経済成長を考える

「定常経済」の定義

定常経済の定義は、「大きさの変わらない人口と資本ストックを、可能な限り低いレベルでのスループットで維持する経済」です。

まず、定常経済とは、基本的に一定の人口と一定の資本ストックを持つ経済だということです。ここでの資本ストックは、幅広く定義しており、すべての耐久消費財も生産財も含まれます。

人間も資本ストックも、エントロピーの法則に従っています。人間は年老いて死んでいきますし、机や椅子にしても壊れて取り換えなくてはならなくなります。

エントロピーの法則に従う人口や資本ストックを一定に保つには、維持したり置き換えたりするための資源が必要になります。

たとえば、「橋」という人工物のストックを考えると、橋を一定の状態に保つためには、メンテナンスが不可欠です。古くなれば、掛け替えも必要でしょう。橋という人工物を維持するために、私たちは、地球から材料を取り出し、最終的には地球に捨てています。

この資源を地球から取り出し、汚染物として地球に排出するまでを「スループット」と言います。「マテリアル・フロー」という言葉で指すものと同じと考えてよいでしょう。

定常経済では、この資源のスループットをできるだけ低いレベルにして、地球が支えることのできる力(扶養力)の範囲内に保ちながら、ストックを望ましいレベルで維持します。

以上が、「大きさの変わらない人口と資本ストックを、可能な限り低いレベルでのスループットで維持する経済」という定常経済の定義の説明です。

「定常経済とは、一定のストックを最小限のスループットで維持するもの」という定義を、逆から見ると、「定常経済とは、一定のスループットで支えられる範囲でストックを最大化するもの」とも考えられます。同じことです。「スループットを一定にする」というほうが、地球の扶養力との関連が直接的でわかりやすいかもしれません。

定常経済では、技術開発は「最少のスループットで一定のストックを保つ」ために行われます。

定常経済での「進歩」は、物理的な「量の拡大」ではなく、「質の向上」を通して得られることになります。

ハーマン・デイリーによる「定常経済の定義」はこのようになっています。

人と人工物の一定のストックを持つ経済であり、維持のための低いレベルの「スループット」によって、つまり、生産の最初の段階から消費の最終段階への物質とエネルギーの最も低い実現可能なフローによって、ある望ましい十分な水準に保たれている。
(Daly, Herman. 1991. Steady-State Economics, 2nd edition. Island Press, Washington, DC. p.17.)

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