米国における「景気」と「幸せ」の複雑な関係
- 枝廣:
- 米国での時間の使い方、時間の問題、幸せなどそれに関連する問題についてどうお考えですか?良くなったり、悪くなったりした変化は見られましたか?
- ジョン:
- それについてはいろいろな考え方があります。はっきりしていることは、米国では感情の豊かさが失われているということです。
- 私の意見ですが、米国は、「誰も税は払うべきではない。経済成長を促すだろうから減税こそがあらゆる問題を解決する」という考えに取りつかれてしまったため、生活の質については非常に悪い方向へ向かっています。もちろん、それではうまくいきません。すべての問題が悪化してしまいます。公共のインフラ、学校、公共交通機関が荒廃します。米国ではこれらのことすべてがひどく衰退しています。
- 私は毎朝、約20分間かけて、テレビ局まで徒歩で通勤しています。その行き帰りに、以前は見かけなかったのですが、どの路地でも寝ている人たちを目にするようになりました。街角のいたるところに物乞いがいます。つまり、米国は第3世界の国になりつつあるのです。それがまさしく起きていることで、悲惨です。
- 一つだけ喜ばしい面はあります。誰もが何も持つことができなくなり、実は人口の80%の所得が以前よりも低下しているため、少ないもので暮らしていくことに何とか少し慣れ始めていかなければなりません。
- また、不景気により労働時間も若干短くなっています。ですから米国では変わった現象が見られます。多くの人々にとって不景気は非常に辛いことなのに、実のところ多くの人々の健康状態が改善されているのです。
- 枝廣:
- 興味深いですね。
- ジョン:
- なぜなら人々の働く時間が短くなっているからです。以前のように、義務的な残業のようなものもありません。稼働している工場の数が減り、大気汚染も減っています。車を運転することも少なくなると、事故や大気汚染も減ります。
- 時間に少し余裕がある人々が増え、そうした人たちは運動をしています。支援が必要なため、社会的なつながりを持つ人も増えています。
- ただ、この暗い状況でもこうした明るい兆しらしきものはありますが、見方によればあまり長続きしません。最初はいいのですが、長く続くと、失業など、こうしたさまざまなことの精神的な影響はとても大きく、健康な人の数はまた減り始めるのではないかと私たちは思っています。
- 時が経つにつれて恩恵は差し引きゼロになるであろう、社会の分極化や怒りやストレスも生み出されるでしょう。そうなると健康が損なわれます。
- 枝廣:
- そうですね。
シアトルから広がる「幸せイニシアチブ」プロジェクト
- 枝廣:
- さて、これが最後の質問になります。ジョンさんは、幸せについてのイニシアチブの「サステナブル・シアトル」のプロジェクトに参加されていましたよね? 今後のプロジェクトについて、幸せや感情の豊かさの問題にどのように取り組む予定か、お話いただけませんか?
- ジョン:
- ええ、私たちは、「シアトル地域幸せイニシアチブ」(Seattle Area Happiness Initiative)と呼んでいたものを、今では、シンプルに「幸せイニシアチブ」(Happiness Initiative)と呼んでいます。なぜなら、今では米国全域や外国でさえもこのプロジェクトに関心を持つ人がいて、約1年半以上続いています。大きくなってからは1年経ちます。
- 私たちは、新しい短めの調査を作る予定です。カナダ人のチームがブータンの調査から抜粋して30分の調査を作り、ビクトリア(ブリティッシュ・コロンビア州)で初めて使用しましたが、私たちはその調査を実施しました。その短めの調査はインターネット上に掲載されています。7,000人以上が調査を受けました。たくさんの良いデータを入手しました。
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スコアが最も低いのは「時間の使い方」ですから、調査が長すぎる、というコメントがたくさんありました。調査に回答する時間があった人たちにとってもスコアが最も低いのは「時間の使い方」でした。想像できますよね。そこで私たちは、10分程度の調査になるように、科学的な有効性も踏まえながら大々的に手を加え、前回の調査と同程度の科学的な有効性も確保しなければならないということがわかりました。
私たちは新しいウェブサイトを作り、人々にツールキットを提供し、調査の利用方法、結果について話し合うためのタウン・ミーティングの開催方法、調査結果を使ってあなたの市の報告カードを作成する方法を掲載する予定です。
- この調査では、ブータンのGNHとギャラップ調査の分野を参考にした人生の10の分野を測ります。
- シアトルでは、市議会が全員一致でこのプロジェクトを支持しています。これらの結果を、市の政策を決める参考にすることで同意しました。
- こうしたいろいろなことを目にしながら、ほかの多くの都市に広げることができると感じています。企業でも活用できますし、特に大学では大きな反響があります。調査と全体のプロセスを使って、幸せのイニシアチブを実施したいと思っているコミュニティが現在のところ約25あります。大学では約100校が希望しています。企業も数社あります。とても楽しみだと思いますね。
- 私たちはまだこれからです。さまざまな方法で学ぶべきことがたくさんあります。これをやり始めようとしている都市によって、私たちは試されるでしょう。そうした都市のおかげで、私たちは、可能な限り最善のかたちに調査を作り上げるでしょう。
- しかし、私には自信があります。人々は強い関心を示しており、「調査を受けただけで私の人生が変わってきました」という声もあります。「日頃考えたことのない、人生のさまざまなことについて、考えさせられました。自分への問いかけです」という人たちもいました。実に素晴らしいことだと思います。
- また、メディアにもこの調査は好評です。メディアが理解できるほど簡単で身近なことなのです。私たちは質問をすることで、GDPと呼ばれるものよりも、より充実していて、現実的な社会を描いているのです。本当に実にわかりやすいメッセージで、メディアもそれを理解しています。『ウォールストリート・ジャーナル』紙や、その他いろいろなメディアから取材の依頼があります。
- 枝廣:
- 素晴らしいですね。今日はありがとうございました。お時間いただき、感謝いたします。
- ジョン:
- ありがとうございました。
ジョン・デ・グラーフ(John de Graaf)
幸せイニシアチブ 共同代表
テレビ・ドキュメンタリー番組のプロデューサー。米国・カナダで時間と超過労働の問題に取り組む組織「時間を取り戻そう(Take Back Your Time)」のエグゼクティブディレクター。「幸せイニシアチブ(Happiness Initiative)」の共同設立者および共同代表。
35年にわたりドキュメンタリー番組・映画の制作を手がける。映画制作に関する受賞作品は100を超え、環境問題に関する作品も多数。全米各地で超過労働や過剰消費に関する講演も行う。共著書に8カ国語に翻訳されている『消費伝染病「アフルエンザ」』(日本教文社刊・2004年)など。
最新刊は"What's the Economy for, Anyway? Why It's Time to Stop Chasing Growth and Start Pursuing Happiness"(ブルームズベリー社刊・2011年)
- 時間を取り戻そう(Take Back Your Time)
- http://www.timeday.org/
- 幸せイニシアチブ(Happiness Initiative)
- http://www.happycounts.org/