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アースポリシー研究所所長 レスター・ブラウン 聞き手 枝廣淳子  Interview02

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何が問題を引き起こしているのだろうか?

枝廣:
レスターさんは、農業のやり方や気候変動などの状況について話し、それを変えようと、長年、環境の分野で取り組まれていらっしゃいます。
私たちはより大局的に考え、取り組まなければなりません。人々の福利、社会、経済がいかに互いにつながっているか、また、その構造自体が多くの問題を引き起こしていることを認識しなければなりません。気候変動と生物多様性の損失などの問題は、実際のところ、問題ではなく、根本的な原因の「症状」です。私たちが直面している環境問題や持続可能性に関する問題の状況についてどうお考えですか?
レスター:
明らかに、私たちが今していることを続けたら、大変なことになります。現在の私たちの消費形態や傾向では、地球がもたないでしょう。幸せとは何か? テレビのコマーシャルによれば「幸せとは消費すること」です。「消費すればするほど幸せになり、人気者になる」というわけです。
しかし、私たちが幸せを感じたり、満足感を得たりするのは、消費とはあまり関係ありません。十分な食べものと住む場所さえあればいいのです。私は幸せです。実際のところ、たくさんのものを持っていないおかげで幸せです。ものがあるとそれを維持するために時間が取られます。大きな家やたくさんの電化製品や庭があると、本来、私たちを幸せにするはずのものの世話をするためにすべての時間を費やすことになり、実際にはいつも働かなければならなくなるのです。
枝廣:
そうですね。
レスター:
ですから、私たちは自分たちにとって本当の幸せとは何かについて考え始めなければなりません。その問いかけをし始めると、ほかの多くの質問への答えも見つかってくるでしょう。
枝廣:
ええ、その通りですね。なぜ人々は消費することで頭がいっぱいになっているのでしょうか? 多くの人々が消費こそ、幸せをもたらすと信じています。
レスター:
テレビのコマーシャルという、非常に効果的な刷り込みが原因です。幼い頃から目にするもので、すべてが私たちに「消費させよう」としています。
消費を思いとどまらせるテレビのコマーシャルはありません。すべてが消費を奨励しており、私たちは成長する過程で、「消費しなければならない」「これを持たなければならない」「あれを持たなければならない」というメッセージの攻撃に常にさらされるのです。
ですから、テレビのコマーシャルが私たちの生活を形作る強い力になりました。消費しなければならない、最新のファッションを、最新のモデルの自動車を、最新のおもちゃやゲームを持たなければならないという考えです。私たちは考え直さなければなりません。

変化の兆しが見えはじめている

レスター:
一方で、人々が疑問を感じ始めている兆しがあります。米国では過去数十年の間、新築の住宅は年々どんどん大きくなるばかりでした。それが今ではどんどん小さくなっています。自動車もどんどん大きくなっていましたが、今では小さくなってきています。
枝廣:
興味深いですね。
レスター:
自動車を運転するのをやめて、自転車に乗るようになった人たちがいます。駐車場を見つけなくてはならない、マイカーによる通勤よりも自転車で通勤するほうが、満足感があることがわかったそうです。
枝廣:
なるほど。レスターさんは、テレビのコマーシャルの攻撃によって駆り立てられている過剰消費は、多くの環境問題の根本的な原因の一つだとお考えですか?
レスター:
そうですね。間違いなくそうだと思います。私たちは自分たちのニーズを満たすためにとても多くのエネルギーを消費しています。例えば、休暇を過ごすためには、世界の裏側へ行かなければならない、さもなければ、休暇とは呼べないと感じているのです。だから、人々は欧州からカリブ海へ、あるいは、米国から世界のあらゆるところへ飛行機で出かけます。必ず、どこか「ほかの」場所なのです。
ですから、例えば、大量のジェット機燃料を使用せずとも、私たちがすることができる面白いこととは何か?と自分たち自身に問いかけなければならないのです。

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私たちは正しい方向へ向かっている

レスター:
航空機による移動は将来的に大きく成長すると予測されていました。そうした予測はもはや目にしません。多くの場合、航空機による移動が減少するでしょう。
いま動きのある分野の一つは、欧州や、現在では中国での高速鉄道の開発の分野です。バルセロナ-マドリッド間、ブリュッセル-パリ間などの都市や、中国のいくつかの都市では、航空機により移動を実際のところ廃止しています。なぜなら商業区へ行くには電車に乗るほうが速いからです。安全検査もありません。
枝廣:
本当ですね。
レスター:
そう、変化が起きています。私たちは正しい方向へ向かっています。その他にも、例えばワシントンDCにも、今では、パリのような自転車システムがあります。自転車ステーションは100カ所近くあり、クレジットカードが利用できます。
枝廣:
すごいですね!
レスター:
それがとても好評でね、現在、拡張が進められています。すでにバージニア州郊外まで広がっていて、メリーランド州郊外にも間もなく拡大されるでしょう。
枝廣:
そうですか。これによって市内の自動車の数は減りますか?
レスター:
自動車の数はすでに減少傾向にあったのですが、それ以上に減るのは確実です。市内における自動車の数についてもう一つ留意すべきことは、人々が自転車で通勤できるように、よりよい公共の交通システムと自転車にやさしい専用道路をゆっくりと実現しつつあるということです。
フランス・パリ市が提供している自転車貸出システム、ヴェリブ( Velib' )。

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