やるべきことはなくならない
- 枝廣:
- 最後に2つお聞きします。1つは、新井さんが次に力を入れていくのは何か。もう1つは、私たちの暮らしや日本経済は、このまま続いていくのか。
- 新井:
- 後の質問から先に申し上げると、私たちはそもそもこの「結い2101」というファンドを設定した時に「社会課題を解かない限り、日本株の長期的な上昇はない」と考えていました。もう成長はないと思っているんです。でも、社会課題を解いていく会社は必ず必要とされるので、そういった会社は成長します。そのほかは衰退していって、大きな日本株全体の成長はないだろうというのが、もともとの考えです。
- 私たちが次にやっていかなければならないことはたくさんあります。鎌倉投信が目指しているという意味においては、1つは、社会課題にまだまだ自分たちが対応できていないこと。第一次産業の中でも水産業については、僕らはどうあるべきか、どういう投資先を考えていくべきかは、まだ模索中です。それ以外の社会課題で言うと、たとえば一度罪を犯してしまった人を、どうやって社会復帰させるかということです。日本には失敗を許せない文化が存在しているので、これが最も難しい社会課題だと思います。
- 社会課題というのはこれからもたくさん出てくると思うので、最前線の人たちに話を聞いて、その中で動いていかなければいけないと思っています。ですから、やるべきことはなくならない。自ら動いて、社会起業家を育成し、しっかりサポートしていきたいですね。
- 次のステージという意味では、実は鎌倉投信自体は残高(ストック)のビジネスですから、お客様の財産が増えていくにつれ、結果的に鎌倉投信も報酬が増えていきます。一定のコストを除けば、ここから先は利益が膨らんでいくだけですので、その一部を寄付などの社会貢献に回すということを決めています。
- そのため、今度は寄付先として「いいNPO」のリスティング(一覧表にして公開すること)を検討しています。私たちがやりたいのは、贅肉だらけのNPOや財務、経営、開示が駄目なNPOをなくし、筋肉質の、きちっと食べていけるNPOをつくっていくこと。「いい会社」と「いいNPO」がリスティングされて、ようやく鎌倉投信が成就するかなと思っています。僕の妄想なので、すみません(笑)。
- 枝廣:
- それはずっと考えておられたのですか。
- 新井:
- はい、起業した当時から。やっと成就できる入り口まで来たかな、という感じです。
役に立っていると実感したとき、人は一番喜びを感じる
- 枝廣:
- お話を伺っていると、いろいろなことをされていますね。毎朝、株を売ったり買ったりという地道なこともされていて。
- 新井:
- やはり努力はし続けなければいけないし、プロとしてやるべきことはちゃんとやります。しかし、それ以外の時間は精いっぱい社会のために使いたいと思っています。お客様も「自分の代わりにやってくれ」と願っておられるから。僕は、お客様のお金を不労所得にはしたくない。だから僕は精いっぱい労働するんです。投資先の企業のために役に立ち、お客様に返るという循環をつくりたい。
- 光を感じるのは、上場企業の経営者の中でも少しずつ、私たちの価値観に共鳴してくれる人たちが増えてきていることです。それが救いだと思っています。
- 僕は人に恵まれた。人というのは、自分でなく周りの人がつくってくださるので、自分をつくってくださった方々に応えたい、応えるような人生を送ろうとしているだけです。鎌倉投信のお客様、株主やいろんな先生方が、本気で応援してくださっている。そのときに鎌倉投信がホンモノでなければ、その方たちが嘘をついたことになってしまう。だから、ご迷惑をおかけしないように、鎌倉投信があるべき存在でなければいけない。だから「ヘンタイ」を突っ走ろうとしています。
- 本にも書きましたが、僕の母親は身体障碍者です。障碍者がそばにいるということが当たり前だったので、障碍者に対する意識は普通の人と違う。障碍者にもモチベーションはある。プライドもあるし、かわいそうな人ではなく、普通の人間なんですよ。それが僕の根底にあるので、「彼らの中にも優秀な人もいれば、そうでない人もいる。だから優秀な人を雇いなさい」と言うんです。
- 彼らのモチベーションを上げることができない経営者が多すぎるんです。だから鎌倉投信は、形式雇用するような社会ではなくて、彼ら・彼女らが「仕事って楽しいね」「大変だけど楽しいね」と言えるような社会にしたい。エフピコさんで働く障碍者の社員が言うんです。「土日はいらない。早く月曜になってほしい」って。なぜか。自分の生きがいだからです。
- 「かわいそうな人」って、ずっと思われていたら、生きるのが嫌になります。そうではなくて、「君がいるからこの会社は成り立っているんだ」と言われたいですよね。役に立っているということを実感したとき、人は一番喜びを感じるんです。そういう社会をつくりたい。そのためには、それを伝え続ける"伝道師"にならないといけないんです。「ヘンタイ」であり続けなければいけない。
- 枝廣:
- お忙しいと思いますが、ご自分の持続可能性にも気をつけてくださいね。幸せなお忙しさだと思いますけれど。
- 新井:
- はい。僕は幸せ者です。皆さんが心配してくださる。教え子が健康器具を家に送ってきて、「血のつながっていない親だと、僕は勝手に思っています」と言ってくれて。幸せすぎて、泣きました。神様はどこまで僕にやさしいんだろうと。
- 「結い2101」の説明会に赤ちゃんを連れてきたお母さんから、「この子のために加入します。この子が大きくなったとき、いい会社がもっと増えてほしいと思うから」と言われた時も泣きました。本当にうれしい。こんな素敵な人たちがいる国ですから、素敵にならないわけがないです。
- 枝廣:
- 本当にそのとおりですね!また続きをどこかで。ありがとうございました。
新井 和宏(あらい かずひろ)
鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長
鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長
2008年11月、志を同じくする仲間4人と、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い 2101」の運用責任者として活躍している。横浜国立大学経営学部非常勤講師(2016年3月まで)、特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」理事。
- 鎌倉投信株式会社
- http://www.kamakuraim.jp/
- 投資信託「結い 2101」
- http://www.kamakuraim.jp/yui2101/
- 特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」
- http://iikaisha.org/