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幸せイニシアチブ共同代表 ジョン・デ・グラーフ 聞き手 枝廣淳子 Interview05

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過剰消費とひきかえに犠牲にされて来た、
私たちの「時間」。

枝廣:
今日はお時間をいただき、ありがとうございます。
ジョン:
こちらこそ。
枝廣:
まず、これまでのお仕事やご活動についてお聞かせいただけますか? どういった経緯で消費と社会と幸せについて取り組むようになったのでしょうか? 話せば長いお話かもしれないので、いくつか選んでくださっても結構です。
ジョン:
私はこれまで30年間以上、映画を制作してきました。映画を通して伝えたいことを表現するというのが私の活動です。そして1997年に、米国での過剰消費に関する『アフルエンザ』(消費伝染病)という映画を作りました。
その映画は、私がそれまで制作したなかで、最も多くの反響がありました。人々の共感を得たのです。みんな関心があったのですね。ですから、私はさまざまな場所での講演を依頼され、そのことにとても興味を持つようになりました。また、過剰消費という話題について人々が話す機会を作ることにも興味を覚えました。

そこから、私は過剰消費という問題について何かをしたくなりました。そして、それを「モノを消費すべきではないですよ。地球のために犠牲を払うべきです」と人々に対して言い聞かせるだけではない方法で行いたいと思いました。それではうまくいかないと思うからです。

その代わりに、私は、人々が過剰消費のために、今、何を犠牲にしているのかについて考えました。

少なくとも米国ではより多くの時間を犠牲にしていました。労働時間がますます長くなっていると確信したのです。人々は家庭生活や健康、環境などあらゆるものを犠牲にして、過剰に消費しています。

より多くを消費するためにより長い時間働く、それは幸せになれない「時間の使い方」。

ジョン:
そこで、私は「時間」の問題について取り組み始めました。「時間を取り戻そう」(Take Back Your Time)という団体を立ち上げ、「時間を取り戻す日」(Take Back Your Time Day)を実施しました。
すると、特に政策立案者が時間の問題についてあまり反応しないことがわかりました。というより反応しない人たちが多かったのです。彼らにとって、最大の問題の一つであるのに、何らかの真面目な方法で対処できることだと思わなかったのです。人生とはそういうものだとだけ思っていたのです。

そして、時間の問題について映画を作ったために、私はちょっとした「時間」の専門家になり、最近では少しやりやすくなりました。米国では、今でも、1年のある時期に、大体は夏ですが、『ニューヨーク・タイムズ』『ロサンゼルスタイムス』『ウォールストリート・ジャーナル』の各紙で毎年、米国人になぜ休暇の時間がもっと必要なのかについて話します。

2009年にブラジルで開催された国民総幸福(GNH)の会議でも講演の依頼を受けました。会議では、ブータンのGNH指標の9つの分野(注:心理的幸福、時間の使い方、コミュニティの活力、文化、健康、教育、環境的な多様性、生活水準、ガバナンス)が注目されていたので、私は「時間の使い方」の専門家として招待されたのです。そのとき私は幸せに関する一連の問題に関心のある人々と会い、とても盛り上がりました。私は、「このモデルのほうが、人々は聞く耳を持ってくれるかもしれない」と言いました。

その後、ブータンで作られた調査を私たち向けに短縮されたバージョンを用いることで、それが本当だったことがわかりました。私はそれを使ってシアトルなど米国のほかの地域の人々を調査しました。例外なく最も低いスコアだったのは、全国どこでも、「時間の使い方」の問題だということがわかりました。

枝廣:
なるほど。
ジョン:
ですから私にとって、これらのことがすべてしっくりきます。あらゆるものが「消費しよう」というメッセージを発信しているために、人々は消費するという衝動に駆られているのです。
消費するためには、もっともっと働かなければなりません。働く時間を増やすと、人との関わり合いがおろそかになります。人との関わり合いこそが幸せにとって最も大切なことなので、感情の豊かさが失われます。つまりは悪循環なのです。
枝廣:
そのとおりですね。

映画『アフルエンザ(消費伝染病)』が米国で大ヒット

枝廣:
そもそもジョンさんが過剰消費、つまり「アフルエンザ」に取り組もうとしたきっかけは何ですか?
ジョン:
率直に言うと、私は頼まれたのです。
私は常に時間の問題に関心があったので、以前、時間についての映画を作りました。米国では余暇の時間が十分になく、社会として急ぎすぎだといつも感じていました。ですから1994年に公共テレビ放送で『仮邦題:時間が足りない』(Running out of Time)という、なぜ米国人にもっと休暇が必要かについての映画を作ったのです。
その映画は大きな成功を納めたので、『仮邦題:お金か、それとも人生か』(Your Money or Your Life)を書いたビッキー・ロビンがその映画の初上映に来ました。ビッキーは、映画が終わると、観客席から降りてきて、私の肩に手をのせるとこう言いました。「ジョン、あなたは過剰消費についての映画を作らなきゃ。お金の工面では私が力になれるわ」。私は「ビッキー、君はたった今、『魔法の言葉』を言ったよ。テレビ局に来て、この件について話しましょう」と言いました。
そして、ビッキー・ロビンが次に、持続可能な消費に関心のあるピュー慈善財団とつないでくれました。ピュー慈善財団は、過剰消費についてのアイデアを練るために私に少しの補助金をくれました。当初、私はこの映画を『仮邦題:モノに生きる』(The Goods Life)というタイトルにするつもりでした。しかし、映画を制作中に、「アフルエンザ」という言葉を思いつき、「これこそぴったりだ」と考え、映画の構成も新しく練り直しました。
枝廣:
ほんとうにぴったりですね。
ジョン:
そして、『アフルエンザ』は米国のテレビで大ヒットしました。アンディ・ウォーホルは、「誰でも15分は有名になれる」と言いましたが、『アフルエンザ』は私の「15分」でした。
枝廣:
なるほど。日本でも有名になりましたね。
 
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