半農半Xの持つ発想力
- 枝廣:
- もう1つお聞きしたいのですが、私も講演で、特に企業とか経済界の人と話をするときに、半農半Xの話をさせていただいたくと、「感覚的にはわかるけれど、みんながそういうふうに会社でどっぷり仕事をして、死ぬまで働くのをやめたり、モノを買うことをやめたりすると、日本の経済は止まってしまうんじゃないか」という質問をいただきます。そういうときに、どのようにお答えになりますか?
- 塩見:
- 確かに、まだまだ縛られていらっしゃる方は多いですよね。ただ、今は農のあり方など、いろんな意味で大きく変えるラストチャンスなので、多くの人に納得してもらえるように、グランドデザインを提示していきたいと思っています。
- また、僕としては、半農半Xをすることによって、専業農家の予備軍が生まれたらいいなという面もあります。田んぼで稲刈りをしたことがあるというような農作業の経験者もまだまだ少ないと思いますので、少しでもそういう予備軍を作りたい。
- 農業を配慮できる人口が、この国に何%いるかはとても重要で、まだ少ないので、そのためには半農半Xという形から入る必要があるし、農とXをうまく絡めることで新しい発想も出てくるので、とても重要なことだと思います。
- たとえば、2011年に「半農半アート展」が東広島であって、茨城取手では「半農半芸」もありました。農と芸術家でやっていくと、新潟の「大地の芸術祭」みたいなことができるだろうし、何がうまれてくるかわからないというか、もしかしたらもう1つの経済効果が出てくるかもしれないし、すごく大きな可能性を持っています。
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
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半農半Xというのは、
自分で自分の公式を作って完成させるもの
- 枝廣:
- 今、日本の人口全体を考えたときに、半農半X的な生き方をしている人や、半農半X的なあり方や生き方を求める、もしくは積極的に応援するという人たちは、どれくらいいそうな気がしますか?
- 塩見:
- 3%くらいでしょうか。新聞とか、NHKの「ラジオ深夜便」などでもとりあげていただいて、いろいろな人たちに届きつつあるけれど、常時、半農半Xというコンセプトを取り出せる方はまだ少ないと思うので。
- それは、もしかしたら食とか農を大事にしている人口と同じくらい、もしくは原発のことを考えているような人と同じくらい。大半はまだまだ、そういう方向ではないものを目指していらっしゃるかなと。
- 枝廣:
- 3%くらいの感じですね。ただ、たまたまこれまで半農半Xというのを聞いたことはないけど、聞くと、「そうだよね」と言う人もすごく多いですね。
『半農半Xという生き方【決定版】』
- 塩見:
-
そうですね。8年前に本を出させてもらいましたが、伝えられていないだけですね。原発のこともエネルギーのことも、ありとあらゆることがまだ伝わっていなくて、10回であきらめないで11回とか、1万回とか、言い続けないといけないし、そのためには、ビジュアルとか表現方法とか変えていかないといけない。今までのやり方を変えていく必要もあると思います。
- 枝廣:
- でも、先ほどコンセプトが大事とおっしゃったようにご自分が伝える部分と、コンセプトの力で広がっていく部分と、きっとありますよね。半農半Xというコンセプトはその点、それだけで伝わる力があると思います。
- 塩見:
- ありがとうございます。僕も、半農半Xというのは自分のコンセプトではなくて、オープンソース、オープンコンセプトみたいなことを宣言しているので、今はすごくいい感じで多くの方が伝えてくださっていると思います。
- 枝廣:
- 半農半Xというコンセプトが、すごく緩やかな定義というか、何でもありとおっしゃいましたが、「これはこうでないといけない」という世界でずっとやってきた人たちから見ると、その緩やかさがすごく特徴だなと思います。そのあたりは、塩見さんのご経験とか試行錯誤ですか?
- 塩見:
- いかに言い訳をなくしてもらうか、という作戦でもあります。自分もそうですが、結構、人は言い訳をしますよね。なので、「これぐらい緩やかならできませんか」というところで、あとは好きにチョイスしてもらえばいいと思っています。
- 半農半Xというのは、自分で自分の公式を作って完成させるものです。宮沢賢治が「未完成は完成である」というようなことを言っていますが、半農半Xも未完成で、その人が最後に作り上げるものなので、それが意外といいなと思われる方がオリジナルで作れる。
半農半Xを世界へ
- 枝廣:
- 最後の質問です。これからやっていきたいことを、ぜひ。
- 塩見:
- 半農半Xを英語圏に本格的に伝えていけたらと思います。英語圏人口が17億くらいでしょうか、まずはその方たちに伝われば。インドとか、北欧とか、フランス、さらには中国語圏など、半農半Xのコンセプトを世界に向けて何とかして伝えていきたいと思います。
- 自分ももう46歳になったので、年相応の仕事をしていかないといけないのかなと思います。小さな農を続けながら、コツコツ汗を流しながら草を取る。それも大事にしながら、何か社会的な活動をしていきたいなと思います。
- 枝廣:
- 半農半Xを世界に広めていくのは、何をその先に描いていらっしゃるんですか?
- 塩見:
- やはり持続可能な世の中と、一人ひとり輝ける社会ですね。おばあさんも、道行く人もスポットを、光を浴びていくようなことができたらいいなと思います。
- 枝廣:
- 私は、日本も世界も、持続可能性の問題を解決する上での1つの大きな介入点というか、働き掛けをしないといけないのが、社会のペースを落とすということだと思っているのですが、半農半Xが世界に広がると、絶対世界のペースは落ちると思います。そういう意味でも、広がってほしいなと思います。また、世界のネットワークとか、どうやって広げていくかという話をできるといいと思います。今日はいろいろお話を伺って、とても楽しかったです。ありがとうございました。
塩見 直紀(しおみ なおき)
半農半X研究所 代表
1965年、京都府綾部市生まれ。フェリシモを経て、2000年、「半農半X研究所」を設立。21世紀の生き方、暮らし方として、「半農半X(エックス=天職)」コンセプトを1995年ころより提唱。また、「NPO法人里山ねっと・あやべ」のスタッフとして、綾部里山交流大学等を企画。編著書に『綾部発半農半Xな人生の歩き方88』『半農半Xの種を播く』など。1冊目の『半農半Xという生き方』は中国語訳され、台湾でも出版(現在8刷)、さらに中国にも広がっている。
- 「塩見直紀ホームページ」
- http://www.towanoe.jp/xseed/