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JICA(国際協力機構)(Schumacher College留学中) 高野翔 聞き手 枝廣淳子 Interview14

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私たちが求める「幸せ」とは?

枝廣:
まさに正常細胞のように、自分だけで走るのではなく全体で走る、ですね。例えば日本では生活水準を上げるために健康を害すといったようなことがあります。何のために生活水準を上げようと思っているかといえば幸せのためなのに・・・。なぜそういうふうになってしまうのでしょうかね。
高野:
どの国でもその国なりの経済があったと思うんです。ブータンではペルジョア、日本では経世済民。経世済民もお金の概念だけでなく、国を治めて民を救うという広範なものですよね。ただ、どの国もグローバル化の影響もうけて、経済の相互関係するいろんな要素がある中で、数字としてわかりやすいお金の価値へと、バランスを崩して一元的に収斂してきてしまっているということなんでしょうね。
枝廣:
一方、生活水準が上がったのに多くの人が幸せになっていないというアメリカの調査もあります。みんなが幸せになると相対的に比べて不幸せに思ってしまう。正常細胞のように、周りを見ながら自己を規定したりうまく作用するのと、周りを見るがゆえに不幸せになるのと、何が違うのでしょうか。
高野:
そうですね、GNHで話すのであれば、おもしろいのは、「sufficient」という「足るを知る」という考え方ですね。GNHの一つの指標である生活水準の所得をみると、例えば年間収入100万円が「足るを知る」ラインとしてある場合、200万円稼いだ人も、1000万円稼いだ人も、1億円稼いだ人も、GNHの33ある指標の一つとして同じように充たされていると見なされます。稼いだ数字がいくら高くなっても、33ある指標のうちの一つが充たされていること以上にはなんら幸せへの影響はないとみるんです。
ただ、我々の今の世界の価値観は、「より多くあるほうがいい」というモノサシですよね。そこは少し細胞とは違うのかもしれませんね。細胞にとって生命を維持していく上では、ひとつひとつの生きていくために必要な要素・物質を、充たされている以上に体内に抱えるということは、細胞にとってプラスにならないのかもしれません。それよりも生命体として命を支えている様々な要素の調和あるバランスのほうが大事なのではないでしょうか。細胞がもっている生きるための調和的なバランス感と人間社会がもっている長さを測るモノサシには大きな違いがあるということかもしれませんね。
枝廣:
比較ということでいうと、たとえばラダックは昔、貧しいけれど幸せな人が多かった。でも西洋文化が入ってきて、自分たちがこれだけ貧しいのだということを知り、比べるようになると、何もないといって不幸になったということがあります。ブータンは現在、テレビもインターネットもどこにいても同じように使えて、日本よりもスマートフォンが流行っているかもしれないような環境です。いろいろなところと比べられるツールはあるけれど、比べることで不幸せにはなっていないですよね。
高野:
可能性としては不幸せにもなり得るんだと思います。ただ、防波堤を持っているので、これがそのスピードを遅らせる効果が私はあると思います。やはり世界はつながっているので、ブータンにその影響がないかと言われれば嘘になる。やはり引っ張られるでしょうし、しかも情報が快感に近いものを伴って入ってくるので、昔よりも不幸せな状況が増えてくる可能性はあるのだろうと思いますね。
ただ、GNH調査をして「あなたにとって幸せは何ですか」と聞くと、やっぱり「身近なもの」ですよ。「家族が健康」とか「隣の人が幸せそうに笑っている」ですよね。最終的にはみんな分かっていると思います。大事なことを。それは日本人も一緒ですよね。
枝廣:
「隣の人が幸せそうだから、私も幸せ」とは日本人はなかなか言えないですよね(笑)。
高野:
GNH調査がおもしろいのは、自分だけじゃなくて、家族はどれだけ幸せですかとか、家族の状況も聞くことです。こういう質問が入っているのは、私は好きですね。
枝廣:
宮沢賢治がいう「社会全体の幸せになるまでは、個人の幸せはない」ですね。
高野:
それに近いですよね。集合的幸福感ですよね。
枝廣:
微生物や細胞の話と平行になりますが、切り分けて、一個人の幸せを足し合わせて、平均して国全体の幸せを他の国は測ろうとしているけれど、切り分けた段階で集合的な幸せはもう切れてしまっていますよね。
高野:
そうですね。
枝廣:
一方で日本やアメリカなどでも少しずつGDP至上主義みたいな経済至上主義はおかしいよねとそこから降りていく人たちや違う価値観をもつ人たちも増えてきているので、その人たちがどこかの段階で主流になるまではブータンが保ち続けてほしいですね。
高野:
目には見えない防波堤がこれからも機能してくれたらと願っています。
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