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クルミドコーヒー店主、株式会社フェスティナレンテ 代表取締役 影山知明 聞き手 枝廣淳子 Interview16

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外資系コンサルティングやベンチャー企業への投資事業など、お金を動かすビジネスの世界から一転、2008年に西国分寺にクルミドコーヒーというカフェを開業された影山知明さん。木のぬくもりを感じられる店内やこだわりのメニューにたくさんの方が魅了されています。

影山さんは著書『ゆっくり、いそげ』で、カフェやシェアハウス、地域通貨、出版事業などを通じて感じられた人と仕事とお金の仕組み、売上や利益、短期的な成長が目的になりがちな資本主義システムから、「ゆっくり、いそげ」と考えられるようになった経緯などを語られています。

影山さんが考えるお金とは、経済や社会のあり方、地域との関わり合いとはどのようなものなのでしょうか。

2016年7月に開催したオープンセミナーから、影山さんと枝廣とのトークおよび会場の皆さんとの質疑応答の部分をお届けします。

不特定多数ではなく、特定少数でもなく、特定多数の人と

枝廣:
私はこの『ゆっくり、いそげ』を5回くらい読みました。普段あまり同じ本を繰り返し読むということはないのですが、この本は5回読むと5回分、いろいろなところで考えさせられたり、気が付いたり、すごく面白いんです。クルミドコーヒーにはまだお邪魔したことはないんですが、本やお話を聞いていて、「無常」のお店なんだということがわかりました。
たとえば、これは本に書いてあったことですけれど、「仕事に人をつけるのではなくて、人に仕事をつける」。トマトのジュースを担当されている方が卒業されたり、トマト農家さんが何か違うものを作り始めたりしたら、おそらくクルミドコーヒーのトマトジュースはなくなると思います。
普通だったら、トマト農家の方がいなくなったら別の農家を探そうとか、作っているスタッフが卒業されたら、同じものを作れるスタッフを雇おうとか、もしくはトレーニングしようとか考えます。そうではない形で、今のスタッフの方が作り出したものをお店の力にしていく。そういった意味で言うと、ずっと同じではない店なんだなと思いました。
もう1つ、ぜひキーワードとしてお聞きしたかったのが、そういうお店のあり方を経済的にも成り立つ形でやっていくための鍵って何だろうなと思ったときに、これは本の中にも書いてありますが、「特定多数」という言葉がキーワードだと思いました。まずはそのあたりの考え方を説明していただけますか。
影山:
はい。普通、僕がかつて関わっていたベンチャー企業もそうですし、大企業であればあるほど、基本的には不特定多数のお客さんを想定して、そういう人たちに普遍的に「いい」と言ってもらえるようなものを作るという方向に商品開発・サービス開発は向かっていくように思います。そうすると、より安いほうがいい。すごくわかりやすい価値ですね。同じ値段だったらより機能性が高い、という競争に収れんしていくでしょう。
そういう点で言うと、もうちょっと顔が見える関係になってくると、たとえば私と枝廣さんという関係であれば、世の中一般にはそれがいいと思われていないようなことでも、私はそれに対してお金を払ってもいいと思うものが、商品やサービスになり得るということが起こるなと思いました。
そこで、不特定ではなくて特定の人と、ということが大事だとまず思うようになりました。だけど、特定の人というのは、結果的に自分の身内とか、限られた範囲ということ、つまり特定少数になってしまうと、経済としては成り立たない。売り上げをつくっていく上での規模が実現できなくなってしまうからです。そういうことから、その間があるなと思ってたどり着いたキーワードが「特定多数」です。
具体的には、たとえばクルミドコーヒーのお店という単位で言うと、正確な統計ではありませんが、クルミドコーヒーのことを応援してもいいと思ってくださっている方が3,000人から5,000人ぐらいいるように感じています。ある程度、頭に思い浮かべられるような人たちですね。その人たちが支えになってくださっているので、世の中のトマトジュースの3~5倍の値段でも、思いを込めた仕事をしていけば、それをいいと思ってくれる人はきっといるはずだと思えて、実際、経営としても、ここまでのところ成り立っているということがあると思います。

クルミドコーヒーの外観

枝廣:
私たちの幸せ経済社会研究所で「経済成長を問い直す」というプロジェクトを行いました。「経済成長って何ですか」「それって必要ですか」「可能ですか」みたいな7つの質問を100人に尋ねるというものです。
その中のお一人で、哲学者の内山節さんにお話を聞いた時、影山さんと近いことをおっしゃっていて、そこを読みますね。地域の経済の話をされている時です。
「ケーキ屋さんを開くとか、ご夫婦でやっている若い人が結構いるんです。そこでは多分、1万人のお客さんはいらないんですね。1日にたとえば100人くらい。場合によって30~40人が買いに来てくれれば回る経済でしょう。30~40人来るためには、その10倍か20倍のお客さんが必要かもしれないけれど、5万人、10万人は絶対いりません。来てくれる人たちを大事にする経営をすればよいのです。そういう経済がいろいろな形でできていく時に、通常の資本主義型の経済がだんだんと限定された領域に移っていく。押し込められていくという形の変革になっていくと思います」ということをおっしゃっていました。
影山:
ほんとにその通りですね。
枝廣:
私たちは何か経済とか事業をやるときに、つい不特定多数を対象に考えます。そのほうが、パイ(総額、市場全体)が大きいからですよね。
だけど、不特定多数が対象になった瞬間に、わかりやすい基準がお金になってしまいます。そうすると、「高いか、安いか」という話になってしまって、「値段だけじゃないよね」というところが、全部負けてしまうんですね。
「値段だけじゃないよね」という関係、だけどビジネスが成り立つ。たとえばクルミドコーヒーさんとか、今のケーキ屋さんの話だと、何万人もいらなくて、3,000人から5,000人。それで自分たちがつくり出したい価値をつくれるというのがすごくおもしろいし、あまりこれまで考えられていなかったことかなと思います。
特に、内山先生がおっしゃったように、商圏としての規模感だけはなくて、「値段だけじゃないよね」という交換が成立するって、すごく大事だと思っています。もしトマトジュースのリコピンだけ取りたかったら・・・
影山:
サプリメントだっていいということですから。
枝廣:
ですよね。そのあたりを、850円のトマトジュースでも、「それがいい」と言って飲みにいらっしゃる方がいる。「値段だけじゃないよね」ということですよね。
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