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旭山動物園園長 坂東 元 聞き手 枝廣淳子 Interview15

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当たり前の中に価値がある
動物園が果たす役割、伝えたいもの

枝廣:
動物園に行っても、命を感じる感覚そのものがなくなっているのでは、と話しましたけど、目の前の相手の感情すら、感じないようになっているのかもしれないですね。
坂東:
アンテナがないと感じられない。小さい時に、アンテナをどれだけ立ててあげられるかだと思います。
枝廣:
そういう中で、だんだんバーチャルな世界になっていく中での動物園の役割は、ますます大事になりますね。
坂東:
動物たちは、何千万年、生命観がぶれないですよね。その中でちゃんと調和とバランスを取って生きてきている。人間関係は、10年単位で見ても生命観がぶれる。そのとき言っている正しい基準が変わる生き物なんです。だから、変わらずに生きる仕組みがあって、その中で自分たちが変わっていることに気づける場でもあってほしいと思います。ふっと何か、「こうじゃないのかも」とか。
うちの動物園では、夕方行くと、フクロウに餌のヒヨコをそのままやります。みんな見ていて、「えっ! フクロウ! あれ、ヒヨコじゃん」って。「気持ち悪い」「かわいそう」とか言うけど、でも考えてみたら、食べないと生きていけない。
北海道の森林に生息するエゾフクロウは、昼間はほとんど活動せず、夜になると鋭い爪でネズミや小鳥などを捕食する。北海道の森に入り動物を観察する雰囲気を再現した「北海道産動物舎」内にて展示。

北海道の森林に生息するエゾフクロウは、昼間はほとんど活動せず、夜になると鋭い爪でネズミや小鳥などを捕食する。北海道の森に入り動物を観察する雰囲気を再現した「北海道産動物舎」内にて展示。
(写真は、旭山動物園サイト「動物図録」より)

結構ショッキングらしいんです。フクロウって、すごくかわいいイメージをみんな持っている。それがヒヨコを食べているから。それを見て「キャー」みたいになります。でも、何かには気づいてくれていると思います。当たり前のことに、そうだよねと。都会の動物園みたいに、お客さんが「くさい」と言うから、ペットと同じような消臭剤入りのドライフードをあげるみたいな発想は、うちにはない。
枝廣:
動物園の柵のあちこちに、「お尻向けたら気をつけてください」と書いてありますね。
坂東:
そう。たまにかかるんです。うちはすごくにおいの強い動物園です。カバだってあの距離にいるわけですから。たまに「くさい」と言っている人いますけど、でも、ペンギン見ていて、「ペンギンくさい」とか言う人はあまりいない。自分が肯定的にとらえれば、その存在を認められる。においも含めて。好きな人のにおいなら認められる。これがペンギンのにおいなんだねとか、当たり前に気づいてもらえることも含めて、動物園なのかなと思っています。
枝廣:
動物園って、子どもが行く場所で、大人は付添いで行くというイメージが強いですけど、大人が行くといいですね。今増えているのかな。
坂東:
うちは、大人は多いですよ。ただ、動物園全体で言うと、少子高齢化なので、大人が来てくれないと、入園者数の絶対数はすごく減っていきます。ただ、社会を変えられるのは大人なので、大人が来て、何か一つでも気づいてもらえれば、と思います。たとえば、「そういえば何十年前こうだったよな。何で今、こんなふうに言っているんだろう」とか。社会を動かしている側の人が、何かふっと気づいてくれれば、可能性はもっと大きいのかもしれないですね。
枝廣:
動物園の経営はどうなのですか。
坂東:
動物園の話は結局そこに行きつきます。入園料収入もありますし、企業寄付とか個人の寄付が大きいです。
ヨーロッパなどは遺産寄付があります。小さいときに動物園に行きました。友の会の会員みたいなのになってくれました。何かプロジェクトがあったら寄付してくれました。そういう人たちが亡くなったとき、財産のこれだけを動物園に、と。それがすごい額なのですって。そのことが自分の名誉にもつながる。自分の名前がそこに残って、孫たちにつながっていく。そういう価値の巡り方ができている。
日本もそれを目指さないと。地方の小さな自治体では、動物園を抱え続けるのはかなり厳しくなると思うので、企業とかいろいろな人の応援が必要です。日本は動物園の入園料が安いんです。アメリカでもヨーロッパでも千何百円から2,000~3,000円と、水族館と同じくらいです。
枝廣:
たしかに、日本では水族館のほうがずっと高いですね。
坂東:
それを疑問に思わないですよね。でも、生きているライオンを生で、500円で見ることができてよいものかどうか、と考えてみてほしい。キリンがそこにいることは、本当は1,000円で見られて良いものではないかもしれない。
払ったお金に対する価値という感覚がどうしてもあると思います。だから動物園はすごく安く見られる。気軽に見られるという良い面もあるんだけど、気軽に見えてしまう生き物だから、「そいつらが大変なんだよ」と言ってもその価値がわかりにくいという面もあるかもしれない。
枝廣:
本当は、小学生でも中学生でも、お小遣いをもらうようになったら、50円でも自分でお金を払って見に来ないといけないのかもしれない。
坂東:
映画を観ても2~3千円する時代に、これだけの動物を800円ぐらいで見られていいのかなと思うんです。日本では特に公立の動物園になると安い。うちはそれでも高いほうですけど、どこかが1,000円の壁を破っていく必要がある。別に収入源という意味ではなくて、こういうものが見れることの価値を伝えるために。中学生以上なら、100円ぐらいは。
枝廣:
価値あるものにちゃんと払う。
坂東:
正当なものには正当なものを支払う。日本の動物観の育たなさは、そこにもあるかもしれない。動物園って、すごく安くて、安易に見られる場所になっているんですね。だけど、安いから、その分、正当な整備ができないから、安いから汚くても仕方がない、みたいに。
 
枝廣:
悪循環ですね。
坂東:
悪循環です。欧米などから見たら、「何でこんなふうにしかできないんだ」と言われてしまう。どこかで好循環に切り替えないと。動物園は、戦後のまま、50年前、60年前の発想のまま来ているんです。見せ物の延長線上でしか見ていない。気づいている人たちが出てきていることも事実ですが、でも、全体的には、「安いし、ちょっと行ってみるか」。だから、見せ物でいいじゃないか、という感じも強い。
ペンギンの散歩が人気ですが、あれは本当にペンギンの運動のための散歩なので、お客さんがいなくてもやっている。どうせだから見てもらおうよ、というだけです。ただ歩いているだけなんです。当たり前がすごく感動を呼んだりする。
毎年雪が降り積もった時期に行われる「ペンギンの散歩」の様子。

毎年雪が降り積もった時期に行われる「ペンギンの散歩」の様子。

 
枝廣:
感動しました。ついて歩いちゃいました。
坂東:
別に媚を売るしぐさはないんです。アザラシも、ただ泳いでいるだけ。別にショーをしているわけじゃない。だけど、当たり前に素晴らしさを感じてもらう。うちはそれに徹しているので。オオカミも、ああいう遠吠えしている姿とか。彼らの日常が素晴らしいわけです。特殊なことだから価値があるんじゃない。きっと人間もそうなんです。芸をすることが価値じゃない。
 
枝廣:
ありのままで価値があるはず。
坂東:
みんなの当たり前の中に、素晴らしさ、キラキラするものが必ずある。そんなことも含めて。等身大の動物たちで、どこまで人の気持ちを引きつけられるのかなというのを、ずっと考えています。背伸びをしても続かないので。
 
枝廣:
いろいろ考えさせられるお話、本当にありがとうございました。
Profile

坂東 元(ばんどう げん)

旭山動物園園長。
ボルネオ保全トラストジャパン理事。

写真:坂東 元

1961年北海道旭川市生まれ。酪農学園大学酪農学部獣医学修士課程卒業。獣医となり86年より旭山動物園に勤務。飼育展示係として行動展示を担当。97年の「こども牧場」から「ぺんぎん館」「あざらし館」「ちんぱんじー館」「レッサーパンダ舎」「エゾシカの森」「きりん舎かば館」などすべての施設のデザインを担当,数々のアイデアを出し具体化してきた。また手書きの情報発信やもぐもぐタイムなどのソフト面でも係の中心となり具体化,システム化を図ってきた。現在は,ととりの村の設計を手がけている。
ボルネオでの活動も本格化しており、マレーシア国サバ州での野生生物レスキューセンターの建設に着手し第一期工事を終える。
2009年より現職。
著書に『ヒトと生き物 ひとつながりのいのち 旭山動物園からのメッセージ』(天理教道友社、2014年)、『動物と向きあって生きる』(2008年、角川学芸出版)、『夢の動物園』(角川学芸出版、2008年)、『旭山動物園へようこそ!』(二見書房、2006年)。

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