- 新井:
- 投資先であるいい会社を一覧にして公開しています。また、運用報告としてお客様に投資先を実際に見ていただいています。投資先の現地にお客様をお連れすることによって、「お金じゃないよな。この会社を支えなきゃ駄目だよな」と思ってもらう機会をどれだけ増やせるかが大事だと思っています。いい会社とはどういう会社か、「新井が言っているから」ではなくリアルに見ていただく。今はほぼ毎月のように行っています。
- 私たちがやっている活動は、「投資先のファンになりましょう」ということ。なので、お金も出します、消費者にもなります、実際お客様に見ていただいて、触れていただいて、駄目なところがあれば言っていただく。
- 駄目なことに関しては、当然その投資先に伝えます。その対応を見て、いい会社かどうか、投資を継続するかどうかを判断します。「一部のお客さんが言っているだけでしょう」とクレームを宝にできない会社は、"その程度の会社"ということになります。
- 投資先を公開することによって、自分一人では目が届かないところを、今、(受益者)1万6千人の目で、いい会社かどうか見てくれているんです。僕らが「いい会社」と言い切ってしまったので、悪いところがあればあがってきます。「いい会社と言っているのに、こんなことをしています。いいんですか」と。その点を会社さんに伝えています。いい仕組みでしょう?
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鎌倉投信株式会社「いい会社リスト」(2017年2月現在)
ご縁を大事にする
- 枝廣:
- つながりを大事にしているのですね。私はデニス・メドウズという先生からシステム思考を学んで、何とかそれを日本に伝えたいとずっと活動をしています。システム思考も、つながりをたどって全体を繋いでいくという考え方です。
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デニス・L・メドウズ
- 新井:
- 「分断して効率を上げていく、というやり方は違う」と思ったのは、実際に会社を見るようになってからです。いい会社もそうですし、人間もそうですけれども、つながりを大事にする。ご縁を大事にする。
- 効率とは追うものではなく、「結果的に効率的である」ということなんです。無駄を排除しようとすること自体が価格競争に陥ってしまう根源になっている。企業は人でつくられているので、人間そのものです。人には個性があったほうがいいに決まっています。会社も個性があったほうがいいんです。得意なものもあれば、不得意なものもある。完ぺきである必要性はまったくないのに完ぺきを求めようとするのは、おかしいと思っています。
- 無駄もあり、失敗もあり、いろいろなことがあるけれど、目指すべきところがちゃんとしているというほうがとても大切で、魅力的で、人間らしいことです。機械に置き換えられないこと、価格競争に巻き込まれないことにもつながります。
- 投資先とのつながりも、お客様とのつながりも、すごく古くさいものにしたい。要は、昔あった金融を新しい形で取り戻したいだけなんです。信頼、そして共感というものでつながっていて、何だか数値化できないけれど心地いいという......。それが成立するということを証明したい、もう一度見直してつながりをつくりたいというのは、鎌倉投信の根底にある。経営理念そのものが3つの「わ」※ですから、つながって、広がっていく、ということをしていきたい。
- ※3つの「わ」・・・日本の心を伝える「和」、心温まる言葉を大切にする「話」、社会や人とのつながりを表す「輪」。
- 枝廣:
- 効率を測るときの時間軸をどう考えるかも大事ですよね。受益者を投資先に連れていくということは普通の金融機関はやらない。でもそれをやり、ニュースレターを出すからこそ、1万6千人からフィードバックがある。実はすごく効率のいい仕組みですね。
- 新井:
- そうです。はたから見るとすごく非効率に見えますが。僕たちはそういう輪をひろげて行きたい。つまり企業と投資家が一緒になって歩んでいく、そして企業と企業が協力をして歩んでいく。そういう構図をつくりたいと思っています。
- たとえば、地域の会社が多ければ多いほど、地域へ受益者が出かけてくれます。それだけで大きな消費になります。団体さんが観光バスで、泊まりがけでやってくる。宿がいっぱいになるわけです。投資先の大企業とソーシャルベンチャーが一緒になって動いてくれれば、大企業の社会価値も上がるし、ベンチャーも生きていけるようになるわけです。
- 昔の金融機関は、「こういう社会にしたい」という世界観、社会観にお金を投じて、それによってより早くよりよい社会に近づける、ということをやっていたはず。それが今、短期的な利益というものがすべてになってしまって、長期的な思考が全部失われてしまったんです。
現場を信じることができなくなったときに
企業は大企業病になる
- 枝廣:
- 日本はどこで長期的な思考を失ったのでしょう。
- 新井:
- やはりバブル崩壊と、それに伴う不良債権処理としてバーゼル規制※がかかったこと。こここそが転換点だと思います。
- ※バーゼル規制・・主要国の中央銀行が加盟するバーゼル銀行監督委員会が定めた、国際的な金融活動を行う銀行について信用リスクなどを担保するため一定以上の自己資本比率を保つこと等を求める指針。
- 現在、当然ながら担保がなければ不良債権のように扱われてしまいます。この掛け値だったら「これは不良債権になる、ならない」を人が判断するというより、機械が判断してほぼ決まってしまう。つまり「管理型になった瞬間に終わるんだな」と思います。でも、心はあったはずなんです。みんな想いがあったけれども、「管理」に縛られてしまった。これは大企業にも言える。現場を信じないというのもそうですね。
- そうではないあり方もあります。ヤマトホールディングスさんが鎌倉投信の投資先になっている理由は、大企業になっても現場を信じているから。現場を信じることができなくなったときに、企業は大企業病になる。完全な管理下におきたいというのは、評判リスクを避けたいからだけでしょう。そこをヤマトさんは、傷付いても現場を信じ切る。たとえばクール便の問題があっても、メール便の問題があっても、現場を信じ続ける姿勢は変えない。この会社は「おかしい」んです(笑)。
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- 枝廣:
- 大きくて、「おかしく」いられるって、すごいですね!
- 新井:
- すごいです。あれだけの大企業ですけど、やっぱり違います。1個1個が違う。何が違うかと言うと、意識がすべて「現場」に向いている。現場のために本部があるとみんなが思っている。現場を支えるためにどうしたらいいかを考えるわけです。それがうわべだけではないんです。本気で言っている。行動でわかります。だから、彼らは外からどんなに言われても、魂を失わない。それが企業文化そのものになっています。
- いい会社というのは、やはり現場を見ないとわかりません。数字ではわからない。でも感動的な話ってそこにあるんです。投資先ではないですが、伊那食品工業さんもそうです。朝7時から社員全員で清掃を行っている。それだけの思いを社員がもっているかどうか、それだけです。ゴミがそこに落ちていたら、社員が恥ずかしいんです、自分の愛している会社だから。他人ごとでなく自分ごとになっているんです。やりたくないことを無理にやらせているのであれば、結果は伴わないでしょう。企業経営はきれいごとではなく、大変なんです。
- 枝廣:
- そういう会社が増えていくといいですね。
- 新井:
- そうなんです。だから私たちは「いい会社」をお客様に見て、知っていただいて、「こんなすてきな会社があるんだ、自分のお金が役に立っていることを誇りに思う」と思っていただき、喜びに変えてほしいんです。