現在の経済成長は "不経済成長" である
「経済成長」という言葉には、「経済の成長」という意味だけではなく、「経済的な成長」というニュアンスを感じる人も多いようです。
「経済的な成長」とは、そのために必要な費用よりも、得られる便益のほうが大きい、つまり、実質的にプラスになる成長という意味です。
しかし実際には、「経済」の拡大が「経済的」とは限りません。「拡大すること」の費用より便益が大きい場合もあれば、逆に、費用のほうが大きい場合もあります。
「経済」の成長と「経済的な」成長はイコールではないのに、この2つをごっちゃにして、「経済成長は良いものだ」と考えている人が多いようです。
かつてとは違って、今では、環境問題を含む、経済の成長のための費用のほうが、生み出される便益よりも大きくなっており、「不経済な成長」になっています。
企業でも、生産を拡大する限界便益よりも限界費用が大きくなる時点で、拡大をやめますよね? 費用が利益を上回るのにどこまでも生産を拡大する企業はありませんよね?
同じように、経済成長の限界便益よりも限界費用が大きくなった時点で、経済を成長させ続けるのはやめて、「定常経済」に移行するべきなのです。
「限界費用」「限界便益」は、ミクロ経済学で使われる用語で、限界費用とは、財やサービスを新たに1単位生産するのに必要な費用のこと、限界便益とは、新たに1単位生産することにより得られる便益のことです。マクロレベルのGDPの成長にこの考え方を導入すると、この費用と便益の関係は図のようになります。
GDPが1単位成長するごとに、限界費用は増加していくのに対して、限界便益は減少していく傾向があります。費用が便益を上回るのを避けるためには、限界費用と限界便益が等しくなる時点で、GDPの成長を止めるべきです。費用が便益を下回っていれば、GDP成長は経済的であるのに対して(グラフの緑色の部分)、費用が便益を上回ると、GDP成長は不経済になります(茶色の部分)。
参考:CASSE, Downsides of Growth(http://steadystate.org/discover/downsides-of-economic-growth/)