間の基本計画を作り、アクションプランも策定し、毎年見直していくことになります。
Q. 他の計画や地域との関連はどうなっているのですか?
「国土強靱化基本計画」は、「アンブレラ計画」と呼ばれ、その下に防災基本計画や国土形成計画が位置づけられ、さらにその下に、各省庁の担当しているエネル ギー基本計画や食料・農業・農村基本計画、社会資本の計画などが位置します。つまり、国土強靱化基本計画は、防災基本計画や国土形成計画という横断的な計画にも、その下にある個別分野の計画にも反映される仕組みとなっています。
国土強靱化法では、地域計画の策定も決められています。都道府県や市町村という単位で、それぞれの地方公共団体が地域の強靱化のための計画を策定できるというものです。政府では、地域計画を支援するため、地域計画ガイドラインを準備しており、モデル調査としていくつかの地域に専門家を派遣し、地域計画の策定に助言を行う予定です。
<インタビューを終えて>
現在のところ、日本政府の国家強靱化計画は、主に自然災害へのハード面からの対策であるように思われます。担当者が認識しているように、ソフト面や地域の取り組みをどれだけ重視して、国としてリードし、支援できるか、きちんと見守っていく必要がありそうです。
また、個別省庁の対策や取り組みを横断的に並べるだけではなく、いざというときの情報・指揮系統を標準化しておくなどの基盤整備も進める必要があるでしょう。英国政府が提供しているような、企業や地域社会、個人のレジリエンスを高めるための考え方や枠組み、支援ツールなどを提供することによって、地域や組織、国民ひとり一人の意識や行動を促していくことも、今後真剣に取り組むべき重要な課題だと思います。